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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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親睦を深めて

 仮設桟橋の上で手を振るミリに、ラーラは手を振り返し、バルは手を挙げて応える。


「ミリ!」

「お母様!お父様!」


 非日常的な船旅に、行商をしていた頃の記憶も思い出してテンションが高いラーラの声に、ミリもテンション高く返した。ラーラの隣に立つバルは、ミリの姿と声に胸が熱くなって声が出ない。

 周囲にいた人達は、その三人の様子をほのぼのと見ていた。

 けれどレントはどぎまぎしている。ミリもラーラもバルも、レントには見覚えがない様子を見せているからだ。


 船から降りたラーラがミリを抱き締める。


「ミリ!」


 これに驚いたミリのテンションは通常に戻った。それと共にラーラの今の行動が、ラーラの父やラーラの兄達に似ている事にミリは気付く。


「あの、お母様?人前ですので」

「あ、ああ、ええ。ごめんなさい」


 ラーラはミリの背中から放した手をミリの両肩に置くと、ミリから体を離してレントを見た。


「こんにちは、レント殿」

「コーカデス領にようこそ、ラーラ様、バル様」

「ああ。しばらく滞在させて貰うからよろしく」


 ミリの頭に手を伸ばして撫でながらのバルの言葉に、レントは頭を下げる。


「こちらこそよろしくお願いいたします、バル様、ラーラ様」

「私からも、よろしくお願いします」


 レントは一旦顔を上げて、そう言うラーラに向けてもう一度頭を下げた。

 ミリはバルを見上げ、続いてラーラを見上げながら尋ねる。


「船旅は大丈夫でしたか?」


 バルとラーラはレントからミリに視線を移した。


「ええ。楽しかったわ」


 船酔いを心配していたミリに、ラーラは笑顔を返す。

 ミリはラーラにそっくりだと言われているので、ラーラも船に酔うだろうとミリは考えていた。しかしその様な様子は全くラーラの表情に表れていない。その事にミリは小首を傾げ、バルに顔を向けた。


「お父様も大丈夫でしたか?」

「ああ。思った以上に楽しかったよ」

「そうですか」


 バルの言葉と表情に、ミリの顔が愛想笑いの様になる。


「でも出発時刻は考えた方が良いかもね」


 そのラーラの言葉にミリはまたラーラに視線を向けた。


「出発時刻ですか?」

「ええ」

「それは何故でしょう?」

「出発が朝早いのは慌ただしいし、こうやって到着してももう日が暮れるから、今日は大した事は出来ないでしょう?それなら夕方に出発して、船上で二泊して、朝に着く方が気楽だし、退屈もし難いと思うわ」

「なるほど。ですがそれですと、灯台が必要な位置が増えますね」

「けれど、不測の事態を考えたら、航路沿いにはもっと灯台を置くべきだと思うわよ?」

「ちょっと待って、二人とも」


 議論を始めるミリとラーラをバルが止める。


「そう言う話は落ち着いてからにしよう」

「そうでした」

「そうね」

「では、お父様、お母様。泊まる所に案内しますので」

「ああ」

「ええ、お願い」


 そう言って先導するミリの後に、バルとラーラが並んで進んだ。レントはその後ろに付いて行く。そしてその顔は、少し心配そうだった。


 ミリはバルとラーラを仮設で建てられた宿舎に案内する。


「泊まって頂くのはこちらになります」

「ほう」

「そうなのね」

「あの、バル様、ラーラ様。申し訳ございません」


 宿舎の前でレントが頭を下げた。


「お二人に泊まって頂くには相応しくない建物ですが、現在、この付近には、他に泊まって頂ける施設は用意できてないのです」

「いいえ。構いませんよ?」

「そうだね。ミリからはここの話は聞いていたし」

「想像していたよりは立派だわ」

「そうだな」

「そう仰って頂いて、ありがとうございます」

「私は行商で野宿とかも経験していますし」

「私も訓練で野営したりするからね。問題ないよ」

「しかし、貴族であるお二人に泊まって頂くには」

「レント殿も泊まっているのでしょう?」

「はい」

「ミリもだよね?」

「はい、お父様」

「分かって来ているのだから、レント殿。問題ない」

「ありがとうございます」


 そう言ってまた頭を下げるレントに、バルは肯いて返す。ただラーラは、自分とバルとミリは大丈夫だけれど、身の回りの世話をする為に傍に付いて来てくれた人達の方が、戸惑うかも知れないと思っていた。



