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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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ラーラの相談

 ミリ商会が費用を出してコーカデス領から王都までの街道整備を行う計画に対して不許可を出した貴族家があり、その理由としてはコードナ侯爵家に駆け引きを持ち込む事か、あるいはコーカデス領の開発自体を妨害する事が考えられた。

 そしてそれはその貴族家が公爵家に与している事から、コードナ侯爵家を含む侯爵六家に対峙する公爵三家への警戒に繋がる。それに拠って公爵三家派には、コーカデス領の領地開発に関する情報は広めない方針となった。


 ミリからはソウサ商会へコーカデス領での働き手を集める様に依頼していたけれど、その募集先も公爵三家とそれに与する貴族家の領地は対象から外す事にする。

 そもそも公爵三家派の貴族家はソウサ商会に広域事業者特別税を掛けた事があり、ソウサ商会はその領地から撤退している。しかし人材募集に関しては、募集元が公爵三家派の領地でなければ広域事業者特別税が掛けられない為、ソウサ商会は公爵三家派の領地でも人材を募集していた。

 ただし公爵三家の領地では、領民の帰属意識が強くてソウサ商会の募集に応じる人間はそもそも少なかったし、それに応じる様な人は景気の悪かった公爵三家派の領地からは既に出てしまっている。それなので今回のコーカデス領の働き手の募集にも、公爵三家派の領地では一人も人が集まっていなかったので、不自然ではなく募集を中止する事が出来た。


 コーカデス領の港町に作るレストランとホテルを経営する為に、ラーラは旧知の船員達に会おうとしていたけれど、その相手も公爵三家派の貴族と関わる船は避ける事に決めている。

 商品として船で何を運ぶかに付いては、価格とその重量も選択の理由になる。値段に対して軽い宝石、貴金属、美術品や工芸品などはそれほど場所を取らないので、他の荷を運ぶ時にも序でに運ばれる。そしてそれらの販売先は、この国では殆どが貴族だった。

 その為に船毎に付き合いのある貴族家があった。ただし同じ国の船であっても、付き合いのある貴族は船毎に異なる。貴族側から見れば、同じ国の物を複数の船から手に入れる必要はないからだ。

 ラーラは公爵三家派と関わりの無い船に対してだけ、話を持ち掛ける事にしていた。



 ラーラとバルは一緒に、王都の港町に停泊する船の船長室を訪ねていた。


「いや、内密に会いたいなんて言うから、何かと思ったぞ」


 ニヤリと笑う船長に、ラーラは苦笑を返す。


「ごめんね」

「貴族の嫁さんなんてラーラには似合わないと思ってたからな」

「まあ、私もこうなるなんて思ってなかったけど」

「だからこの国から逃げ出す相談かと思ってヒヤヒヤしてたけど、こうやってダンナと一緒なんでホッとしたよ」

「ヒヤヒヤ?ワクワクじゃないの?」

「ヒヤヒヤさ。こう見えて、小心者なんだぜ?」


 口ではそう言いながら船長は、両腕を上げて力を込めて筋肉を強調してみせた。それを見たバルの筋肉もぴくりと動くが、ラーラは船長の筋肉には興味を見せずにただ微笑む。


「小心者では船長にはなれないでしょう?慎重ではあると思うけど、皆に言う事言えないと駄目だし。こうして話してても、昔と変わってない様に見えるわよ?」

「昔と変わってなかったのはラーラの方さ」

「そう?」

「ああ。ミリから話は聞いてたけど、今日も最初はミリが来たかと思ったよ」

「やっぱり似てる?似てるのはミリの方だけど」

「ああ。そうやってダンナと一緒に幸せそうな様子で、本当に、ほんと、うに、良かった」

「え?・・・ちょっと?どうしたの?」


 涙と共に声を詰まらせた船長にラーラは慌てた。

 船長は立ち上がるとバルに詰め寄り、その手を掬い取る。バルも慌てた。


「あんたのお陰だ。バル様」

「え?」

「あの、バルのお陰だって」

「俺はもう、ラーラとは会えないかと、覚悟してたんだ。俺とか、なんにもしなくても、見た目で怖がられるし。でも、今日、こうして、ラーラが会いに来てくれて、俺は、本当に、ほんと、うに、嬉しいんだ」

