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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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干物の用途

 バルとラーラがレントの祖父母、リート・コーカデスとセリ・コーカデスの謝罪を受けに向かっている間、ミリは特にやる事がなかった。

 港予定地には他国の人達が残っていたので、その通訳をする為にミリはラーラ達には同行をしなかったのだが、通訳が必要な人達の用事は既に済んでいて、自分達の国の船が来るのを待っているだけなので、ミリの出番はそれ程ない。

 それなのでミリは、ニダの所で干物作りの修行をしていた。


 他国の船員達が減ったので港予定地での干物の需要は減り、干物作りを手伝っていた近隣の人達は既に自分達の仕事に戻っている。

 その手伝っていた人達が作った干物は、以前ミリが作った干物より美味しいとミリは感じていた。


「何が違うんだろう?」

「年季は違うね」


 ラフな口調でニダが返す。バル達がいないので、ミリが自分を平民扱いする様に頼んでいたからだ。


「私が魚を捌くのに、もたついているから?」

「それはあるかもね」

「みんな早いよね」

「慣れはあるさ。昔は干物を作ってた人達だから」

「数えられないほど魚を捌いていたって事ね」

「長くやってればそうなるよ」


 そう言うニダの手許をミリはじっと見詰める。


「ニダさんはいつから干物を作ってるの?」

「覚えてないけど、物心付く前からかな?」


 ミリは顔を上げて、ニダの横顔を見た。


「え?そんなに小さい時から?」

「大人を真似してね。売り物にならない小さい魚でやってたんじゃなかったかな?」

「何歳くらいで売り物を作れる様になったの?」

「それも覚えてないけど、どうだったろう?」

「私くらいの時にはどう?」

「う~ん?どうだったろうね?」


 そう言いながらニダは手を止めずに魚を捌き続ける。ミリはニダの顔からニダの手許に視線を移し、しばらく見続けてから自分の手許を見て、魚を捌く事を再開した。



 レントは先に、いつもの護衛二人だけ連れて、港予定地にやって来た。バルとラーラは置いて来ている。

 レントはそのまま、技術者達の(もと)には行かず、ニダを訪ねて来た。


「ニダ。あ、ミリ様」

「こんにちは、コーカデス卿」


 ミリは包丁から手を放して、レントに礼を取る。レントも礼を返した。


「こんにちは、ミリ様」

「わたくしの両親と一緒ですか?」


 バルとラーラが帰って来たら、ミリの平民モードはお終いだ。


「いえ、お二人はまだ、隣の村にいらっしゃいます。わたくしだけ先に、ニダに用事がありまして、参りました」

「そうでしたか」


 肯くミリに会釈して、レントはニダに体を向けた。


「ニダ」

「いらっしゃいませ、レント様。どの様な御用でしょうか?」

「なるべく日保ちのする干物を貰えないだろうか?」

「畏まりました。いつまでに御用意すればよろしいですか?」

「いや、今すぐに欲しいのだ」

「ああ、それは申し訳ございません。今、手許には、干しの浅い物しかございませんで」

「ではそれで良い」

「数日お時間を頂ければ用意出来ますが」

「いや・・・そうだな。それはそれで用意して置いて貰おうか」

「畏まりました。それでは、今ある物をお持ちします」

「ああ、頼む」


 肯くレントにニダは頭を下げて、その場を離れる。

 その後ろ姿を見送ってから、ミリはレントに顔を向けた。


「日保ちのする干物が必要な理由は、伺ってもよろしいですか?」


 ミリの問いに、レントの護衛が一瞬表情を表す。レントはミリにそう問われる事を予想していたので、ミリに顔を向けて小さく肯いた。


「はい。リートが持ち帰る為です」

「リート殿が?」


 ミリの眉根が僅かに寄る。レントはもう一度小さく肯いた。


「はい」

「持ち帰ってリート殿がどうなさるか、コーカデス卿は御存知ですか?」

「はい。その、途中途中の村や町で、リートが干物を食べるところを領民に見せるそうです」


 ミリに付いている護衛達が身動ぎをする。

 ミリもバルもラーラも魚の干物を食べたけれど、コードナ家の護衛達は誰も食べてはいなかったし、レントとレントの護衛二人も干物を食べているが、まさかリートまで食べるとは思っていなかった。


