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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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人生相談でもある

 考え込んでいるレントの様子を見ながら、バルの父ガダ・コードナ侯爵も考えを巡らせていた。

 後悔しない生き方は難しい。どちらが後悔しないか、などと考えて選ぶと、その選択自体で後悔したりする事もある。

 それに比べたら、自分が本当に望む事をした方が後悔は少ない。

 しかし自分が本当に望む事を見付けるのも案外難しい。ましてや目の前で考え込んでいるレントはなおさらだろう。まだ自分の事も良く分からないだろう年齢の子供だし、それでいて既に社会的責任を果たさねばならない爵位持ちだ。やらなければならない事に邪魔をされて、本当に望むものが見えない事も多いだろうし、全く見付けられないまま終わるかも知れない。

 そう考えると、先程の自分の言葉はレントには酷だったかも知れない、とガダは思った。

 しかし、遅かれ早かれ思春期になれば嫌でもその様な事は考えるものだし、自分が言わなくとも誰かに言われれば同じなのだから、まあ良いか、とガダはこの件を苦笑いで済ます事にする。


 そこでふとガダは、レントがミリと結婚する為には三人を説得すれば良い、と言っていた事を思い出した。

 レントの両親は離婚している。レントの母親は再婚しているから、レントの母も母の実家もレントに対しては口出し出来ないだろう。コーカデス家が零落れる事は喜ぶ筈だし、平民の、ましてや犯罪者の血が入る事も、弱点として攻めるのには使うだろうけれど反対出来る立場にはない。レントの母の実家はその血脈から、レントを切り捨てているのだから。

 しかしレントの父スルトは?貴族籍を抜けたとの情報は得ているが、レントへの影響力は残していないのだろうか?スルトは自分も若くして爵位を嗣いで苦労したのだろうから、レントにアドバイスするべき事が色々とあるのではないだろうか?それとも伯爵から子爵に降爵したのはスルトの所為だとして、スルトは排除されたと言う事か?それならレントの祖父リート・コーカデスは侯爵から伯爵へと降爵させた上に、爵位を急にスルトに渡したのだから、スルト以上に責められなければならない筈だ。


「レント殿」


 ガダに呼び掛けられて、レントははっと顔を上げた。


「申し訳ございません。考え込んでしまっておりました」

「あ、いや、それは大丈夫だ。気にしなくて良い」

「ありがとうございます」

「それより訊きたい事がある」

「はい」

「コードナ侯爵家はコーカデス子爵家を助ける事にしたのだから、コーカデス子爵家の内情にも、少し踏み込んだ事を教えて欲しいと思うのだ」

「はい。何なりとお訊き下さい」


 何なりと、と言われてガダは苦笑した。

 配下に入っても互いに貴族家だ。全てを相手に曝す事などしないのが常識だ。

 レントの言葉は表面上だけなら良いが、本当にそう考えているのなら忠告しなければならない。そう思ったけれど、ミリはコーカデス子爵領の帳簿を閲覧したとの話だし、領地に関して全権を与えるとまで言われている。

 忠告するにしても説明にかなり時間が必要だろうから、ガダはその件は日をあらためる事にした。


「父君はどうしている?」

「わたくしの、でしょうか?」

「え?ああ、もちろんそうだ。スルト殿の事だ」

「籍を抜き、今は平民となっております」

「ミリの話にも出ては来なかったが、領地経営にアドバイスをしたりはしていないのか?」

「籍を抜きましたので、既にコーカデス家との縁は切れております」

「え?・・・絶縁したのか?」

「はい」

「実の父親を?」


 レントの祖父リート・コーカデスはスルトに当主を譲ったのだから、リートから絶縁は出来ない筈だ。リートがレントを絶縁したのなら、レントは跡を嗣げなかった筈だ。するとレントからリートを絶縁したとしか考えられない。

 厳しい表情を浮かべたガダに、レントは肯いて返した。


「はい。本人が望みましたので」

「本人?スルト殿から望んだのか?」

「はい」

「レント殿はそれを許したのか?」

「はい」


 それはガダには、あまりにも無責任に思えた。

 準備が整わない内に爵位を継いだのかも知れないが、伯爵から子爵に降爵させたのは紛れもなくスルトの責任だ。原因はリートにあったと言えるかも知れないが、本来なら降爵後もレントが成人する迄はスルトが領主を続けるべきだ。確かに降爵させたのに領主の席にしがみ付くなどみっともないが、それでも子供に後始末を押し付けて、自分は責任を取らないなどと言うおかしな話はない。

 爵位を譲るのも貴族籍を抜くのも平民になるのも、継がせる相手がまだ子供のレントでは、責任を取ったとは言えないとガダは思った。


 ガダはレントの自己評価が低い事が気になっていた。ミリを領地開発に巻き込むのも、自分に自信がない事も理由になっていると思えていた。

 それなのに領主としての責任を果たす気概をレントからは感じていた。それを好ましく思うと共に、危うくも感じる。

 その、自信が無いのも自己評価が低いのも、もしかしたらレントは、親に捨てられたと感じているのかも知れない。それが原因かも知れない。


 ガダはレントの事情に踏み込もうと決意していたけれど、私人としての問題は、レントの傍に家族として残る祖父母なり叔母なりに解決して貰うしかない。

 それなので残りの、当主としての問題なら何でも相談に乗るし、領主としての問題なら積極的に訊き出してアドバイスしようと思った。

 ただし、私人としての問題でも、恋愛問題は家族には相談し難いかも知れない。思春期になれば友人や先輩に相談したりも出来るだろうけれど、今のレントの回りには当てはまりそうな人間はいないのではないだろうか?


「そうか。分かった」


 仕方がない。レントから恋愛相談をされたらそれも受けよう、とガダは心を決めた。



 それはそれとして。


「ところでレント殿?」

「はい、ガダ様」

「そろそろ本題に入らないか?」


 まだ、コードナ侯爵領の技術者をレントに貸し与える話に付いては、少しも話し合えていなかった。

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