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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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パノの望み

 パノはラーラ達を居室に招いた。そこにはパノの母ナンテ・コーハナルと元王女チリン・コーハナル、そしてチリンの息子のディリオがいた。

 ミリはチリンからディリオを受け取り、次にディリオをラーラに渡す。ラーラが抱くディリオの様子をバルも覗き込んで、それからラーラはディリオをチリンに返した。

 その様子を見ていたナンテは微笑み、パノは少し目を見開く。


「ラーラがディリオを抱いた所を初めて見たわ」

「そうね。今初めて抱いたわ」


 パノに微笑みを返してからラーラは、ディリオに視線を向け直した。


「ディリオには生まれた直後に会ったきりで、あの時は眠っていたから抱き上げたりはしなかったわね」


 ラーラの言葉にパノが小さく肯く。


「そうだったのね。でもディリオは人見知りが始まっているのに、ラーラに初めて抱かれたのに愚図らなかったわね」

「傍にチリンさんもいたし、それにラーラはミリを育てたのだから、赤ちゃんの扱いに慣れているでしょう?」


 ナンテの言葉にチリンが顔を上げた。


「ディリオはミリちゃんにはとても懐いているから、ミリちゃんとそっくりのラーラさんの事も、ミリちゃんみたいで平気なのかも知れませんね」

「確かに、ディリオはミリとラーラを交互に見ているみたいね」


 パノがそう言うとディリオが返事をする様に声を上げる。その声を聞いて皆が笑った。



 チリンはディリオを抱いて退室し、残った五人でテーブルを囲む。

 パノの前がミリ、パノの隣はラーラ、ラーラの前でミリの隣がバル、ナンテはテーブルの端の席でパノとミリの隣だった。


 ミリが小さく首を傾げる。

 いつもならバルとラーラが隣り合い、パノの隣はミリが座る筈だ。けれども今日はラーラがさっさとパノの隣に座っていた。その事をバルは気にしていない様で、躊躇う様子もなくラーラの向かいに座っている。

 別にバルとラーラがケンカをしたりはしていなかった筈だし、たとえもしケンカをしていたとしても、他家の邸でそんな様子を表に出したりはしない筈。

 ラーラがパノばかり見てバルに視線を向けないのは不安に感じなくもないけれど、バルは普段通りに思えるので、バルとラーラの間に何かあったのかどうかの考察に付いては後回しにする事にミリはする。


 それより今は、と、ミリはパノに尋ねた。


「パノ姉様」

「なに?ミリ?」

「医師学校の試験はいつ受けたのですか?全然、気が付きませんでしたけれど、一度渡航なさったのですよね?」

「いいえ。渡航はしていないし、試験も受けてはいないわ」

「え?」


 ミリもラーラもバルも、目を見開く。


「そうすると、今回の渡航で試験を受けると言う事なのですか?」

「いいえ。試験なしで入学を許可して貰えたのよ」


 パノの答えにラーラは小さく肯き、バルは僅かに顎を上げ、ミリは眉根を寄せた。


「入学するのはかなり難しいのではありませんでしたか?どこの国の医師学校も試験がとても難しいと聞いていましたけれど?」

「そうなのだけれど、私が医師学校を受験しようとしている事に付いて、チリンさんが王妃陛下に話したそうで、そうしたら、女性の医師は有用だと王妃陛下が国王陛下に話して下さって、国王陛下がお力を貸して下さったの」

「そうだったのですか」

「ええ。それでいくつもの国に紹介文を書いて下さって、問い合わせを返してくれた学校から出された課題を提出したり、治療院の先生に推薦状を書いて頂いたりしたら、試験をせずに受け入れるとの返事が貰えたの」

「全然、知りませんでした」

「ミリもラーラもずっと忙しかったし、私も試験を受けないで入学を許可されるとは思わなかったから、試験を受けに行ける事になってから伝えれば良いと思っていたのよ」

「そうだったのですね」


 納得してミリは肯くが、ラーラは目を細めてパノに向ける。


「でも、会わずにさようならはないのではない?最低でも三年は会えないんでしょう?」

「ちょくちょくは帰って来られないものね。落第すれば別だけど」

「国王陛下の御助力を受けて落第なんて」

「しないわよ?自力で入学したとしても、落第する積もりなんてないから。でも、三年で直ぐに帰って来たりはしない積もり」

「え?どうして?」

「環境や設備が整っていて実績もある場所で、医師としての経験を積ませて貰う積もりなの。帰って来ても直ぐには整わないでしょう?環境とか」

「パノの為にお養兄(にい)様が病院を建てるって仰っていませんでしたか?」


 ラーラがナンテに視線を向けると、ナンテは微笑みながら肯いて返した。ラーラがナンテからパノに視線を戻すと、パノも小さく肯いて返す。


「お父様はそうは言ってくれるけれど、物があれば良い訳ではないでしょう?」

「それはそうなのだろうけれど」

「私が医者になれたとしても、それは私がとても恵まれているからではない?国王陛下に御助力頂けたり、ミリの伝手があるから少し手伝っただけで推薦状が頂けたり、実家が病院を建ててくれたり」

「・・・確かにそうね。他の人なら、それ程スムーズにはなかなか進まないでしょうね」

「ええ。でもね?それだと私が医者になれたとしても、このままだと、もしかしたら私はこの国で最初で最後の女性医師となってしまうかも知れないじゃない。それでは駄目だと思うの」

「パノに憧れて後に続きたくても、その人はなかなか夢を叶えられそうにはないと言う事ね」

「そうよね?それなので私に必要なのは、自分が医者になる事はもちろんなのだけれど、それよりも、医者になる女性を育てられる様になる事だと思うの」

「その為のスキルを身に付ける為に、三年では帰れないと言うのね」

「ええ。三年で医師の資格を貰えるかも知れないけれど、経験を積めるのはその後からだもの」


 強い目でそう言うパノに見詰められて、ラーラはすっと視線を下げた。


「・・・そうね」


 パノはラーラの様子に微笑みを向ける。そして視線をゆっくりとミリに移した。


「本当はこう言う、人に教える様な役は、ミリの方が合いそうだけれど」

「え?」


 人に教える役が自分に向いているかどうか、ミリはこれまで考えた事はない。パノの言葉に目を見開いたミリは、小首を傾げながら目を少し細めた。


「でもね?私自身がやってみたいの」


 そう言ったパノの言葉に、ラーラは顔を上げてパノを見る。

 ナンテは微笑みながら、バルは小さく肯きながら、そしてラーラとミリは同じ表情で、目を細めながらパノを見た。

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