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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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コーハナル侯爵邸での様子

 ミリ様は本当に女性なのでしょうか?

 レントはミリを見ながら度々、その疑問が浮かぶ様になっていた。

 それは女性があまり行わない馬や剣を使う様な時だけではなく、普段の女性らしい所作をしている時でさえも、ミリの性別への疑問がレントの心に不意に湧く。

 レントは男性の体の特徴は知っているし、女性の体は男性とどう違うのかは良く知らないけれど、とにかく違う事は知っている。そして子供にはまだ現れていない性徴があるらしい事も知識として持っていた。しかし相手が子供でも、その子が男の子か女の子かはレントには分かる。子供の知り合いなどほとんどおらず、それほど子供を観察した事がないのにだ。

 スカートを履いている男の子は見た事がなかったけれど、きっと男の子だと分かる筈。レントはそう思っているのだけれど、その確信がどこから来るのかに付いては分からない。


 ミリとの早朝鬼ごっこをしたり、護衛達との護身術訓練やダンスレッスンをミリと受けたり、ミリと領地開発に関しての話し合いをしたり、技術者の面接をミリが行うのに同席したり、建築家達へのミリからの再説明に参列したり、ミリがディリオを愛でるのを見学したりする間中(あいだぢゅう)、何度も疑問を心に浮かべながら何度もミリが女の子である様に見える事を確認して、その都度一時的にレントは自分を納得させていた。



 ミリがディリオを愛でている間、レントはその傍でパノの祖父ルーゾ・コーハナルが遺した資料を読み込んでいた。

 その資料はコーハナル侯爵邸からの持ち出しを禁止されてはいて、部外者に知られても構わない物だけを筆写して見せる事が出来たのだけれど、その筆写が結構大変なので、レントをコーハナル侯爵邸に喚んで読ませる事にしたのだ。

 筆写を頼まれたパノもパノの父ラーダ・コーハナル侯爵もパノの弟スディオ・コーハナルも何かと忙しく、しかし部下や使用人に筆写を任せる訳にもいかないので、この様な対応になっていた。

 そしてコーハナル家直系の誰かが同席しなければミリも書庫に入れない取り決めだったのだけれど、ミリがディリオを連れて入る事でその問題をクリアしている。本当はミリには見せられない資料も書庫にはあったのだけれど、それらを他の場所に移す事でそれに付いても問題がない様にしていた。

 それなのでミリはレントを連れて書庫に入り、予めラーダかスディオがレントに見せて良いとした資料だけをレントに読ませている。そしてレントが資料を読み込んでいる間中、ミリはディリオを愛で続けているのだった。

 もちろんディリオを愛でつつも、レントの質問に答えたり、レントと会話や議論をする事もある。


「ミリ様。神殿や信徒達から押収した証拠品は御覧になりましたか?」

「いいえ。王宮に収蔵されている筈ですけれど、その目録を読んだだけです」


 ミリはディリオから目を離さずにレントに答えた。

 レントはディリオを見詰めるミリの姿を見て、ミリが女の子である事を感じるけれど、その根拠はやはりレントには思い付かない。それなので根拠に対する疑問に付いてレントはスルーした。


「盗難届が出されている物は、持ち主に返却しているのですよね?」

「その筈です」

「そうすると、どれ程残っているのか、分かりませんね」


 ミリは顔の筋肉を様々に動かして表情を作ってディリオに見せながら、表情にはそぐわない平坦な声でレントに返す。


「ええ。その事を追跡する資料はありませんから」

「ですがもし盗難届が出ていない物があるとしたら、それは却って怪しくありませんか?」


 ミリは顔をレントに向けた。


「・・・引き取る事を憚れる品、と言う事ですか」

「ええ。所持していた事が明るみに出ると困る物も、含まれるのではないかと」


 ディリオが手を伸ばして来た事に気付いて、ミリはディリオの顔に自分の顔を近付ける。


「なるほど。しかし証拠品は処分されているかも知れませんね」


 レントにではなくディリオに話し掛ける様な体勢でのミリの言葉に、レントは小首を傾げた。


「神殿や信徒への返却ですか?」

「ええ。暴動時の窃盗が疑われても盗難届が出ていなければ、盗難の時効が来れば証拠としての意味はなくなりますから、盗難はなかった事として返却するのではないでしょうか?」


 笑顔を浮かべたディリオに笑顔を返しながらそう言うミリに、レントはまた女の子だと判断しながら、反対側に小首を傾げる。


「それと言うのはつまり、文官なり警備兵なりが押収元を訪ねて、一点一点返して回ったのでしょうか?」


 ミリはディリオを抱き起こした。


「・・・広報して、取りに来なければ破棄かも知れませんね」

「もし王宮に残っているのでしたら確認したいと思うのですが、コーハナル侯爵閣下にお願い出来るものなのでしょうか?」


 ディリオに顔を触られながら、ミリはレントに肯く。


「頼むだけ頼んで見ましょう」

「ありがとうございます」

「いえ。わたくしも気になりますので。ただし、ラーダもスディオも今はパノの留学の件もあって、忙しいとは思います」


 ディリオが触ったミリの顔の場所と同じ、ディリオの顔の部位をミリは触り返してみた。


「そうですよね」

「ええ」

「ミリ様?この件はソロン王太子殿下に尋ねる事は出来ないでしょうか?」

「・・・訊くだけ訊いてみましょうか」


 ミリがディリオを高く捧げる。

 レントは大丈夫である事を知ってはいるのだけれど、思わずミリに近寄り、万が一があってもディリオを支えられる様に構えた。

 ミリはすっとディリオを降ろす。レントは小さく息を吐いてから、ミリに答える。


「はい。それでは王太子殿下にはわたくしから相談をしてみます」

「いいえ。わたくしからチリン様に相談してみましょう。王太子殿下にお願いするとしても、チリン様を通せるならその方が確実ですし」

「ありがとうございます。その際にはわたくしも同席させて頂いてもよろしいでしようか?」


 ミリはディリオに見せていた笑顔をレントに向けた。


「そうですね。一緒に訊いてみましょう」

「はい」


 レントも釣られて笑顔をミリに向ける。

 ディリオはキャッキャッと何かを喜んだ。


 レントが書庫に入る為にディリオを同席させるにあたり、レントはディリオの母である元王女チリン・コーハナルとも面識を得ていた。またチリンの夫でありディリオの父でもあるスディオとも知己を得ている。

 チリンもスディオも、レントがコーカデスの人間だと言う事で身構えていたのだけれど、実際に会ってみて、パノの母ナンテ・コーハナルやミリの言葉通りの少年だと気付いたら直ぐに警戒を解いたし、レントをディリオの傍にいさせる事も許した。

 コーハナル侯爵家でレントに会っていないのはパノ一人と言う事になる。パノは留学の為の準備と勉強に忙しくてレントに会う暇はなかったけれど、レントも叔母のリリ・コーカデスと仲違いをしたパノとどの様な会話をしたら良いのか分からず、積極的に話す機会を求めたりはしていなかった。

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