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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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出航

 王都の港に、バルとラーラとミリはパノを見送る為に来ていた。パノが乗る船の前で三人は、その船の船長であるワと向かい合う。


「いるって聞いて降りてみたら、本当にラーラがいるじゃないか」

「ワさん。久し振り」

「ああ。いやあ、ミリは綺麗になったと思ったが、ラーラと比べたらまだまだだったんだな」

「あら?もっと素直に喜べる様に褒めてよ」

「変わらないって褒めようと思ったんだけど、ラーラはっと、今はラーラ様だったな」

「ラーラで構わないわ」

「ラーラ様がそれ程綺麗になったのも、ダンナ様のお陰だろうし、そうはいかない」

「バルの?」

「ああ、隣の男性がバル様だろう?」

「ええ」


 ワはバルの前に立ち、両手でバルの両手を掬い上げる。

 ラーラに対してのワの動きを警戒していたバルは、ワがラーラではなく自分に向けてアクションした事で戸惑ったが、回りの護衛達は咄嗟に反応する。しかしワとラーラの話を聞いていたミリは護衛達を手で制しながら、もう一方の手はバルの腰に当てて声を出す。


「大丈夫です、お父様」

「この人は何だって?」


 バルがミリを振り向くと、ワもミリを振り向いた。


「ミリ。ラーラ様が昔より綺麗になったってバル様に伝えてくれ」

「え?そんな、翻訳しにくい事を言わないでよ」

「なんでだよ?この国の言葉にもあるだろう?」

「お父様がヤキモチ焼くでしょう?初めて会った人に、自分の奥さんが昔より綺麗になったとか言われたら」

「大丈夫よ、ミリ。バル?彼がワ船長で、私が昔より綺麗になったのは、バルのお陰だって」


 ラーラの言葉に心配そうに見ていたミリは、バルが目を見開いてから喜びを表したので安堵した。

 バルはワに顔を向け、手を握り返す。


「あなたがワ船長なのか。ラーラからもミリからも話を聞いている。二人が世話になった」

「いいや。ラーラ様の事は俺が駆け出しの頃から知っているから」

「そんな訳ないでしょう?私がいくつだって言いたいのよ?」

「ラーラが歳取ったんじゃなくて、俺が偉くなるのが早かったって事だ。それに生まれて直ぐに会ってるからな?だからラーラの事は娘と迄はいかないが、お気に入りの姪っ子くらいには思ってるんだ」

「私の事を姪っ子の様に思っているのですって」

「そうか」

「もう会えないかと思っていたから、こうやってまた会う事が出来てとても嬉しい。これもバル様のお陰だ」

「バルのお陰でこうやって私にまた会えて嬉しいって」

「そうか。ラーラが仲の良かった人達とまた会える様になって、私も嬉しく思っている」

「ありがとう、バル様」

「いいや。ラーラの事を心配していてくれて、私の方こそありがとう、ワ船長」


 バルとワは手を握り直して握手にして、もう片方の手をお互いの背中に回して抱き合った。


 船の上から声が上がる。


「ホントだ!ラーラだ!」

「え?ミリじゃないのか?」

「ミリも隣にいるだろう?」

「ホントだ!ラーラもいる!」

「おーい!ラーラ!」

「ラーラ!」


 船縁に増えていく船員達の姿に向けて、ラーラは手を振った。


「みんな!久し振り!」


 ラーラの言葉に船の上から歓声が上がり、船員達が手を振り返す。騒ぎを聞きつけて、船縁から顔を出す船員が徐々に増えていった。

 その船員達に向けてワが怒鳴る。


「お前ら!今日は出港だぞ!準備は出来てんのか!」


 ワに文句を返しながらも、船員達は仕事に戻って行った。

 その様子を見ながら、バルはラーラの肩を抱く。


「ラーラは本当に、船乗り達に人気があるな」

「他の港でも、ラーラ様ほど人気があるのは中々いない。ラーラ様に張り合えるのはミリ様だけだ」


 そう言ってワはバルの背中を叩いた。


「そう言えば、俺達抜きに、随分と面白そうな事をやっているらしいな?」


 そう言ってワに睨まれて、ラーラは分かる様に溜め息を吐く。


「コーカデス領の開発の事?」

「ああ。なんで俺達には声を掛けなかったんだよ?」

「ちゃんとワ船長の分も取ってあるわ。今回入港して直ぐに、ソウサ商会から話があったでしょう?」

「なんで一番に話を持って来ないんだ?他のやつらに出遅れちまったじゃないか」

「そんな事を言うならもっと頻繁に来てよ。それにまだどこも設計士も技術者も連れて来ていないから」

「今回は貴族のお嬢さんを乗せて行くから、寄り道せずに帰れる。帰ったら人を集めて直ぐに来るからな」

「急いでくれるのは良いけれど、私やミリの大事な人なのだから、パノの事は丁重に扱ってね?」

「それはもちろんだ。国からもくれぐれも丁寧に接する様に言われてるし、その為の人員も連れて来てるんだから、安心してくれ」

「そうね。ワ船長の船と言うだけでも、心配は少ないわね」

「ああ。任せておけ」


 そう言って笑うワにラーラとミリは笑顔を向け、ミリに通訳をして貰っていたバルはもう一度ワと握手を交わした。



 パノ達を乗せた馬車が港に着き、パノとパノの両親、ラーダ・コーハナル侯爵とナンテ・コーハナル侯爵夫人の三人が馬車から降りる。

 パノとラーダとナンテは、ラーラにワ達を紹介された。

 それから三人とパノに同行する護衛達はミリと共に舟に乗り込み、ナンテに宛がわれた船室や船内を見学する。


 見学が終わり出航時間も近付いて、パノ達は船から降りて来た。

 船を降りたパノは、ラーラ達に囲まれる。

 ラーラはパノに抱き付いた。


「気を付けてね、パノ」

「ええ。ラーラも無理をしない様に。バルもラーラに気を付けてあげてよ?」

「ああ、分かっている」


 パノはラーラの背中に片手を当てたまま、もう一方の手をミリに伸ばした。その手に誘われる様に近付いたミリの頭に触れて、パノは髪を撫でた。


「ミリもね。無理をしないように」

「はい、パノ姉様」


 ラーラが離れるのと一緒にミリもパノから離れる。そしてパノはラーダとナンテの前に立った。


「お父様、お母様。行って参ります」

「ああ、パノ。気を付けて」

「気を付けて、いってらっしゃい、パノ」


 そう言うとナンテは半歩前に出て、パノを抱き締める。


「はい」


 ゆっくりと明るくそう応えながら、パノはナンテの背中に手を当てた。


「そろそろ行きますね」


 そう言ってナンテから体を離したパノに、ラーダが手を差し出す。パノはラーダを見詰めた。お互いに見つめ合い、パノも手を出してラーダの手を握り、そして二人とも特に言葉なく手を離す。

 パノはラーダから視線を移して笑顔で皆を見回すと、そのままタラップを上った。


 パノが上りきるとタラップが上げられ、直ぐに出航の合図が出される。


「行って来ます!」


 そう言って船縁から手を振るパノに、港に残る皆で手を振り返した。


 港の皆はパノの姿が見えなくなるまで、パノは港を出るまで、お互いに手を振り続けていた。

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