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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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懸念と戒め

 コーカデス領の領都から港の建設予定地まで来る為には、利用出来る道が二つある。

 一つは水路に沿ってニダの畑の裏に出る道。但しこちらは道幅が狭く、ミリの手配で馬は通れる様になったけれど、馬車は通る事が出来ない。

 もう一つは町や村を繋ぐ道を辿って海岸近くの漁村にまで来る方法。但しこちらはその漁村からニダの住む集落までは砂地で、やはり馬車は通れない。

 それなのでミリは、砂地で荷物を運ぶ為に、船で橇を運んで来ていた。


 ミリとレントが並んで、砂地で馬に橇を牽かせる様子を見る。そしてミリは溜め息を吐いた。


「これは、無理そうですね」


 レントは眉根を寄せて肯く。


「そうですね。高低差があると、登らせるのは大変そうですし、(くだ)らせるのも危なそうです」

「ええ」

「二頭で牽かせてみますか?それとも牛で試すとか?」

「そうですね・・・しかし、二頭立てで牽けるとしても効率が悪いですし、降りが危ないのには牛も変わらないでしょう」

「そうですね」

「どうせならやはり、馬車で牽ける様に道を作りたいですね」

「ここを使うのでしたら、仰る通りですね」

「道を作るにしても、高低差を均さなければ意味はないですけれど」

「それなりの工事になるそうですよね」

「ええ。それならここを工事する為の人員は、水路工事に回すべきでしょうね」

「そうですね。水路に道路を併設しますから、そちらが完成すればこちらに作った道路は使わなくなりますし」

「ええ。水路工事と並行して道路工事をすれば、建材を運びながら建設する事も出来ますから、そちらに人と資材を集中させましょう」

「分かりました」


 レントはミリの意見に肯いた。


 ミリは気になっていた話題を出すタイミングを計っていたのだけれど、話題を繋げる事は諦めてレントに話し掛けた。


「コーカデス卿?」

「はい、ミリ様」


 ミリは表情を消した顔をレントに向ける。


「ニダとの件ですけれど、コーカデス卿はこのままでもよろしいのですか?」


 レントの眉根が僅かに寄った。


「・・・立場の件ですか?」

「ええ。わたくしは以前と変わらない付き合いをニダさんにお願いしましたが、コーカデス卿はなさいませんでしたよね?」

「はい」

「もしかして、わたくしもニダとの付き合い方を変えた方が良かったですか?」


 ミリの問いにレントは目を見開く。


「え?いえいえ、その様な事はありません」

「そうですか?もしかしたらこれまでも、コーカデス卿はニダに身分差を弁えさせたいと考えていらしたのに、わたくしがそれを邪魔していたりしませんでしたか?」


 眉尻を僅かに下げたミリに対して、レントは片手の手のひらを見せて左右に振った。


「いえいえ、違います。その様な事はございませんし、わたくしも干物作りや畑の手伝いを楽しんでおりました」

「そうなのですか?」

「もちろんです。ミリ様にはそうは見えてはいませんでしたでしょうか?」


 困った様なレントの顔を見て、ミリは首を小さく左右に振る。


「・・・いいえ。コーカデス卿も楽しんでいると思っておりました」


 ミリにそう言われて、レントは小さく息を吐いた。


「そうですか。良かった。ミリ様?」

「はい」


 レントはミリに微笑みを向ける。


「ミリ様がニダに、これまで通り平民として接する様に仰ったのは、わたくしもあの場で同じ事を言い出し易くして下さったのですよね?」

「・・・それは、ですが、余計な事をして、申し訳ありません」


 ミリが少し頭を下げるとレントは少し慌てた。


「いえいえ、お気持ちはとても嬉しかったのです。ですが・・・なんと言いますか・・・言うなればけじめでしょうか」

「けじめ?」

「はい。わたくしはこの地の領主になりましたので、他の地でしたらお忍びも良いですけれど、コーカデス領では常に領主としてあろうかと思うのです」


 そう言って微笑みを向けるレントに、ミリは反論がしたくなる。それは意見があると言うよりは、反発したい感情が動いたからだ。


「・・・領地の普段の様子を見る為に、領主がお忍びで視察する事も効果があるとは思いますけれど」

「そうですね。ですが理想としては、普段の様子が正確に領主に報告される様な施政を行うべきではありませんか?」

「それは、そうですけれど、理想と現実は違います」


 言っても仕方がない事だと分かっていながら、ミリはそう口にしてしまう。それをレントは微笑みで受けた。


「そうですね。それに今はお忍びで情報を集めるより、領主として領地を見て回っている姿を領民に知らしめるべきだとも思うのです」

「それは確かに、領民の気持ちを掴むのに効果がありそうですけれど・・・」


 反論を重ねたいのだけれど、思ってもいない事は中々ミリも考え出せない。


「ありがとうございます。ミリ様にそう言って頂けると、わたくしも自信が持てます」


 反論に繋げる筈の言葉をレントに好い様に拾われて、ミリは返しに戸惑った。


「あの、いえ。コーカデス卿は領地の事をとても良く考えていらっしゃいますから、わたくしが何を言っても言わなくても、自信を持って事に当たって頂ければよろしいかと思います」

「そのお言葉も嬉しいですし、自信になります。ありがとうございます」

「あ、いえ」

「いずれはお忍びもするかも知れませんが、今、ニダのところで干物を作ったりするのは、領主の仕事とは言えません。レントとしてただ楽しいだけです。それなのでそう言う楽しみは、領地開発に余裕が出来て、ミリ様をコーカデス領に無理矢理引き留めなくても良い様になってから、味わおうと思います」


 無理矢理引き留めると言う事に、ミリは少しムッとする。


「それならコーカデス卿はわたくしにも、ニダとは距離を置くべきだお考えなのですね?」

「え?いえいえ、違います」


 レントはまた目を見開いた。ミリはその様子を目を少し細めて見る。


「ですが、無理矢理にでもコーカデス卿に合わせた方が、コーカデス卿としてはよろしいのではありませんか?」

「いいえ。ミリ様にはニダとこれまでの様な交流を続けて頂いた方が、ミリ様にコーカデス領に対しての愛着を抱いて頂ける事もあるかと思いますので」

「つまり、無理矢理ではなくても、わたくしが自主的にコーカデス領に関わる様になると?」

「そうなって頂けたら、わたくしとしてはとても嬉しいです」


 そのレントの言う嬉しさに、ミリを思い通りにする事への喜びが含まれている様にも受け取れて、ミリはまた少しムッとした。


「そうですか」


 それなのでミリの返した言葉は、声が少し低くなる。

 それに気付いてレントは、ミリに気にせずにニダと交流して欲しいだけだったのに、自分が嬉しいなどと付け加えたからミリの機嫌を損ねたのかと感じた。そして、わたくしを喜ばせる為にミリ様が何かをなさる必要はないのですよね、と考える。

 それに、嫌っている相手が喜ぶのを見て良い気分になるわけはないと思い、レントはミリの前では喜ばない様にしなければならないと、自分を戒めた。

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