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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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技術者を借りたい理由

 バルの父ガダ・コードナは使用人を喚び、冷めてしまったレントのお茶を淹れ直させて、自分もお代わりをした。

 応接室から使用人を下げて、お茶を一口飲んで、カップをテーブルに置いて、ガダは茶菓子を摘まんだ。


「レント殿も、良ければ食べてみてくれ」

「はい、頂きます」


 手を伸ばしてレントも茶菓子を摘まむ。一口食べて、レントはちらりとガダを見た。

 美味しい。けれどどう美味しいかは説明できない。美味しいとだけでも感想を口にするべきだろうか?

 菓子に拘りを持つコードナ侯爵家と交流をするのであれば、この様なシチュエーションは想定出来たのだから、どう対応すれば良いのかは普段から考えておくべきだった。しかも今回何も感想を述べずに次回急に感想を言ったりすれば、予め感想を用意して来たと気付かれるだろう。


 そのレントの様子を見ていたガダには、レントの気持ちが手に取る様に分かった。ガダも演劇や演奏会の感想を口にするのは苦手だった。詩人ではないのだから、ただ、うまい、だけでも良いではないか。


「レント殿の口に合ったかな?」


 そうガダが出した助け船に、レントは顔を上げた。


「はい。美味しいです」

「そうか。それは良かった」


 ガダは細かい感想を訊き出す事はせず、茶菓子をもう一つ摘まんで、もう一方の手の手のひらで茶菓子の入った器を指し示し、レントにもっと食べる様に仕草で勧めてから、茶菓子を口に入れた。

 この国の貴族の礼儀では、食べ物や飲み物が相手の口に入っている時には話し掛けてはいけない。

 細かい感想を訊かずにまた茶菓子を食べさせる事で、これ以上の感想は言う必要がないと、ガダはレントに示していた。



「それで、コードナの技術者を貸して欲しいとの話だが」

「はい」


 レントは続きの言葉を待ってガダを見詰める。しかしガダもレントを見詰めるだけで口を開かない。レントは一拍置いて視線を下げた。


 コーカデス子爵家をコードナ侯爵家の配下にして貰った時には、レントの傍にはミリがいた。それがどれだけ心強い事なのか、レントは改めて感じていた。

 しかし、これは本来も、領主であるレントが一人で対応するべき事だ。


 レントは顔を上げて、レントの言葉を待ってくれているガダと目を合わせた。


「ガダ様」

「ああ」

「コードナ侯爵領の技術者をコーカデス子爵領にお貸し頂く事は、技術者に取っても、コードナ侯爵領に取ってもメリットがあると考えております」

「・・・コーカデス卿」


 ガダからの呼ばれ方が変わり、レントの肩に少し力が入る。


「はい、コードナ侯爵閣下」


 喉にも少し力が入り、レントの言葉が僅かに震えた。


「コードナ侯爵領の技術者を貸すとしたら、貸出先は貴族家となる。ミリ商会ではないので、費用はコーカデス子爵領が支払う事になる。その認識はあるか?」

「はい、閣下」


 想定内のガダの言葉に、レントの体の力が抜ける。


「そうか。だが一人二人貸したとしても、大した役には立たんぞ?」


 眉間を寄せるガダに、レントは小さく肯いて返した。


「いいえ。コードナ侯爵領の運営に影響が出ない最大人数を貸して頂きたいと思っております」


 ガダの反応への対応は考えているが、自分でもどうかと思うあまりにもな要望に、レントは早口になる。そしてガダは想定通りに、やはり顔を蹙めた。


「いや、コーカデス卿?それはかなりの金額になる。今のコーカデス子爵領では無理なのではないか?その者達の収入を減らす訳には行かないし、分かっているとは思うが、コードナが補填する訳にもいかんぞ?」

「はい、閣下。先ずはこちらを説明させて頂けますか?」


 そう言うとレントは資料を取り出してガダに示した。そこには予定表が書かれている。


「こちらはコーカデス子爵領の開発予定となっております」


 そこに書かれたいくつもの案件と実施予定期間を見ながら、ガダは眉を開いて少し顎を下げた。


「ほう」

「技術者をお借りしたい一番の事業は、この水路製作になります。治水土木の知識や経験をお貸し頂きたいと思っております」

「水路?」


 ガダの眉間がまた狭まる。


「はい」

「・・・これだけの期間を掛けるのであれば、確かにかなりの距離の様だが、水路など、わざわざ他家から人を借りずとも良いのではないか?」

「いえ。こちらの水路では石材を運ぶ予定です」

「うん?規格を決めた石材か?」

「はい。こちらを御覧下さい」


 レントはコーカデス子爵領の地図を出した。その地図には開発予定の場所が示されている。ガダは目を見開いた。


「海まで?」

「はい」

「石材を船で王都に運ぶのか?」

「はい」

「するとここには港を?」

「はい」

「確かに予定表にも書いてあるが、石材を船で・・・これは卿が考えたのか?」

「船での運搬はミリ様の案です」

「・・・ミリは船員とも仲が良いらしい」

「はい」

「なるほど・・・しかし、海に近いところはともかく、山の方は傾斜もある筈だ。どうやって水路で運ぶのだ?」

「こちらは概念図になります」


 レントはダム式の水路の仕組みを書いた資料をガダに示す。


「水を堰き止めて水深を確保しながら、イカダを進めて行きます」

「いや、これは、大工事になるのではないか?」


 ガダの表情は険しくなった。

 川が決壊しない様に堤防を作る事があるが、それは平地での事だ。山の斜面に堤防の様な物を建設し、更に堰まで作ると言う。


「はい。それなので高い技術と多くの経験を積んでいる技術者が必要で、コードナ侯爵領の技術者を是非、お貸し頂きたいのです」


 レントの強い声に、ガダは目を細めて首を僅かに傾げた。


「・・・だが、我が領の技術者でも、成功させられるかどうか」


 レントは小さく肯く。レントは出来ると思っていた。

 しかしそれは、ミリがコードナ侯爵領の技術者を借りようと言ったからだ。

 ミリがコードナ侯爵家の技術者を借りようと言い出したのだから、借りる事が出来れば成功するに違いない。

 書物からの土木技術の知識しか持たないレントでは、成功を信じる根拠がミリへの信奉になっていた。

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