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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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騎馬が駄目な理由

「こちらはわたくしからの、誠に勝手な願いを相談させて頂きたいのですけれど」

「レント殿からの?」


 バルはレントの言葉に、眉根を寄せて目を細めた。ラーラは表情を変えずに、レントに微笑みを向けている。


「どの様なお話なのかしら?」

「はい。祖父母に会って頂く為にバル様とラーラ様には、隣の村まで出向いて頂けないでしょうか?」


 今度はラーラの眉根も寄った。バルとラーラは顔を見合わせた後にミリを見て、ミリが特に表情を変えていない事を確認してからレントに顔を向け戻す。


「それは構わないけれど」

「隣村に何かあると言う事か?」

「いえいえ、そうではありません」


 レントは二人に片手の手のひらを向けて、胸の前で小刻みに左右に振った。


「本来でしたら、リート・コーカデスとセリ・コーカデスの方からバル様とラーラ様の(もと)を訪ねる事が筋です。謝罪させて頂こうと言うのですから尚更です」

「まあ、そうだろうな」


 バルは肯き、ラーラは小首を傾げる。


「でもお二人もその為に、領都から海まで来るのでしょう?」

「そうではありますが、海まで来るのですから、普通でしたらお二人の(もと)まで訪ねるものではありませんか」

「そうだな」


 またバルは肯き、ラーラは反対側に小首を傾げた。


「それもそうだけれど、何か事情があるのね?」

「事情と言っても大した事ではありませんので、二人をこちらに呼び寄せるのでも構いません。ですが出来ましたらバル様とラーラ様に、隣村に出向いて頂けないかと思い、先ずは相談させて頂けないかと口にさせて頂きました」


 申し訳なさそうにそう言うレントの言葉に、ラーラとバルは眉根を寄せる。


「その事情と言うのは何かしら?」

「レント殿の都合なのか?」


 レントの表情が、更に申し訳なさそうになった。


「あの、実は、祖父母は馬に乗れませんでして」

「ああ、なるほど」


 即座に肯くバルに、ラーラの眉根は更に寄る。


「そうなの?バルは何か知っているの?」


 ちらりとラーラを見て小さく肯いてから、バルはレントに視線を戻した。


「コーカデス領都から隣の村までは馬車で来られると言う事だね?」

「はい」


 肯くレントにバルは肯き返す。


「ここに来るには馬に乗るか徒歩だから、確かに二人を歩かせるのは厳しいな」


 バルは納得するけれど、ラーラの眉根は寄ったままだ。


「二人乗りで、誰かの後ろに乗って来れば良いのでは?ミリの連れて来ている馬なら、大人二人でも砂地を進めるし。それにレント殿の祖父君は、馬上槍で有名だったのではないの?」

「若い頃だね」

「ラーラ様。実はセリ・コーカデスが、その、馬を怖がりまして」

「え?そうなの?」


 眉を上げるラーラにバルは肯いた。


「怖いと言うか、馬に乗る事を嫌っていると言う方が正しいのではないかな。御子息を落馬事故で亡くしているから」


 コーカデス家に付いての知識を思い出し、ラーラは小さく顎を上げる。そして納得の言葉を出そうとラーラは口を開くが、それをレントの声が遮った。


「え?そうなのですか?」


 レントの驚いた表情に、ラーラもバルも目を見開く。ミリも少し目を見張った。


「そうなのですかって、レント殿は伯父君達の事は知らなかったのか?」

「伯父がいた事は知っておりましたが、落馬で亡くなったとは・・・」

「そうか・・・キルト殿は馬上槍の訓練中の事だったと聞いている。アルト殿は領内視察を騎馬での移動中の事だった筈だ」

「二人とも・・・そうだったのですか」


 バルの言葉にレントは視線を下げる。それを見てラーラも顔を伏せた。


「それなら馬に乗るのは、嫌いになるでしょうね」


 そう言ってラーラはミリを向いて手を伸ばし、ミリの肩を抱き寄せる。そのラーラの肩をバルが抱いた。


「ああ、そうだな。リート殿もセリ殿の前では馬に乗れないのだろう」

「そうね」


 肩に置かれたバルの手にラーラが手を重ねると、バルは親指だけをラーラの手の下から抜いて、ラーラの親指をそっと押さえる。


「レント殿が知らなかったのも、セリ殿の前では話題に出来せなかった所為かも知れない」

「・・・そうね」


 落馬の事をレントが知らなかった事に付いて、ミリは不思議に思った。話題に出さないとしても、何らかのタイミングで耳に入らなかったのかと疑問に感じる。

 しかし考えてみれば自分も、平民の格好をして内緒で出歩いたりしなければ、出自に付いては知らないままだったのかも知れない。

 そう思い至るとミリは、何らかの情報収集手段を講じるべきかと考えた。


 その様な事を考えてミリが小さく肯くと、ラーラとバルも小さく肯く。


「レント殿の話は分かった」

「ええ」


 バルの言葉に肯いて、ラーラは隣のバルを見上げた。


「こちらから出向くので良いわよね?」

「ああ」


 バルが肯き、ラーラが肯き返す。


「お二人はいつ頃いらっしゃるの?」

「明日、隣村に着く予定です」

「それなら私達は先に着いておいた方が良いのではない?」

「うん?ああ。用事があってあちらにいる様に振る舞うのか」

「ええ。わざわざ出向いたと知らせて、気を遣わせてる事もないでしょう?」

「それもそうだな」


 バルはリートとセリに気を遣わせない方が話が短くて済むと思ったけれど、それをわざわざ皆の前では口にはしなかった。


「どうする?レント殿?今日の内に向かうか?」

「待ってバル。レント殿?お二人が隣村に着くのって、午後とかよね?」

「はい。早くても昼は過ぎると思います」

「それならバル?こちらは明日の朝に出ましょうよ」

「それでも良いけれど、どうせ今はこちらでやる事はないのだろう?」

「そうだけれど、ミリが心配じゃない」

「心配って、え?ミリを置いて行く積もりなのか?」

「予定はなくても、通訳が二人ともいなくなったら何かあった時に困るし、レント殿も行くのならやはりミリは残っていた方が良いわよね?」


 ラーラに言葉を向けられてミリは肯くが、ミリが口を開く前にバルが否定する。


「いやいや、ミリ一人にするなんて、駄目に決まっているじゃないか」

「バル?私達が来る前だってミリは一人だったし、護衛達も残るのだから、正確には一人ではないでしょう?」

「それは、まあ、そうだが」


 と言いつつも、そう言う事ではないのだけれど、とバルは思った。そのバルの微妙な表情に、ラーラは微笑みを向ける。


「ミリと一日中、久し振りにここのところずっと一緒にいたから、むかしの感覚に戻ってしまっているのかも知れないけれど、何も心配要らないわよ。レント殿?明日の内に、こちらに戻って来られるのよね?」

「はい。その予定です。忙しなくて申し訳ありませんが」

「いいえ。構わないわよね?バル?」


 バルは一拍だけ目蓋を閉じた。


「まあ、そうか。そうだね。ミリが行かないのであれば」


 バルは、それならリートとセリにはこちらに来て貰った方が良かった、などと考えていて、歯切れが少し悪い。

 その様子からバルの考えが読み取って、ラーラとミリは苦笑を浮かべ、レントは深く頭を下げた。

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