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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
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07 秘める秘めない

 バルとラーラの交際の話は瞬く()に貴族や王都民の(あいだ)に広がった。

 普通は噂に尾ヒレが付く類の話題だが、二人の話に関してはほぼ事実のみが周囲に流れた。


 それというのも、バルが訊かれるままに()()けに、或いは訊いていない事までも何でも話すからだ。ラーラも問われれば、隠す事なく答える。

 二人の話は矛盾せず、秘め事の匂いもしない。

 もう少し隠してもらわないとつまらないと、冗談とも本気とも取れない言葉を掛けられる程だ。


 また、二人が一緒にいる場面を見た者達も、尾ヒレを付けるには物足りなさを感じていた。

 それというのも二人の距離が、夫婦や婚約者同士の物ではもちろんなく、兄弟姉妹よりも遠いからだ。まさに知人同士の立ち位置でしかない。

 エスコートとダンス以外に触れ合う事はない。出掛けていても手を繋ぐ事はない。会う時には常に従者を連れていて、二人きりになる事もない。


 二人は学園内では従者を付けていない。

 けれど登校ではソウサ家の侍女も一緒に馬車に乗っている。馬車から降りて校舎に入り、バルがラーラを送り届けた教室で始業時間まで話をする二人の姿は、周囲の生徒達の目に(さら)されている。

 学年の違う二人が次に会うのは昼休み。二人が食堂の入口で待ち合わせてから、バルがまた送り届けて午後の授業の開始までラーラの教室で過ごす二人の様子も、常に誰かの目に映っていた。

 放課後に二人が会うのはカフェで、入口で待ち合わせて予約席に座る。これも周囲には必ず人目がある。

 カフェから出て下校する時に、校門の外に停まっている馬車まで歩く間も二人に興味を持つ生徒達が見ているし、馬車の中にはソウサ家の侍女が待っている。


 二人が話している時も、お互いに笑顔を向けてはいても、常に節度ある表情と口調と態度だ。馴れ馴れしさなど微塵も無い。

 本当に交際しているのか、偽装ではないのか、と疑われる程だった。



 その二人が苦言を呈される事もある。それは会う回数が多い事についてだ。


 貴族主体の集まりにラーラはこれまで参加した事はない。バルも平民主体の集まりに参加する事はなかった。

 そもそもそれぞれ招待された事もない。招待があるとしても、コードナ家ならバルの両親まで、ソウサ家ならラーラの両親までだった。


 交際の練習をする場として、お互いのフィールドに揃って乗り込んで参加したため、二人が出掛ける社交の場は倍以上になっていた。二人とも婚約者がいないので、今まではパートナーの都合が付かなくて参加しなかった様な席でも顔を出せる様になり、社交への参加が2倍を超えたのだ。

 二人ともまだ学生なので毎日の様な事にはならないが、他の同世代の男女に比べたら圧倒的に多い。


 そうすると中には、もっとパーティーに参加するべきなのだから二人を見習え、などと婚約者から責められる人も出る。

 そうなると更にその中には、バルやラーラに文句を言う人も出る訳だ。


 またお互いへのプレゼントなども、二人は頻繁に贈り合っている。異性への贈り物を選ぶ練習の為だ。

 一緒に店に行って、贈り物を選ぶ練習をして、アドバイスのお礼に選んだ物を贈り合っているだけなのだが、それを言い訳としか受け取らない人もいる。練習だから安い物しか選んでないと言っても通じない。


 バルがうっかり、自分達もそうすれば良いと答えてしまい、その時は大変な目に()った。集中攻撃だった。それからは口答えしない様に大人しくしている。



 その様な一部の反発はあるものの、バルとラーラの交際は非常に理想的に見えた。


 そしてそれに(なら)おうとする人達も現れる。



 王都の下町の家では・・・


「近所の奧さんに言われたけど、お前、付き合っている子がいるってホントなの?」

「ああ。付き合うって言うか、交際練習だけどな」

「交際練習?なんだそれは?」

「それ、聞いた事あるわ。交際の練習よね?」

「だから交際の練習ってなんなんだ?交際じゃないのか?」

「練習は練習だよ。交際ごっこって言えば通じる?」

「なに?遊びって事か?」

「遊びなんて、相手の子は大丈夫なの?相手の子は本気なんじゃないの?」

「いや、だから練習だって。遊びじゃないよ」

「遊びじゃない?でも本気でもないって事か?」

「練習だからな」

「練習だからなんて言って、下手(へた)に手を出したりするんじゃないわよ?」

「しないよ」

「変な所に連れ込んだりもするんじゃないぞ?」

「分かってるって。そんなんじゃないから」

「今日は大丈夫だとか言われても、信じたらダメよ?」

「はあ?」

「それで生まれたのがお前だからな?」

「ちょっと、なに暴露してんのさ?」

「悪い事じゃない。暴露じゃなくて白状だ」

「でもあの時は本当に大丈夫な筈だったんだから。女の子にも悪気(わるぎ)がない事もあるからね?」

「信じて上げるのは必要だが、責任取るのはお前だからな?」

「いやホント、あいつとはそんなんじゃないって」

「どんな子なの?今度ウチに連れて来なさい」

「それは構わないけど、ホントに恋人とかじゃないからな?勘違いして、変な事言わないでくれよ?」

「相手はともかく、お前にはその気が一切(いっさい)ないんだな?」

「ないって。恋人とかじゃなくて、弟って感じだし」

「え?!」「なに?!」

「お前、男の子と付き合ってるの?!」

「違うって!女の子だよ」

「ちゃんと確かめたのか?」

「馬鹿言うなよ。どうやって確かめるんだよ」

「そうよ、ダメよ。その気もないのに確かめたりしたら、その気になっちゃうかも知れないからね?」

「しないって。それにあいつには本命がいるらしいし」

「なに?二股掛けてるのか?」

「違うって。好きな相手に告白する為に、俺を相手に練習してんの」

「お前それは、その女に良い様に利用されてるんじゃないか?」

「そんなんじゃないから」

「お前はそれで良いの?」

「俺にも練習になるし、こう、なんて言うか、弟の初恋を見てる様で、助けてやりたくなるんだよな」

「これ、大丈夫か?手のひらで転がされてないか?」

「今度連れてくるから。そんなんじゃないって会えば分かるよ」

「それなら良いけど」

「だけど、二股とか、本命が別にいるとか、あいつの前で言わないでくれよ?隠してるのにどうしても本音が(こぼ)れちゃうトコとか、態度に出ちゃうトコとか、微笑ましくて、見るのを楽しんでるんだから」

「なあ、これ、大丈夫だと思うか?」

「ええ、ちょっと、色々と心配よね」



 もちろん付き合っている相手側にも心配する家族がいたりするので、平民でも家同士で揉める事はある。

 そうすると子供達は、交際練習を家族に隠す様になる。

 そして大丈夫な筈が大丈夫ではなかったケースが噂として広がったりもする。

 それを聞いて平民の親達は、うるさく干渉して隠されるよりは、近くで見守って正確な情報把握を行う様になっていった。

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