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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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どちらでも

「ところでコーカデス卿」

「はい、ミリ様」

「待ち時間がかなり出来ると思いますけれど、コーカデス卿はこの後はどうなさいますか?」


 ミリの問いにレントは、頭の中でタスクリストを眺めた。


「本日は、ミリ様にお借りしている資料の読み込みをしようと思っておりますが、明日以降は時間を見て、コーカデスの王都邸の跡の片付けに着手します」

「やはり、解体をなさるのですか?」

「はい。話ではかなり酷い状態らしく、わたくしは少し見ただけですし、どうしたら良いのかは全く分かりませんでしたので、専門家に診て貰おうとは思っています。石材置き場にする都合もありますので」

「わたくしは敷地の外から見ただけなので、建物の配置にも拠るとは思いますけれど、コーカデス邸の敷地の広さなら庭だけでもかなりの石材を置けるのではありませんか?」

「そうかも知れません。いずれ邸を再建するにしても安く抑えたいとは思いますので、その辺りの見積もりもして貰おうとは思っています」

「そうですか。よろしければソウサ商会を介して人を紹介しましょうか?」

「ありがとうございます。とても助かります。どちらにしろ石材置き場に使う為には現状整理は必要ですので、その辺りの見積もりと作業も依頼出来る人を紹介して頂けたらと思います」

「現状のままミリ商会がお邸の敷地をお借りして、ミリ商会の方で整理をする事も出来ますけれど」

「ありがとうございます。ですが王都邸の整理費用をミリ商会に出して頂いたりしますと、家の者を納得させる手間が増えますので、先ずは見積もりを見てから考えさせて下さい。その上で結局、ミリ商会を頼らせて頂く事になるかも知れませんが」

「分かりました。しかしもしかしたら、先日の石材規格化の時に面識の出来た人が来るかも知れません。直接頼めばソウサ商会を通すよりは割安になりますけれど?」

「いえ。それは手配の煩わしさもありますので、ソウサ商会を通しての依頼でお願いしたいと思います」

「分かりました。依頼をしておきます」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 レントはミリに頭を下げながら、自分がどれだけミリに頼っているのかを改めて感じていた。ミリがいなければミリ商会も頼れないし、広域事業者特別税を実施したコーカデス領の領主である自分はソウサ商会とも取り引きが出来ない。

 何一つ、自分の力では為し得ない。自分が(おこな)った事と言えば、ミリを頼る決断をした事くらいだ。それだってサニン王子の懇親会でミリから声を掛けて貰わなければ、思い付かないし有り得ない決断だった。


 わたくしはやはり、ミリ様を利用する為にミリ様に好意があると、自分に思い込ませているのかも知れません。それなのでそれを感じているミリ様は、わたくしを嫌悪なさるのでしょう。


 ミリを利用する事は、コーカデス領主としては正しい選択だとレントは思う。その事はミリに対して申し訳なく感じている。

 しかしそれを紐解けば、組み立ては違うのかも知れない。


 ミリは、レントがミリに生理的嫌悪を感じていると言っていた。

 もしそれが事実なら、レントは生理的嫌悪を自覚しない様にその気持ちを封じ込める為に、ミリに好意を感じているのだと自分自身を騙している可能性もある。

 生理的嫌悪を自覚しない様にする理由は、ミリとの付き合いが必要だからだ。嫌いな相手なら顔も見たくはないし、声も聞きたくないから話し掛けたくなどもない。しかしコーカデス領をミリに助けて貰う為には、そうはいかない。

 格上のミリに嫌な顔を見せたりすれば、領地開発を助けて貰えないだけではなく、貴族社会での立場も悪くなってしまう。つまり社交辞令で良い顔を見せているのと変わらないレベルで、ミリへの好意を口にしていると受け取られても仕方がない。

 ミリに取っては、犯罪者の血を引くと忌避されたり、悪魔の子と非難されたりする事が、他人との関係の基礎になっていてもおかしくない。それなら出会ってからそれほど経っていないレントが、ミリへの生理的嫌悪を感じていると、ミリに思われても仕方がない。