「ラーラ?」


 船長に手を握られながらもバルは、小さく嗚咽を漏らしたラーラを見る。


「もう、私に会えないと、思ってたんだって」

「それもこれも、あんたがラーラを幸せにしてくれたからだよ。バル様・・・おい、ラーラ?泣いてないで訳してくれよ」

「泣いてないわよ・・・船長が泣くから釣られただけよ」

「いいから、これからもラーラを幸せにしてやってくれって言ってくれよ」

「これからも、私を幸せにしてやってだって」

「ああ、もちろんだ」


 バルも立ち上がり、船長と目を合わせて手を強く握り返すと、力強く肯いた。



 落ち着いたところで、ラーラが話を始める。その内容を聞いて船長は、直ぐに顔を蹙めた。


「コーカデス領だって?」

「ええ、そうだけど?」

「どう言う事だ?誘拐犯じゃないか」

「違うわよ。紛失した封筒が利用されただけで」

「そう言ってるだけだろう?その後もラーラを殴ろうとしたって聞いてるぞ」

「そう言う行き違いもあったけど、それは今の領主が生まれる前の話だし」

「それにも言いたいことはある」

「え?」

「ミリがコーカデスの領主と付き合ってるってのは本当なのか?」

「付き合ってるも何も、貴族としての付き合いなら私や夫にもあるわよ?でも縁談とか交際とかの付き合いはないわ。交流はあるけど」

「・・・そうだとしても、なぁ」

「ホテルやレストランを建てる事業も、そもそも港町を作る話も、ミリとコーカデス卿が始めた話だし」

「それで得をするのはコーカデスじゃないか」

「私も夫も投資をするから儲かるけど」

「そう言う事じゃねぇよ」

「これに成功すれば、この国でのミリの評価は高まるわ」

「うん?事業を進めるのはラーラじゃないのか?」

「そうだけど、事業のオーナーはミリで、コーカデス卿も後援の様な立場だから、功績は殆どミリの物よ」

「それってつまり、責任もか?」

「まあ、そうね」

「自分の娘に何やらせてんだよ」

「あの子がやりたいのよ。子供がやりたい事を助けるのも親の役目じゃない」


 船長が溜め息を吐く。それを見てラーラは苦笑を浮かべた。


「無理にはお願い出来ないから、協力して貰えないなら仕方がないわ。でも、話は漏らさないでね?特にさっき伝えた貴族家には伝わらない様にして」

「そしたら俺の国の店はどうなるんだ?公爵家に繋がらない船なんて、この船だけだろう?違ったか?」

「出店する国が減るけど、その分、他の国の船にも声を掛けるから」


 ラーラは微笑むけれど、それが船長には少し寂し気に感じる。

 船長はもう一度、今度は大きく溜め息を吐いた。


「分かった。協力する」

「ホント?ありがとう!」


 身を乗り出そうとするラーラを船長は手で制す。


「だが、コーカデス子爵閣下の事が気に入らなかったら、話は白紙だ」

「ええ。きっと気に入るわ」


 明るくそう言うラーラに、船長は顔を蹙めた。


「言っとくが、いくらラーラとミリに頼まれたからって、俺はそんなに簡単に絆されたりはしないからな?」

「そうでもないと思うけど」


 ラーラは微笑みながら小首を傾げる。


「だってコーカデス卿は、ワさんにもラッカさんにも気に入られているのよ?」


 船長は目を見開いた。


「え?・・・ワとラッカって、あのワとラッカか?俺の知ってる」

「ええ」


 ラーラが笑顔で肯く。


「二人はもう、コーカデス領の港建設予定地にも行った事があるそうだし」

「マジか」

「だからコーカデス卿を気に入る船乗りは多いかもね?」


 そう言ってまた微笑みながら小首を傾げるラーラを見て、船長は「マジか」と呟いた。

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