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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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あらためて

 ニダはゆっくりと動いて、レントに向けて貴族に対しての平民としての礼を取る。その姿にミリは少しの驚きと共に納得も感じていた。ミリはニダが、平民としては高い教育を受けているのではないかと思っていたのだけれど、今の所作からもそれが窺えていた。


「これは、知らぬ事とは言え、高貴なお方にこれまで失礼な態度を取りまして、どうか御寛恕頂きたいと存じます」


 ニダにそう言われてレントは、胸に痛みを覚える。


「赦す」


 そのレントの言葉は、短いのに擦れていた。そこにミリが口を挟む。


「あまり驚いていないのかしら?」


 そう言葉を掛けられて、ニダは顔を上げてミリを見た。


「私ですか?」


 ニダは小首を傾げる。ミリは小さく肯いた。


「ええ」

「驚いてはおりますよ?」


 ニダはミリに微笑む。


「その割には落ち着いている様に見えます。もしかして気が付いていましたか?」


 ニダは首を小さく左右に振った。


「いいえ、まさかコーカデス子爵閣下だとは思いませんでした。しかしコーカデス子爵閣下の物腰から、貴族の御子息ではないかとは思っておりましたし、何よりミリ様と親しげになさっていらっしゃいましたので、それなりの(かた)だとは思っておりました」

「え?」


 ニダの言葉にミリは目を見開く。


「・・・もしかして、わたくしの方が素性に気付かれていたのでしょうか?」

「コーカデス子爵閣下がコーカデス子爵閣下だと言う事で確信を抱きましたが、私はその昔、王都の港でラーラ・コードナ様のお姿を見た事がございます」

「・・・そう。母を」


 ミリは微笑みを浮かべた。


「そうなのですね」

「はい。他の国の港でも、私がこの国の人間だと分かると、船乗り達は必ずと言って良い程、ラーラ様の話題を話し掛けて来ました。ラーラ様は色々な国の船乗り達に良く知られていらっしゃいますね」

「ええ。その様です」


 小さく肯くミリに、ニダも小さく肯いて返す。


「ミリ様はラーラ様とそっくりだとの噂は、私の所にも届いておりました。私がお見掛けしました当時はまだソウサ家のラーラ様でしたが、ミリ様に初めてお目に掛かった時に、その当時のラーラ様に良く似ていらっしゃると感じました」

「そうですか。では、あらためて」


 ミリは姿勢を正した。


「わたくしはコードナ侯爵ガダの三男バルの長女ミリです」


 ニダはミリにも貴族に対しての礼を取る。


「ミリ様にも、ミリ様はミリ・コードナ様でいらっしゃるのだろうと思いながら、失礼な態度を取ってしまい、誠に申し訳ございませんでした」


 ミリは小さく息を漏らしてから、首を小さく左右に振った。


「いいえ。わたくしはいずれ平民になりますし、身分を隠している事に協力頂いていたのですから、一切構いません」


 ミリの言葉にニダは一旦頭を上げて、再び下げる。


「御寛恕頂き、ありがとうございます」


 ミリはまた首を小さく左右に振った。


「それで、わたくしは普段はこの地では、町娘のミリとして過ごしますから、その様に接して下さい」

「え?ミリ様?」


 ミリの発言にレントは驚く。そのレントに微笑みを向けてから、ミリはまたニダに視線を移した。


「それなので普段はニダさんと呼ばせて下さい」

「あの、いや、ですが、しかし」


 戸惑うニダに、ミリは町娘モードの笑顔を向ける。


「干物や煮干しをちゃんと作れる様に、これからも教えて貰うんですから、ニダさんは私の師匠です」

「え?」


 ニダは驚きを顔に表した。


「今後も干物とかを作るお積もりなのですか?」

「ええ」


 ニダの顔に困惑が戻る。


「それは、しかし、コードナ侯爵閣下ですとか、ミリ様の回りの方々がお許しにはならないのではありませんか?」

「その様な事はありません」

「ですが、しかし」


 更に困惑するニダに、ミリは明るく笑ってみせた。


「ニダさんも私がミリ・コードナだと思いながら、干物の作り方を教えてくれていたのでしょう?」


 ニダはますます困惑する。


「いえ、ですがそれは、まさか本当に魚を捌いたりなさるとは最初は思いませんでしたし、ミリ様がどこまで平民を装うのか分かりませんでしたから、その場の流れに合わせただけなのです」

「そうなのですね。ありがとうございます」


 ミリは笑顔を真顔に変える。


「確かに貴族の令嬢としては、魚を捌いたりさせて貰えないかも知れません。それなので私はこれまで通り、町娘として振る舞います」

「ですがミリ様?」

「それですから私の事はこれまで通りに、ミリと呼んで下さい。敬称は不要です」

「いや、それはちょっと」


 ニダは更に戸惑いを顔に表した。そのニダにミリは小首を傾げながら、町娘モードの表情で尋ねる。


「なんで?何も問題ないでしょう?」

「いや、ですが、侯爵家の御令嬢な訳ですし」


 ニダに向けて、ミリはにっこりと笑ってみせた。


「それに気付いてながら、ニダさんはこれまで普通に接してくれてたでしょう?」

「それは、これまでは確信がありませんでしたし、ミリ様がミリ・コードナ様だとしても、何らかの御事情があるからだと思ったからですので」

「そうなのです。実は今も込み入った事情があるので、ニダさんはこれまで通りに私に接して下さいね」


 そう言って笑顔を向けるミリに、ニダは肩を落とす。


「・・・分かりました。但し、コーカデス子爵閣下とミリ様の部下の方達だけの前ならよろしいですが、他の王族や貴族の方々の前では、御勘弁を願います」

「仕方ありません。それで良いですよ」

「ありがとうございます」


 そう言って頭を下げるニダにミリは微笑みを向けてから、質問を投げた。


「ところでニダさん?」

「はい」

「王族がこの地に訪れるかも知れないと、ニダさんは考えているのですね?」

「あ、いえ」

「それは何故ですか?」


 ミリに見詰められてニダは、小さく息を吐いて肩の力を抜く。


「・・・この地に港を作るのでしたら、その完成式典には貴族の(かた)を呼ぶのではないかと思いました。ミリ様がいらっしゃるのでコードナ侯爵閣下かとも思いましたけれど、港ですから、王族の方が出席なさってもおかしくはないと思ったのです」

「なるほど。さすがです、ニダさん」

「あの、ミリ様?」

「ミリと呼んで下さい」

「あの・・・ミリ?」

「なあに?ニダさん?」

「港を作ってどうするのですか?」

「コーカデス領の開発を進めます」

「どの様にしてでしょう?」

「それは楽しみにしていて下さい。大丈夫です。コーカデス卿がいるのですから、悪い様にはなりません。ね?コーカデス卿?」

「え?ええ」


 そのレントの様子にニダは、レントもミリに振り回されたりしているのではないかと、同情を感じていた。

 けれどレントは、ミリがこれまで通りにニダと接して行きそうな事に、ただ羨ましさを感じていたのだった。

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