ニダを紹介
ラーラとバルがコーカデス領に着いた翌日から、ラーラとミリが通訳となって他国からのアドバイザー達に、港町開発の説明が行われた。
港町なので、海から陸に向かって延びる道沿いにレストランやホテルなどを建てる予定だったが、それでは内陸側は海が見え難いとのもっともな指摘があって、建設の方針は一から考え直す事になる。
しかし海岸と並行に建物を建てるとしても、道を挟んで両側に建てるのであれば、海とは反対側に建つ建物からはやはり海は見え難い。それなので道の海側は平屋のレストランを建て、道の反対側はホテルで一階はフロントとラウンジにして二階以上を客室などに設計する事になった。
なお、宿は平屋が常識の国や海上にコテージを建てたい国もある為、その場合は少し離れた場所に建設用地を確保して、要望に応える事にする。
様々な国のアドバイザー達は、ソウサ商会の船で王都に戻ったり自分達の国の船がコーカデス領沖に迎えに来たりして帰ったり、新たな人達が王都からソウサ商会の船で来たり自分達の船で来たり、あるいは予定を変更して帰国を延ばしてコーカデス領に留まったりしていた。
その人達をラーラが中心となって取り纏めて、それぞれの国のレストランやホテルの建設に付いて、コーカデス商会の技術者達も質問や意見を出しながら、皆でアイデアを詰めて行く。それから多くの国の人達が、自分の国から技術者や料理人や従業員や、あるいはそれらの人達を育成出来る人材を連れて来る事を約束して、帰国して行くのだった。
そしてコーカデス領に留まる間に、他国のアドバイザー達にはニダの干物が好評を博す。以前のコーカデス領産の干物を覚えている人も多く、コーカデス領を離れる際にもニダの干物を買い求める人が相次いだ。
干物の需要が大きくなって、ニダの干物作りが追い付かなくなる。しかしミリとレントは忙しい上に、皆の前では立場もあるから手伝う訳にはいかない。それなのでニダが村や近隣の、干物作りを知っている人達に声を掛けて、その人達に干物作りを手伝って貰える事になった。
また、ニダの干物を求める人達の中からは、港を作る事に拠ってこの海岸で魚が獲れなくなる事を懸念する声も上がった。
そもそもコードナ侯爵領の技術者達もソウサ商会が集めた技術者達も、中には王都の港の修理を経験した事のある人はいたけれど、港を一から作る事には誰も経験がない。それなので、港の建設や工事に詳しい人も探して貰える様に、各国のアドバイザー達にレントからの要望が伝えられた。
この辺りではニダ以外の漁師は畑の肥料にする為の魚を獲るだけだし、それも流通が減っているので大した量ではない。しかしレントは将来的には、干物をコーカデス領の特産品にしようと思っていた。その為には魚がいなくなってしまっては困る。
幸いと言って良いのか、港を作るのはまだ少し先だ。水路が完成してからではないと、港の建設に使う石材が海岸まで運んで来られない。それなのでそれまでに、港建設に知見のある人に設計のアドバイスを貰えれば、魚が少なくならない様に港を作る事も出来る筈だ。
レントとミリは、今でもソウサ商会には水路建設の為の人員を追加で募集して貰っていて、工事の完了を早めようともしているけれど、港の設計が終わる前に石材が運べる様になっても、運んだ石材は海岸に置いておく事に方針を決める。水路建設が終われば工事に携わる人達を港建設に回す予定だったけれど、コーカデス領内には他にも農業用水や街道整備などの必要もあるので、港の設計が間に合わなければそちらを先に取り掛かる事にした。
ミリもラーラもラーラの護衛をするバルも忙しく、またニダも忙しかった為、ラーラとバルにニダが紹介されたのは、ラーラとバルがコーカデス領に来てからかなり経った、やるべき事が落ち着いて来てからとなっていた。
「ニダさん」
ミリの呼び掛けに顔を上げたニダは、ミリの後ろに立つ二人に気付くと、体を起こして姿勢を正す。
「これはミリ様。ようこそいらっしゃいました」
貴族に対する礼をニダが取ったので、ミリは眉を僅かに上げた。
「ニダさんと呼び掛けたのだから、今日はミリと呼んでくれて良いのに」
「それは干物を作る時のお約束ですから、そうは参りません。他の方もいらっしゃいますし、きちんとさせて頂きます」
ミリは一瞬眉根を寄せたけれど、直ぐに顔に微笑みを浮かべる。
「そう。それではわたくしも、きちんと紹介させて貰いますね?」
ミリはそう言うとバルとラーラを振り返った。
「お父様、お母様。紹介致します。こちらはここに住むニダです。わたくしに魚の捌き方と干物の作り方を教えてくれました」
ニダはバルとラーラに頭を下げながら、魚の件は伝えて大丈夫なのかと心配になる。干物を食べた事はミリが言わなかったので、ミリはそこで線引きをしているのかとニダは考えた。
「ミリの父でコードナ侯爵家のバルだ」
「バルの妻でミリの母のラーラです。あなたがニダなのね」
「はい。ニダと申します。お目に掛かれて光栄です、バル・コードナ様、ラーラ・コードナ様」
貴族であるバルとラーラに対してのニダのその振る舞いから、ミリはやはりニダが高い教育を受けている事を確信する。
ミリとレントにもちゃんと振る舞ってはいたけれど、最初は平民同士として遣り取りをしていた為か、二人に対しては気易さが出る事もあるし、ふざけた様に大袈裟に振る舞う事もニダにはあった。
しかし今のニダは、バルとラーラに綺麗な所作で返している。
礼儀作法は国によって多少なりとも違いがある。
ミリは色々な国を訪れているニダならもしかしたら、他国での貴族に対する平民としての礼儀作法も知っているかも知れないと思い、干物の作り方より先にそれを習おうかと、ニダの礼を見ながら考えていた。




