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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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領民への説明

 ミリは橇の撤収を命じた。

 その様子を眺めているミリとレントに、地元の人間が声を掛ける。


「あの、あんたら、何をやっとるんですか?」


 その言葉にレントの護衛達が反応した。


「気易く声を掛けるな」


 剣の柄に手を掛けてそう返す護衛に、地元民は驚いて半歩下がる。


「いや、あの」


 護衛達を手で制したレントは、慌てて言い訳をしようとしている地元民に対して言葉を返す。


「この先を開発するのに、荷運び方法を検討しているのだ」

「え?・・・開発?」

「ああ」

「この先を?」

「そうだ」

「この先なんて岩場と砂浜しかないけど?」

「まあそうだな」

「いや、何をすんのか分からんが、勝手をすると町長とかに文句を言われるかも」

「心配してくれるのか」

「あ、いや、まあ、あんたらは心配いらんのかも知れんが、うちの集落にとばっちりが来たりするのも困るし」

「そうか。その心配も無用だ」

「あの、もしかしたら、あなた様は貴族様ですか?」

「ああ、そうだ。わたくしはコーカデス子爵レントだ」

「コーカデス、子爵?」

「ああ」

「コーカデス子爵だって?」

「ああ」

「コーカデスって、ここのコーカデスの事じゃないんですよね?他にあるんですか?」

「いや。ここのコーカデスの事だが?」

「いや、だって、ここは伯爵領ですし、伯爵様はスルト様って言う中年ですから。見た事ありますし、変な事を言ってると捕まりますよ?」


 地元民の言葉にレントは、ほんの少し目を細めた。


「・・・そうか」

「ええ」

「周知が行き届いていないのだな」

「え?周知?」

「この地は先日、伯爵領から子爵領に格下げになったのだ」

「え?・・・嘘でしょ?」

「いや、本当だ。国王陛下がそれを認めた」

「え?でも、なんで?」

「領地内で密造や脱税があった事に起因して、伯爵領として必要な税を国に納められていなかった為だ」


 レントの端折った説明に、地元民は驚きを見せる。


「税金、しっかり取られてますけど?」

「密造などで利益を上げて起きながら、税を納めていない者が大勢いたのだ」

「そんな・・・侯爵から伯爵に格下げになった時も大変だったのに、今度は子爵だなんて」

「今以上状況を悪化させない為に、領内の開発を進める。今は不安を感じるかも知れないが、開発が進めば領内での暮らしは楽になる筈だ」

「開発を進めるって、でも、あのスルト様がですか?」

「スルトはわたくしに領主の座を譲ったのだ」

「え?・・・するとあなた様は、御子息のレント様?」


 さっき名乗ったのに、とレントは苦笑いしそうになりながら、真面目な表情を地元民に向けて肯いた。


「ああ。国王陛下より爵位を賜った新たな領主、レント・コーカデス子爵だ」

「ええ?こんな・・・」


 地元民の顔に明らかに不安が浮かぶ。レントはまた苦笑いを飲み込んだ。


「そなたの周囲の人々にも、この事は周知しておく様に」

「え?・・・あの・・・」

「良いな?」

「あ、はい」


 地元民は肯くと、慌ててその場を去って行った。


 地元民の後ろ姿に、レントは小さく息を吐く。それに気付いたミリが、レントに声を掛けた。


「コーカデス卿、あの、大丈夫ですか?」


 大丈夫ですかは違うかとも思ったけれど、ミリは咄嗟に他の言葉が出なかった。


「ええ。お見苦しいところをお見せしました」

「あ、いえ」

「周知が行き届いていない事も、それをわたくしが把握出来ていない事も、お恥ずかしい限りです」

「・・・良く考えると、確かに思わしくはありませんね」

「はい。広報が届いていなければ、思わぬトラブルに繋がりかねません。課題ですね」

「コーカデス卿が授爵した事は、周知されている筈なのですよね?」

「そうですが、授爵を祝う様な事もしておりませんから、領民の話題に上っていないのかも知れません」

「・・・そう言うものなのかも知れませんね」

「はい。降爵したのですから、祝えたものでもありませんでしたが、代わりに何かを行うべきでした」

「・・・領地開発の情報と共に、コーカデス卿が領主である事を浸透させて行けば良いですね」

「そうですね。ミリ様の仰る通りですが」

「少なくとも新しく住民となる人には最初から、コーカデス卿が領主だと分からせましょう」

「そうですね。そう心掛けますし、文官達にもそれを徹底させます」


 そう返したレントにミリは微笑む。


「これから作る水路には、コーカデス卿の名を使いましょう」

「え?」

「レント水道。いかがです?」

「いえ、それでしたらミリ様の名を冠するべきです。お名前をお貸し下さい」

「わたくしの名を付けると、領民の反感を買いますよ?事業に邪魔が入るかも知れません」

「・・・わたくしの認知度を上げるよりも、領民達にミリ様への認識を改めさせる事の方が優先すべき課題でしたね」

「いいえ。わたくしは表に出ない方が良いでしょう。領地経営が軌道に乗れば、引き留められる事もなくなるのですし」

「もしミリ様がこの地を去っても、領民達にはミリ様への感謝を忘れさせたくないのです」

「わたくしの名が前に出たら、それこそ思わぬトラブルに繋がります」

「・・・申し訳ございません」


 頭を下げるレントにミリは首を小さく左右に振った。


「第一優先はコーカデス領の開発が上手く進む事です。構いません」


 頭を一度上げてミリと目を合わせて、レントはもう一度頭を下げた。


「ありがとうございます。ミリ様。心より感謝を致します」


 そのレントの様子にミリは、もう一度首を左右に振る。


「いいえ」


 そう返しながらミリは、石切り場に連れて行った石工達や、今回連れて来た技術者達に、領民達にはミリの名を出さずに、レントの名を前に出す様に命じる事を決めた。

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