訴え
レントの祖父母、リート・コーカデスとセリ・コーカデスが領都に戻るのを見送る為に、二人と共にレントとバルとラーラも元村長宅の玄関から外に出る。
別れの挨拶を交わし、リートとセリが馬車に乗り込もうとすると、村人達が近付いて来た。
「リート様ではありませんか?」
村人の一人にそう声を掛けられて、リート達は揃ってそちらに顔を向ける。
「前の領主様のリート様ですよね?」
「そうだが」
リートは馬車に向けていた体を村人達の方に向け直した。
「やっぱり!」
「お願いです!助けて下さい!」
「助けて下さい!」
「お願いします!」
そう口々にしながら近寄ろうとする村人達の前に、コーカデス家の護衛達が立ち塞がる。バルはラーラを背中に隠し、コードナ家の護衛達は二人の近くに集まった。
村人達は護衛達に怯んで立ち止まる。それを見てリートは、目の前の護衛達を左右に避けさせた。
「騒ぐな。静かにしろ。代表者に話す事を許すから、事情を述べてみよ」
リートの言葉に村人達は互いを見回す。そしてその中の一人が一歩前に出ると口を開いた。
「助けて下さい、リート様」
前に出た村人が両手の指を組んで握ってそう言うと、後ろの村人達も同じ様に指を組む。懇願する様な村人達の様子に、リートは眉根を寄せた。
「何を助けて欲しいのだ?」
リートの問いに村人達がまた口々に声を上げる。リートは手を挙げて村人達を制した。
「黙れ!代表者以外は黙っていろ!」
そう言ってリートは村人達を端から端まで睨む。
「他に意見があるなら後で聞く。先ずは代表者だけが話せ。それで?何を助けて欲しいのだ?」
「何もかもです」
代表者は顔を蹙めてそう答えた。
聞きたい答えになっていない代表者の言葉に、リートは小さく息を吐く。
「何もかもとは、具体的に何に困っているのだ?」
「お金です」
代表者は間髪入れずにそう返した。代表者が自分の両手を組む力を強める。
「今の領主様に税金を払えとか罰金を払えとか言われて、払えないなら借金だとされて利子も取られるんです」
リートはまた小さく息を吐いた。
「税金を払うのは当然ではないか」
「ですが払ってない分があったなんて急に言われて、払ってなかった分だけじゃなくてもっと払えって言われて、そんなお金、ありません!」
代表者はもう半歩前に出ながらそう言う。その言葉にリートはまた小さく息を吐いた。
「それは脱税していたからではないのか?」
「違います!私は町長の言う通りにしてただけなんです!」
代表者の言葉に、他の村人達も肯く。リートは小さく首を左右に振った。
「町長の言う通りにしていたと言っても、罪を犯した事には変わりない」
「罪なんて犯してません!」
リートは今度は溜め息と分かる息を吐く。そしてまた、小さく首を左右に振った。
「脱税は罪だ」
「そんな」
リートは代表者に手のひらを向けて制して、バルとラーラを振り返る。
「私はこの者達の話を聞きますので、見送って頂くのはここまでで結構です」
「いや、構わないが」
バルはそう言ってから、ラーラを振り返った。
「俺は話を聞いておく」
「俺は?」
「ああ」
眉を顰めるラーラにバルは肯く。ラーラの眉間が狭まった。
「俺はって、私は?」
「女性陣は、中で待っていてくれ」
「中で?」
「ああ」
バルはそう言ってラーラに肯く。
「話が終わったら声を掛けるから」
バルは、村人達がラーラやミリにも言及するかと思っていた。その時のリートとレントの反応を確認する積もりでバルはいる。
セリの反応も見たくはあるが、状況に拠っては血が流れるかも知れない。その可能性を考えたら、ラーラとセリは離れた場所で待機をさせるべきだ。
本当はレントも下がらせたかったけれど、領主なのだからこの場に留まるべきにも思える。いざとなれば自分がレントを守ろうと、バルはそう考えていた。
リートも同じ様な事を考えてバルの言葉に肯く。
ラーラはバルを見詰めたまま少しの時間考えて、そしてバルに肯き返した。
「分かったわ」
そしてラーラはセリに目をやる。セリはラーラと目を合わせてから、リートに顔を向けた。
「私も下がっていますね」
「ああ。終わったら声を掛ける」
「ええ」
セリはリートに肯くと、視線をラーラに向ける。セリと目があったラーラはセリに小さく肯いた。
「では、一緒に待っていましょうか」
「はい。御一緒させて頂きます」
ラーラが前に立って、セリが後に付く。その二人の回りをそれぞれの家の護衛の半分が付いて行った。
セリとラーラが建物内に入るのを見送って、リートは村人達に体を向ける。
「もう一度言うが、脱税は罪だ。追徴金の支払いはその罪を償う為の罰だ」
「ですがあの女の所為で」
「待て!」
レントが一歩前に出た。
「あの女とは誰だ!」
レントが腰の剣の柄に手を掛けると、それに反応してコードナ家の護衛達が剣の柄に手を掛け、それがまたコーカデス家の護衛達が剣の柄に手をやる反応を産む。
「レント殿」
「レント」
バルとリートがレントに声を掛けながら、自分の護衛達を手で制した。
護衛達は二人それぞれの指示に従って剣の柄から手を放すが、レントは二人をちらりと見て、柄から手を放さずに代表者に視線を戻す。
「あの女とは誰の事だ?」
レントが低い声でそう言うと、代表者は気圧されて半歩下がった。