 仮設宿舎には広間もある。食事時にはその広間が食堂になった。

 その広間に、設計士達関係者が集まる。その前にラーラとバルが立ち、隣に立ったミリが二人を紹介した。


「こちらはバル・コードナ侯爵令息とその妻ラーラ・コードナ夫人です。ラーラ・コードナ夫人は、この港町の運営を(おこな)っていきます。二人は港町が完成するまで、基本的にはこちらに滞在します」

「ラーラ・コードナです。コーカデス商会より、港町運営の責任者を任されました。レストランやホテルの建設も主導していきますので、よろしくお願いします」


 そう言って微笑みを浮かべるラーラに、設計士達は戸惑いながらも頭を下げると、声を揃えて返す。


「よろしくお願いいたします、ラーラ・コードナ様」


 その様子を見回してから、今度はバルが口を開いた。


「コードナ侯爵ガダの三男であり、このミリの父親バルだ」


 そう言うとバルはミリの肩を抱き寄せる。そして反対の手でラーラも抱き寄せた。


「ラーラの夫ではあるが、ここでの職務はラーラの護衛を務める。よろしく」

「よろしくお願いいたします、バル・コードナ様」


 そう言って頭を下げて返す人達に、バルは肯いて返す。

 ミリは傍に控える一団を手で示した。


「港町には異国風の建物や店を作りますが、この方達はそのアドバイスをして下さる為に来てくれています。この国の言葉を聞き取れる人も話せる人もいますが、わたくしとコードナ夫人が通訳をしますので、設計等に関わる話の時には、わたくしかコードナ夫人を同席させて下さい」


 そう言うとミリは見回して、技術者達が肯いているのを確かめる。


「他国の方達はこの後もこちらを訪れますが、港町の完成まで滞在して貰える訳ではありません。御自分達の都合で帰ってしまいます。完成が近くなったら仕上げの確認の為に、また来て頂く予定ではありますが、それから手直しなどをする様では大変ですので、訊きたい事などは聞き漏らさない様にして下さい。また、手配できたら、それぞれの国の設計士や建築家に来て頂くかも知れません。その事も予め心に留めておいて下さい」


 再び技術者達が肯いている事をミリは確認した。


「これよりパーティーを行いますが、お互いに親睦を深めて頂ければと思います」


 そう言うとミリは、各自にグラスを持つ事を促す。


「それではコーカデス子爵閣下に、乾杯の音頭を取って頂きます。コーカデス閣下。よろしくお願いいたします」


 ミリに卿ではなく閣下と呼ばれて頭を下げられて、レントは少し慌てたけれど、直ぐに気を取り直してグラスを掲げた。


「それでは港町建設の成功と、事故が起こらない事と、全員の健康と無事を祈って、乾杯!」

「乾杯!」


 全員が声を揃え、他国の人々もこの国の言葉で、乾杯を復唱するとグラスを傾ける。そして飲み干すとグラスを頭上に掲げた。

 テーブルの上には食事とつまみと酒が用意され、皆がお互いに酒を注ぎ合う。酒が飲めない人向けにはジュースも用意されていた。ミリとレントもジュースだ。


 少しするとバルとラーラは退席した。バルが傍にいても、多少は緊張してしまうラーラを気遣ったのもあるが、貴族が同席すると技術者達の方も緊張するからだ。

 ミリとレントも貴族ではあるけれど、二人とはこの日までに交流があった為、二人になら技術者達もそれほど緊張はしなくなっている。

 そしてミリは他国の人達に、レントの事を紹介していった。中にはレントがコーカデス家の人間だからと固い態度を見せる人もいたけれど、ミリが会話を回す事で、その様な人達もだんだんとレントと打ち解けていった。


 その後、酔いが回って来ると、他国の人達と技術者達が、言葉が通じなくても身振り手振りで会話を始めたりする。笑い声もあちらこちらで上がる様になっていった。

 そうすると中には、技術的な話を始める人達も出て来る。そうなれば専門用語を通訳をして貰う為に、あちらこちらからひっきりなしに、ミリを呼ぶ声が上がる事になった。

 その様子を眺めるレントには、改めてミリへの感謝と尊敬の念が心に浮かんでいたし、また自分への不甲斐なさも感じる。


 港と港町を作るなら、領地開発が成功すれば、この先も他国の人との交流は増えていく。

 そう考えてレントは、一つずつで良いから、喋れる言葉を増やしていこうと、人々の中心になって笑い合うミリを見ながら決意を固めていた。

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