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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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差が産む不安

 お嬢様を自称していたビーニと、村長なのに町長だと言っていたその父親が住んでいた村は、製塩で成り立っている。過去には漁も行われていたけれど、両隣の村の方が良い漁場に近い為、神殿の信仰で魚食が忌避されると直ぐに、漁師を職業とする人はいなくなっていた。

 その製塩は領政の下で行なわれる事業だった。その為にコーカデス領が衰退するのに合わせて塩の生産量は減り、当然製塩に関わる村人が得られる収入も減って行く。

 しかしこれまでは、領主には秘密にして塩を密造・密売していたので、村は却ってそれまでよりも賑わっていたのだった。


 その密造・密売はレントが暴いた。

 それによって村人達は、違法収入があてに出来なくなる。その上、追徴課税の支払も命じられる。

 そんな折りに「悪魔の子」であるミリの名を冠した商会の馬車が来て、村長の娘から号令が掛かって、「通行税」として荷物を徴収する事に村人達は協力をした。しかしこれが犯罪とされて、罰として慰謝料の支払いを命じられる。


 製塩は領主であるレントの支配下に入った。この為、村人達は本来の生産量に基づく仕事量と収入しか得られない。

 漁業は何代も前に辞め、船を持つ者も少ない。その船も趣味で釣りをする為の物だ。魚を釣ってもそれ程の量は獲れないし、売るには肥料しかないけれど、それは両隣の村でも生産していて、勝負になったら敵わない。

 そして、税金と慰謝料の支払いも求められている。


 もちろんそれらに直接関わらなかった村人もいる。夜の店の店員達がその代表だ。

 しかしそれらの人達は、景気が悪くなると分かると直ぐに、村からは出て行っていた。店も次々と閉店して行く。


 村の仕事は減り、失業者が出て、出来る仕事がない人が村に残る。

 村に残っている村人達は、今仕事がある人でさえも、将来に不安を感じていない人はいなかった。



 資産と共に没収された元村長の家は、コーカデス領の文官達が出張所と宿泊所として使っている。

 バルとラーラは、レントの祖父母のリート・コーカデスとセリ・コーカデスに会う為に、その出張所にレントと共に来ていた。


 護衛達も引き連れて馬に乗って村にやって来た一行に村人達は、中にレントの姿を見掛けると逃げる様に遠離る。そして遠巻きに一行の様子を窺っていた。


 予めレントから村の様子を聞いてはいたけれど、その話より寂れた雰囲気にバルとラーラは驚いていた。

 廃村などとは違って人がいるのに寂れている場所と言うのは、貴族として王都で生まれ育ったバルはもちろん、子供の頃に行商で国内を巡ったラーラに取っても初めてだった。


「ここの村人達は、仕事がない者が多いのです」


 出張所の窓から外の、遠巻きに中を窺っている村人達の様子を見ながらのレントの言葉に、バルもラーラも眉を顰める。


「港の建設に募集をしていないの?」


 その問い掛けにレントはラーラを振り返り、そして首を左右に振った。


「いいえ。ミリ様とも相談をして募集をしてみたのですが、応募して来る者はおりませんでした」

「え?一人も?」

「はい」

「条件を緩めてみたりはしないの?」

「どの様な事が出来る人間がいるのか分かりませんから、採用条件などは特に付けてはいません。ソウサ商会から紹介される人達には未経験者も大勢いますから、ミリ様にはここでもそれで構わないと仰って頂いていました。それでも、問い合わせさえ、まだ一件もない状態です」

「今も募集中なのね?」

「はい」

「警戒心が強い土地柄なのか?」


 その問いにレントはバルに顔を向け、こちらも首を左右に振る。


「そう言う訳ではない筈なのですが」

「そうだよな。ニダの所は、まあ、普通だったし。これだけ近い村で、住民の性格が全く違うなんて、考え難い」

「はい。ただし、警戒はされているとは思いますけれど」

「そうなのか?」

「それはそうよ、バル」


 レントへのバルの問いにラーラが口を挟んだ。


「村長と娘が連行されて処罰を受けて、財産も没収されて、自分達も罰金を払わなければならなくなったのよ?短期間の内に。次には何が起こるのか、普通は恐れると思うわ」

「しかしそれは自業自得だろう?」

「自業自得だけれど、村人達にしてみれば、悪いとは思ってなかったり、悪いと知っていても命令されてやっていたりしたのだもの。これまで自分達がやって来た事で、他に何か咎められるものがあるかも知れないと思えば、警戒はするわ。相手が権力者なのだもの」


 バルは眉間を狭め、目を細める。


「相手が貴族だろうと何だろうと、侮辱する事は悪い事だろう?それを知らないとかってあり得るのか?」

「悪魔と言うのは信仰の敵だから、言う方は侮辱している積もりではなくて、正義を行っている積もりなのよ」

「本当に悪魔がいると思っているって事か?」

「私を本当に悪魔だと思っているなら、その人に取ってはミリを悪魔の子と言うのは、ただの事実を口にした事になるわ」


 そう言うとラーラはテーブルの上のグラスを手に取って、目の高さに持ち上げた。


「これをグラスって呼ぶ様にね?」

「納得は出来ないが、ラーラの言う事は分かる」


 バルはそう言うと、更に眉間を狭めた。


「だが略奪は、神殿も禁じている筈だろう?」

「だから通行料なのでしょう?」

「言葉ではそう言っても、実態は略奪ではないか」

「実態は略奪と同じでも、そう言い換える事が出来たから、実行しようと出来たのよ」

「根拠もなしにか?」

「根拠はミリ商会は悪魔の子の商会だから。悪魔相手なら何をやっても自分は正義だと言えるでしょう?」


 そう言われてバルは、視線をラーラから窓の外に向ける。

 納得した訳ではないけれど、バルはラーラに言い返す言葉が浮かばなかった。それはバルが、そう説明したラーラも、そんな事は思ってもいないし納得してもいない事を分かっていたからだ。

 ラーラも窓の外を見る。


「仕事がないとか将来の不安だとかだけではなく、信じている事に基づいた行動が罪とされた事で、世間に対して不安を感じているのかもね」


 ラーラの言葉にバルは反応をみせず、肯定も否定も口にしなかった。

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