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コーカデス領の石材運搬の為の水路作りは順調で、トラブル対応にもノウハウが溜まって来ているしトラブル自体も減って、工程管理なども無駄なく進む様に洗練されて来ている。
港と港町の建設準備は、他国の知見者の到着を待っている部分が多く、今時点で進められる事はそれ程ない。
農地整備ついては、石材運搬用水路から新しい農業用水路を分岐させるので、そちらの工事に合わせて進めて行く事になる為、本格的に取り掛かるのはまだ先になる。
牧羊も始められたが、先ずは牛が飼われていた牧場を流用したのでスムーズに立ち上がっている。経験者が中心となって運営しているのもあり、大きなトラブルもない。
と言う事で、ミリ達の手が大分空いて来ていたところに、レントから申し出があった。
「バル様、ラーラ様。お願いがございます」
緊張した面持ちでそう告げるレントに、バルもラーラも眉を顰める。
ラーラは港町事業の責任者を務めている為、それに関わる内容でレントとは遣り取りがあった。しかしバルがここにいるのは、ラーラの護衛としてだ。もちろんバルもレントと会話をしたりはしているけれど、この場でのレントからバルへのお願いと言うのが、どの様なものなのかはバルにもラーラにも考え付かない。精々がプライベートな話なのだろうと思うくらいだ。
それなのでバルもラーラも、レントのお願いの対象から外れているミリを見た。そのミリから、何か知っているか思い当たる事があるかする様子を見取り、バルとラーラは今度はお互いの顔を見る。
お互いに心当たりがなさそうな事をその表情から読み取ると、顔をレントに向け直して、バルとラーラは小さく肯いて返した。そしてバルが口を開く。
「どの様な話なのだろうか?」
「実は、わたくしの祖父母、リート・コーカデスとセリ・コーカデスが、お二人にお目に掛かりたいと申しております」
「我々に?」
「私達二人に?」
「はい」
レントの言葉にバルとラーラが顔を見合わすけれど、やはり二人とも思い当たる事がない。
「私はお二人と面識がないのだけれど」
戸惑ったラーラの言葉にバルが肯く。
「そうだな。私も最後に二人に会ったのは・・・うん?子供の頃か?」
そう気付くとバルは思い出す事を止めた。リートとセリの事を思い出すには、どうしてもレントの叔母リリ・コーカデスとの思い出も思い出してしまう事になるからだ。
バルはリリに対してはもう何とも思っていない筈なのだが、それでもラーラが隣にいるのにリリの事を思い出す事には気が引ける。リリの事を口に出したりする筈はないのだが、それでもバルはラーラに対して後ろめたく感じてしまいそうな気がしていた。
「二人はお二人に、謝罪をしたいと申しておりまして」
そのレントの言葉に、バルの眉間に皺が寄る。
ラーラも眉根を一瞬寄せたが、直ぐに微笑みを作ってレントに向けた。
「謝罪と言うのは何かしら?」
「それは長い事、ラーラ様を貴族と認めないとの立場を取っていた事などに付いてです」
「それに付いてはコーカデス家の先代からコードナ侯爵家に正式な謝罪を頂いていますし、レント殿もリリ殿からも謝罪を頂いていますので、結構ですけれど?」
微笑みながらラーラにそう言われ、レントは直ぐに言葉が出ない。
ラーラの言葉は謝罪を受け入れないと取れるし、他に謝る事があるだろうとの催促だとも受け取れる。
ラーラは微笑んでいるけれど、不機嫌な表情を見せたバルも明らかにそう思っているだろう事は、レントにも良く分かった。
その、言葉に詰まるレントの代わりに、口を開いたのはミリだった。
「わたくしも以前、リート・コーカデス殿とセリ・コーカデス殿から謝罪を頂きました」
「ラーラを貴族と認めなかった事に付いてかい?」
「はい」
肯くミリにバルは渋い顔をする。
「それは聞いていたけれど」
ラーラは目を見開いて、バルのその言葉を遮った。
「え?バル?そうなの?」
「え?ああ」
「私は聞いていないけれど?ミリからもバルからも」
ラーラが「バル」を強調して発音した為、バルは少し慌ててしまう。
「いや、ゴメン。公式な謝罪が既にされているから、軽く考えてしまっていたんだ。隠す積もりだった訳ではないんだよ?」
「隠したとは思わないけれど」
「お母様?それはわたくしがお父様に、詳しく伝えなかった為です」
今度はミリがラーラの言葉を遮る様に口を挟んだ。
「リート・コーカデス殿とセリ・コーカデス殿との会話で、内密にする様に約束した部分があります。その為にお父様にも細かい事は話せませんでしたし、今もお母様には話せない事があるのですけれど、でも、わたくしはお二人が心から謝罪をして下さったと思っています」
「・・・それで?」
ミリの様子から、他にも言いたい事があるのかと感じたラーラは、ミリに先を促す。
「その時にそれ以外にも謝罪を頂きましたので、お二人がお父様とお母様に伝えたいのも、そちらの件かと思います」
「それ以外にもって、何に付いての謝罪だったの?」
「それに付いては、直接お二人から聞いた方が良いかと、わたくしは思いますけれど」
「・・・そうね」
ラーラは小さく肯くとレントに顔を向けた。
「レント殿」
「はい、ラーラ様」
レントは緊張した表情をラーラに向ける。
「お二人にお会いするわ」
「ありがとうございます」
「良いのか?ラーラ?」
レントの感謝とバルの問いが重なった。ラーラはバルを振り向く。
「バルはどうする?」
「いや、ラーラが会うなら俺も会うよ」
「ええ。一緒に会いましょう」
ラーラに微笑まれてバルは顔を少し蹙めた。その二人にレントは、緊張した表情のまま声を掛けた。
「あの、バル様?ラーラ様?」
「なんだい?」
「実はその事に関しまして、もう一つお願いがございまして」
「何かしら?」
二人に視線を向けられて、レントは無意識に生唾を飲んで喉を鳴らす。
そのレントの様子に、ミリは表情を消して視線を向けていた。




