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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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借名交渉

 ミリ商会の新たな名にコーカデスを使うなど、レントには理由が全く分からない。


「え?どうしてですか?」

「ミリと言う名を出さなければビーニも、罪を問われたりする事にはならなかったでしょう」


 ミリの表情に滲んだ憂いにレントは気が付いた。確かにその可能性はあったとレントも思う。


「いえ、ですが、ビーニは以前からミリ様の、ミリ様と出会う前からミリ・コードナ様の事を侮辱していた筈なのです」


 ミリは目を伏せ、首を小さく左右に振った。


「それはビーニだけではありません」

「しかし」

「分かっています。平民が貴族を侮辱する事を赦す訳にはいきません。わたくしもコードナ侯爵家もビーニを赦したとしても、見せしめとして、ビーニは罰せられる必要があります」


 ミリは真っ直ぐにレントを見詰める。


「しかしビーニは他の貴族を侮辱したりはしないでしょう。周囲がわたくしを蔑んでいたから、そう言う扱いをして良い相手なのだと学んだだけで、生まれた時からわたくしを侮辱していた筈がありません」

「それは分かりますけれど」

「今後もミリ商会の名を聞いた人がわたくしの事を思い付けば、本来は不要な争いが生まれるかも知れません。それなので、わたくしの名前は変える事は出来ませんから、商会の名だけでも変えようかと思うのです」


 レントの眉尻を下げて、首を左右に振った。


「いいえ。本来なら、ミリ様を蔑む者達の考えこそを変えるべきなのです」


 ミリは首を小さく左右に振る。


「それは現実的ではありません。それにわたくしはいずれ平民になるのですから」


 レントは首を激しく左右に振った。


「いいえ。ミリ様は立場に関わらず尊敬すべき方です。ミリ様と少しでも話せばそれが分かります」

「わたくしを悪魔の子と言う人全員と話すのは無理ですね。多過ぎます」

「そう言う事ではありませんミリ様!」


 レントは強い視線をミリに向ける。


「わたくしはミリ様が喩え平民になられても、ミリ様の事を尊敬し続けます。それはミリ様がコーカデス領に与えて下さる恵みとは関係ありません。もしコーカデス領がなくなったとしてもです」


 両手を強く握りながら声に力を込めるレントに、ミリは目を大きく見開いた。そのミリの様子に、レントはさっと熱を冷ます。


「申し訳ございません。あの、ミリ様に力を貸して頂くのに、コーカデス領がなくなる様な例を挙げてしまいまして、謝罪致します。申し訳ございませんでした!」


 勢い良く下げられたレントの頭に向けて、ミリは微笑んだ。


「それほどわたくしの事を評価して頂けるのでしたら、お名前をお貸し頂けますよね?」

「え?」


 顔を上げたレントには、町娘のミリが揶揄う時の表情の欠片をミリの顔から読み取る。


「いや・・・それは、しかし」

「悪魔の子に貸すのはお嫌ですか?」

「ミリ様」


 ミリの言葉がレントは心底嫌だったし、レントはそれをストリートに表情に出した。


「冗談でもその様な事は仰らないで下さい」

「それではコーカデス卿のお名前の方ならよろしいですか?」

「え?」

「レント商会」

「ミリ様」


 レントはまた嫌そうな顔を返す。


「冗談はお止め下さい。誰の商会か分からなくなります」

「それでしたらやはりコーカデス商会ですね」


 ミリはここまで浮かべていた微笑みを消して、真剣な表情をレントに向ける。


「わたくしはただお金儲けの為ではなく、商会を人々に必要とされる物にしたいと思っています。それは今後のコーカデス領でもです」

「取り引き量で言えば、今現在でもミリ商会より大きな商会は、コーカデス領にはございません」

「いいえ。わたくしが求めるのは規模ではありません。コーカデス領の人々に取って頼りになり、常に期待を裏切らない。その様な商会にしたいのです」

「コーカデスの領民の事を思って下さるのは、とても嬉しく思います」

「ですから」

「ですが、ミリ様への偏見をなくす為にも、ミリ商会はミリ様の名を冠すべきです」

「コーカデス卿。優先順位を間違えてはなりません。わたくし達が優先すべき事はコーカデス領の発展です。その為にはコーカデス卿の重用する商会は、コーカデス領に根付いているべきです。王都の商会があれもこれも独占していたら、良く思わない領民も出て来るでしょう」

「そうかも知れませんけれど、それは生活が良くなれば抑えられるタイプの不満の筈です」

「いいえ。その商会がミリ商会と言う名でしたら、そうはなりません。実際に生活が良くなっても、ミリ商会が利益を上げているのを見れば、嫉妬を感じる筈です。自分達が手にするべき利益が、ミリ商会に奪われていると感じるに違いありません」

「いいえ。その様な事を思う人間も確かにいると思いますが、それは極一部です」

「いいえ。一人がそう言い出せば、ミリ商会をその様な目で見る人は増えますし、やがてはそれが領民達の間で共通の認識となるでしょう」

「しかしそれは、コーカデスの名を付けても同じではありませんか?」

「いいえ。レント商会なら多少はその傾向があるかも知れませんが、コーカデス商会なら違います。コーカデス卿が領地の為に領政を行う姿勢が領民に周知されれば、その領政に関わるコーカデス商会が利益を上げても、それが領地の利益と結び付いている事が感覚的に分かる筈です。ミリ商会はもちろんレント商会でも、コーカデス卿がもたらした領地の利益が奪われていると感じるでしょう」

「ミリ様の仰る事はイメージ出来ますが、たかが商会名でその様な違いが出るなどとはとても思えません」

「いいえ出ます。ですがそう、たかが名前なのです。ですのでコーカデス卿が嫌ではなければ、是非、商会の名前をコーカデス商会に変えさせて下さい」

「いや、嫌ではありませんが、ミリ様への偏見が」

「悪魔の子の件はわたくしの問題です。その為にコーカデス卿に何かをなさって頂く必要はございません」

「ミリ様・・・」

「お願いします」


 ミリはレントに頭を下げた。


「ミリ様」

「商会の運営を円滑に進める為にも、家名をお貸し下さい」

「・・・分かりました。ミリ様の商会にコーカデスの名を使って頂ける事は、とても光栄な事です。どうぞ、コーカデスをお使い下さい」


 レントの言葉にミリは顔を上げる。


「ありがとうございます」


 笑顔でそう言うミリに、レントはぎこちない微笑みを返した。

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