 そう思われている状況でミリへの好意を口にしても、信じて貰える筈がない。ミリを利用しようとしているのだからなおさらだ。

 自分がミリへの好意を口にした理由に、焦りがあったのもレントは感じていた。それはミリの時間を占有したい事から来るものだった。


 自分の気持ちが分からないレントは、自分がミリへの好意を感じているのかどうかも、考えれば考えるほど分からなくなっていた。


 目の前のミリを見て、自分の心の奥底にミリへの嫌悪が湧き出ているとは、レントにはどうしても思えなかった。それだけ上手く、レントが自分を騙しているのかも知れない。けれどミリへと感じる敬意も嘘だとは思えない。それすら自分を騙しているのだとなれば、自分の気持ちが分からなくても仕方がない様にレントには思えた。分からなくなり過ぎて、どこか少し他人事の様にもなって来ている。


 実際にミリ様は敬意を向けるに値する(かた)だと思います。しかしそれも自分を騙す為に、わたくしはそう評価を下しているのでしょうか?

 この信仰心の様に思えるミリ様への崇拝も、わたくしが自分を騙している結果なのでしょうか?だから無批判に、ミリ様を信じてしまうと感じるのでしょうか?


 レントは自分の父親だった男が、何人もの恋人を作っていた事を思い出す。その血が流れている自分はきっと、大人になれば男女の恋愛も理解できる筈だとレントは考える。

 しかしその時にわたくしのその情動は、ミリ様に向かうのでしょうか?その情動がミリ様に向かえば、今のわたくしのミリ様への気持ちも信じて良い事になるのでしょうか?それともやはりその時も自分を騙して、ミリ様に恋情を感じているのだと思い込んでいるだけと言う事もあるのでしょうか?



 そこでふとレントは、もしミリ様が男性だったら、と考えた。

 ミリが男性でも、コーカデスの領主として判断をするのであれば、今のレントはミリに頼らざるを得なかっただろう。ミリが男性でも女性でも、ミリの価値は変わらないし、レントはミリを利用する決断を下す筈だ。

 交際練習もプロポーズも申し込めないけれど、その代わりに友人にはなって貰おうとはする筈だ。レントには友人がいないので、どうしたら友人になれるのかも、どうしたら友人になった事になるのかも分からなかったけれど。


 しかし、ミリに対しての気持ちは、今と同じであるか、レントには判断が付かなかった。

 同世代の男の子としてレントに思い浮かぶのは、サニン王子か、ミリの従弟のジゴ・コードナくらいだ。サニン王子はいずれ国王になるのだし、ジゴはいずれコードナ侯爵家を継ぐ。二人ともレントに取って利用価値はある。

 利用価値はあるし、二人と友人関係になった方が良いのは分かるが、積極的に関わろうと言う気持ちは湧いては来ていなかった。いや、改めて思うと、関わっておくべきなのだから、今後は二人への態度を改めなければならない。だがそれは、あくまでも領主としての義務感からそう感じるのだ。

 そしてそれはミリが男の子として生まれ付いていたのであっても、同じ事になる筈である。しかしその状況を想像した時に、自分の気持ちとは差異がある様にレントには思えた。


 そうするとわたくしはやはり、女性であるミリ様への恋情を既に感じていると言う事なのでしょうか?


 そこでまたふとレントは、ミリ様は本当に女性なのでしょうか、と思ってしまった。

 ミリは馬にも乗るし、剣も使う。しかし刺繍をしたりする様な、女性らしいとされる事も行うのか、レントは知らなかった。先日のダンスレッスンでは、レントはミリにリードをして貰っている。

 もし今のミリが男なら、バルがミリを結婚させないと公言するのは当然だ。


 レントはミリを見詰めた。


 もしミリが男の子として生まれ育っていたのならと考えると、ミリにはサニン王子やジゴと同じ様な距離感でしか接する事は出来ないとレントは思った。

 しかしもし目の前のミリが男の子だとしても、今のミリに対しての気持ちは失われない様にレントには感じられる。


 レントはバルの父ガダ・コードナ侯爵に、ミリから好きだと言われたらどうするのか考えておく様に言われていた。

 もし目の前のミリ様が実は男の子で、それでもわたくしへの恋情を(いだ)かれるのなら、わたくしはそのお気持ちに応える事が出来るのでしょうか?

 そう考えるとレントには、目の前のミリが女の子でも男の子でも、変わらない様にも思えて来るのだった。

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