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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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期待と受け取り

「知らずに(おこな)っている可能性はないでしょうか?」


 ミリの言葉に、皆の眉根が寄る。


「何の事?」


 パノが小首を傾げながらミリに尋ねた。


「王家の秘術です」

「王家の秘術を?」

「はい。平民は分かりませんが、貴族家の場合には、その様な事があったりしないでしょうか?」

「それは考え難いと思うけれど」


 元王女チリン・コーハナルが意見を口にする。


「秘術が何か分からないけれど、きっと希少な何かを使うのだと思うわ」

「希少な?薬とかですか?」

「ええ。食材かも知れないし、道具かも知れない。一般的な物なら秘術を隠す必要はない筈で、皆に知られると手に入れ難くなる物が使われるから、秘術と言う事にしているのだと思う」

「確かにその可能性はあります」

「そうでしょう?それにね?王家に取って子供が生まれるかどうかは、貴族家よりも大きな問題なのよ。跡継ぎが出来ずに養子を取ったりすれば、貴族間の勢力バランスに大きく響くでしょう?」

「そうですね」

「妃を公爵三家から迎える様に続けているのだって、血の濃さを守る為だけではないのだから」

「つまり、一般に知られている様な、妊娠しやすかったり流産し難かったりする事を取り入れた上で、秘術と呼ばれる何かを行っていると言う事ですか」

「ええ。私はそう思うわ」

「確かに、そうですね」


 ミリはチリンの言葉に、小さく何度も肯いた。そのミリへの微笑みをチリンはパノに向ける。


「それでお義姉(ねえ)様。話を戻しますけれど、お義姉様の言う通り、実は私はもっと子供が欲しいと思っているのです」

「やはり、そうなのね」


 チリンはディリオを産んだので、貴族家の跡取りの妻として最低限の責任を果たした事になる。

 回りがディリオを可愛がっているし、パノの母ナンテ・コーハナルは姑としてチリンに次子の催促をしたりもしない。チリンが子供を産む事は、結婚していないパノへのプレッシャーにもなりそうだ。

 パノは、チリンがその様に考えて、実は二人目の子供を欲しいと思っても、言い出せないでいるのではないかと感じていた。

 そしてチリンはまさにその通りだった。実母である王妃から、次の子はまだなのかと訊かれるのも気に障っていたけれど、自分自身としてもまだまだ産みたい。

 チリンは兄のソロン王太子に可愛がられていたのもあり、自分がソロン王太子を慕っていたのもあって、ディリオに兄弟を作ってあげたいとも思っていた。


「私に遠慮をしていたのね」

「それはないとは言い切れませんが、お義父(とう)様もお義母(かあ)様もスディオも無理しなくて良いと言ってくれて、王家での圧の掛かり方とあまりにも違うので、ディリオを妊娠するまでは、妊娠しても良いのか自体を悩む事がありましたから」

「チリンさん?そうだったの?」


 驚いたナンテの声に、チリンは慌てる。


「一時ですよ?お義母様?ほんの一瞬だけです。妊娠して良いのか不安だったのは。でも跡取りの妻なので、男の子を産む義務があるのは変わらない筈だと分かっていましたし、スディオの子供が欲しかったのもありましたので、妊娠を止められた訳ではないのなら構わないと、開き直っていましたから」

「チリンさんが思い詰めているのは感じていたのだけれど、その様に感じていたなんて分からずに、無理をしない様になどと言ってもしまっていたわ。ごめんなさい」

「あ、いえ、お義母様?謝らないで下さい」

「いいえ。私もパノを授かる前に、同じ様に感じた事があるの。お義母様にもお義父様にも無理をしなくて良いと言われて、邸の中の雰囲気も子供を望んでいない様にも思えて、ラーダの気持ちさえ疑ったりした事があるわ」

「え?お父様の気持ち?」


 チリンの言葉にパノが眉根を寄せた。


「ええ。私との子供は欲しくないのか、とか、他に心を寄せている女性がいるのではないか、とか」

「ええ?そうなの?」

「だって、あなたのお祖母様は厳しい(かた)だったから、お父様のお相手として私は合格を頂けたけれど、お父様が思っていらしゃる方は許されなかったのかも知れないとか、思ってしまったら誰にも相談出来なくて、不安は募るでしょう?」

「そう、かも?」


 ナンテに同意を求められたけれど、パノは今ひとつ共感出来なくて、返しが軽くなる。


「でもあなたが生まれて、お父様もお祖母様もお祖父様も本当に喜んで下さって、そこで初めて、私が受け入れられている事が信じられたのよ」

「・・・そう」


 パノの声は少し声が低くなった。


 パノの父ラーダ・コーハナル侯爵がパノの誕生を喜んだと言う事が、パノには信じ切れずにいた。

 ナンテが無事に出産を終えた事は喜んだだろうと思えるけれど、生まれたのが女であった事には落胆したに違いないとパノは感じている。


 ふと視線を感じて伏せ気味だった顔を上げると、心配そうなナンテと目が合って、パノはナンテに微笑みを向けた。

 そしてパノはチリンに顔を向ける。


「チリンさんも同じ様な感じ?ディリオを産んで皆が喜んだ事で、安心したのかしら?」

「ええ、お義姉様。求められていないなどと感じた瞬間の事は忘れていましたけれど、喜んで頂けてホッとしたのは確かにありました」

「そうなのね」

「はい」

「私にも回りにも遠慮をしないで何人でも、スディオと相談して好きなだけ、子供を産んで貰って構わないから」

「・・・はい」

「良かったわ。少し気になっていたから、この事をチリンさんに伝えられて」

「気に掛けて頂いてありがとうございます、お義姉様」

「これで心置きなく、留学する事が出来る」


 晴れ晴れとそう言うパノに、留学してしまう事が寂しいとは、ラーラもミリももう言えない様に思えた。


「でもそうなると」


 パノが表情を変えて言葉を続ける。


「チリンさんが望む通りに子供を授かれるかどうか。今度はその事が気になるわね」


 そう言ってパノはミリを見た。


 ミリは目を見開く。

 チリンが妊娠したら次も当然、ミリは助産師見習いとして、チリンの出産を助ける積もりでいる。それはパノに念を押される必要のない事だ。

 それにパノの表情は、ミリにお願いをする感じでもない。ミリに期待を掛けている顔にミリには思える。

 え?まさか?王家の秘術を探らせようとしているの?

 その様な訳はないとは分かっているけれど、どうしたら探る事が出来るのか、ミリは調査手段を考え始めてしまった。

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