 動揺が表に滲む護衛達とは対照的に、小さく肯いたミリは微笑みを浮かべる。


「・・・そうですか」

「ミリ様は御存知だったのですか?」

「いいえ。ただ以前お会いした時に、リート殿には干物の事を尋ねられました。食べるに当たっては躊躇いがあったとお伝えしたら、真剣な顔をして肯いていらしたので、食べてみようと思っているのではないかとは感じていました」

「そうだったのですか」

「ですが、領民達に干物を食べる所を見せると言うのは、どう言う意味ですか?」

「それは・・・リートはラーラ様とミリ様を悪く言っておりました事に付いて、贖罪したいと考えていまして」

「干物を食べる事が贖罪ですか?」

「あ、いえいえ、違います。今もラーラ様とミリ様を悪く言う領民がコーカデス領にはおります。それらの者達を改心させる事を以て、贖罪の一つとなそうとしているのです」

「・・・母はリート殿を赦さなかったのでしょうか?」

「あ、いえ。ラーラ様にもバル様にも赦して頂きました。それとは別に、問題を解決する事で、けじめを付けたいのです」

「それがどうして干物を食べる事に繋がるのですか?」


 ミリは小首を傾げた。


「リートが干物を食べたのは、いずれわたくしが干物をコーカデス領の特産品にするからです。それとは別に、リートは神殿の信徒である事を()めたそうです」

「え?・・・それは、大丈夫なのですか?」

「その事自体は大丈夫です。そしてラーラ様とミリ様へ謝罪した事に付いて、領民達に説明をしました。その際に今の神殿は間違っていると思うので、それを正すと言っておりました。他の町や村でもリートは同様の説明をする積もりで、その時に干物を食べて見せるのだそうです」


 ミリの眉根が僅かに寄る。それを見てレントは苦笑を浮かべた。


「リートは領主の時に施政に大きな失敗がありましたが、領地から出て行かずに今も残っている領民達には、リートは信用がある様です。そのリートが、神殿の信仰では禁じられていると思われている魚食をする事で、リートの覚悟が伝わる様なのです。少なくとも隣の村ではそうでした。その場で村人が改心した訳ではありませんが、多少なりとも態度が変わりましたので」

「そうなのですか」

「はい。それでですね?ミリ様?」

「はい。何でしょうか?」

「漁村の領民が何人か、コーカデス商会への就職に興味を示して、仕事の内容を知りたいと申し出て来たのですが、受け入れて頂けないでしょうか?」

「・・・これまでの応募では人が集まらなかったのにですか」

「はい」

「それは構いませんが、採用担当は領都に帰ってしまっています」

「ええ。それなので、希望者には領都に向かって貰おうと思います」

「領都までの旅費とか、大丈夫なのですか?」

「それを払える者だけになりますが」

「それなら採用担当者をこちらに呼びましょう」

「よろしいのですか?」

「はい。リート殿の説得で、他の町村でも希望者が現れるかも知れません。ですので採用担当者にはリート殿の後を追わせましょう。旅費はこちらで出せば、希望者も増えるかも知れません」

「ですが、領都に着いたら逃げてしまうかも知れません。真剣に考えさせる為にも、旅費は自分で払わせた方が良いと思います」

「逃げられたら仕方ありませんが、領民が働いて収入を得れば、領地の税収は増えます。わざわざ他領から人を集めている状況なのですから、仕事を求める人が少しでも集まるなら、地元で採用活動をしない訳には行きません」

「そう言って頂けて、ありがとうございます」

「いいえ。他領からの移動には旅費を出していますし、それよりは領地内の移動の方が費用が掛からないのもありますから」

「いいえ。ミリ様がコーカデス領の事を考えて下さっている事を改めて感じました。本当に、ありがとうございます」


 そう言って頭を下げて、顔を上げてからレントはミリに微笑みを向ける。

 ミリとしては本当に、暗算で費用計算をして出した回答だったので、レントの笑みには上手く応えられなかった。

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