重なる期待
「望んだ時に妊娠できるのなら、チリンさんに限らず、多くの貴族女性を助ける事になるわよね?」
パノは、その様な事は皆が思っていると分かりながら、敢えて口にした。
自分に向けてそう言われたミリは、王家の秘術の事が頭に引っ掛かっている。
「それは貴族女性に限りませんけれど、ですがパノ姉様?チリン姉様の仰った通り、希少な何かを必要とするのであれば、助けられる人数にはやはり限りがあると思います」
ミリの返しにパノは眉根を寄せた。
「希少なって、王家の秘術の事ではなくて、コーカデスの港町でやろうとしている妊娠に良い物を集める話はどうなの?」
ミリははっと目を見開く。
「あっ、そちらでしたか」
「ええ。希少品だとしても特産品にするなら、港町では普通に売る積もりなのでしょう?」
パノの問いにミリは小さく肯いた。
「手に入る物はそうですね。ですが決定的な効果がある物は、どこの国にもないと思います」
「まあ、そうよね。あれば既に知られているでしょうし」
「はい。それなので物だけに拘るのではなく、滞在中の過ごし方を通して、全体的なサポートを出来たら良いとは思っています」
パノはまた眉根を寄せる。
「それって、妊娠するまで滞在させるって事?」
パノの問いにミリはまた肯いた。
「はい。お客様が望むのであれば。生活習慣を整える必要がある事もあるとは思いますから」
「規則正しい生活とか、早寝早起きとか、適度な運動とか?」
「はい。ただ、具体的な事に付いては、お母様にお任せしていますので」
「そうだったわね」
「はい」
「でも、ラーラはさっき、いつ出来るのか分からないと言っていたし」
パノに見られてラーラは苦笑した。
「直ぐには無理だけれど、出来たとしても王都を出られないチリン様には、利用して頂けないじゃない。申し訳ないけれど」
眉尻を下げて元王女チリン・コーハナルに顔を向けたラーラに、チリンは微笑んでみせる。
「実はラーラさん。私も王都から出られる様になりそうなのです」
ミリもバルも目を見開き、ラーラも目を見開いてチリンに返した。
「そうなのですか?」
「はい」
チリンが嬉しそうに笑う。
「コーカデス領の港町に、王太子妃殿下も興味をお持ちになって、王太子殿下と一緒に訪ねたいと仰っていました」
「お二人にいらして頂けるなんて、とても名誉な事です。出来上がりましたら是非、お報せさせて頂きたいと思います」
「はい。ですが、お二人ばかりずるいですよね?私は王都から出られないのに、御自分達は今も領地と往き来したりなさって」
そうチリンに言われても、王族相手に下手な事は言えない。ラーラは肯く事も出来ずに、曖昧な笑みを浮かべて返すしかなかった。
「それなので、王妃陛下に次の子の予定を訊かれた時に、その不満を打つけたのです。そうしたらこれまで中々進んでいなかった、私を王都から出られる様にして貰える話が、急に進み出しました」
「そうだったのですか」
「ええ。国王陛下が言い出して、王太子殿下がフォローして、それでもこれまでは少しも進まなかったのに。本当にどうなっているのかしら?まあ、進み始めたのですから、良いのですけれど」
「チリン様が王都を出られる様になるのは、いつ頃の予定なのですか?」
「それでも早くても一年は掛かりそうですし、王太子殿下とサニン殿下が王都にいる時ではないと駄目な様なのですけれど」
「それでは、もしかしたら、お養兄様の代わりにスディオと共に、領地に行ったりは出来ないと言う事ですか?」
「そうなのですよ。おかしいですよね?私がスディオと結婚する時はそんな事は言っていなかったのに、後になって王位継承権を持っている私は、王都を離れては駄目だと言い出して。王太子殿下もサニン殿下も王都を離れられるのに。それなのでそれも何とかして貰える様に、国王陛下と王太子殿下に頼んで、王妃陛下にもお願いしました。そうしたら、王太子妃殿下がもう一人お子様をお産みになったら、私の継承順位がまた一つ下がりますから、そうなれば何とかして貰える事になりそうなのです」
「それは良かったですね」
「はい。それなので、王都を離れる許可を貰ったら、ラーラさんの作る港町に行って、子供を授かって実績を作って、王太子妃殿下にお薦めして、王太子妃殿下にもお子様を授かって欲しいと考えているのです」
「それは・・・責任重大ですね」
「でも、きっと上手くいきますよね?ラーラさん?」
「それは、チリン様は何か、根拠をお持ちなのですか?」
「場所が変わると妊娠し易いとミリちゃんが言っていましたし、それを根拠の一つとして、観光地としての港町を作るのですよね?」
そう言って笑顔を見せるチリンに、ラーラは僅かに間を開けてから肯いて返す。
「その通りです」
そう言うとラーラもチリンに笑顔を向けた。
それ程上手くいくのか、ラーラには自信がない。けれどチリンがそう信じているのなら、信じている事でチリンは妊娠し易かったりするかも知れない。そう思うとここは、肯定するしかラーラにはなかった。
そしてそれはミリも同じ考えだ。
ミリもチリンに笑顔を向けて肯いてみせた。




