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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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恋愛相談?

 バルの父ガダ・コードナ侯爵は一旦、レントの話を纏めてみる。


「つまりレント殿は、ミリが結婚するのは構わなくて、相手が誰でも嫉妬などは感じないが、ミリには傍にいて欲しいと言う事か?」


 口に出してみればかなり非道い事の様にガダには思えた。


「・・・ミリ様がディリオ様の相手をする時間をわたくしに使って欲しいとは思います」

「それは嫉妬だと?」

「・・・分かりません。これが嫉妬なのかどうかは、わたくしには分かりません。ですが、ミリ様がディリオ様の相手をする様子はとても好ましいとも感じるのです」


 子供を可愛がる女性の方が、子供を嫌う女性よりも好ましく感じる男性はいるが、レントの話がそれだとはガダには思えなかった。何せレント自身もミリもまだ子供だ。


「つまりレント殿は、ミリと結婚したいと思っている訳ではないけれど、結婚したくなるかも知れないから、傍に置いておきたいと言う事か?」

「・・・逆かも知れません」

「逆?」

「ミリ様と一緒にいたい。その為には結婚の約束をしてしまうのが良いとは思うのです」

「そう言う逆か」

「あ、いえ」

「しかしミリとの婚約など、リート殿達は許さないだろう」


 ガダはレントの祖父リート・コーカデスとその妻セリ・コーカデスの事を思い浮かべる。


「ディリオ様は例外ですが、もし他の貴族家の子息がミリ様との結婚を考えたとして、例えそれが誰であっても、周囲を説得する事は難しいと思います」

「まあ、ミリの出自を考えるのなら、そうなるだろうな。ディリオは分からんが」

「しかし我がコーカデス家には祖父母と叔母しかおりませんし、親族とは縁が切れておりますので、わたくしでしたら三人を説得すれば良いだけです。他の子息ではそうはいかないでしょう。それにわたくしは既に領主であり、当主でもありますので」

「説得はせずに力尽くと言う事か?」

「いざとなれば。それに逆と言うのは、わたくしの気持ちについてです」

「レント殿の?気持ちと言うのはミリへのか?」

「はい」


 レントは肯くと目を伏せた。


「わたくしは恋愛も夫婦愛も分かりません。今のミリ様への気持ちが何なのかも、自分では分かってはおりません」


 レントは視線を上げてガダと目を合わせる。


「しかしミリ様の事は尊敬もしております。ですので、こう、これは信仰心の様なものかも知れないと感じるのです」


 レントは片手を胸には当ててそう言った。

 ガダの眉間に皺が寄る。


「ミリを崇めていると言うのか?」

「はい。崇拝していると言うのが、近い様に思えます。わたくしは神殿の祝福を受けていない為、信仰と言うものも良くは分からないのですけれど」

「しかしミリはレント殿より年下だぞ?」


 一角(ひとかど)の人物と言うのはいる。それは例え何歳であっても尊敬に値するとはガダも思っていた。しかしまだ子供のレントがその様な気持ちをミリに向けると言うのであれば、ガダには理解が出来ない。

 ミリはまだ何かをなし得たとは言えない。投資を成功させたり、コードナ侯爵領やコーハナル侯爵領などの領地経営に案を出したり、助産院や治療院を手伝ったり、王宮で脱税調査の説明を任されたりはしたが、それは確かに年齢の割には素晴らしい活躍ではあるけれど、他の人も(おこな)っている事だ。何かをなし得たと評価出来る程の事ではない。


「ですがミリ様は何でも出来ますし、間違える事もありません」


 そのレントの言葉にガダは苦笑を漏らす。レントの子供としての視点からすれば、ミリは確かに凄く見えるだろうとガダには思えた。


「いや。ミリは菓子作りは出来ないぞ?」

「え?・・・そうなのですか?」


 驚くレントの顔を見て、やはり子供だな、とガダはレントの事を思う。


「やらないだけかも知れないが、昔失敗をしてから話を聞かない」

「そうなのですか」

「料理をする事には、ミリも興味がある様だが」

「ミリ様が魚を捌くところを見た事があります。とても見事な包丁捌きでしたが?」


 子供のレントの言う「とても見事な包丁捌き」がどれ程のものかと思い、ガダは無意識に片方だけ口角を上げた。


「歳の割にはそうかも知れないが、それは狩りの獲物の解体でのナイフ捌きに慣れているからだろう。まあともかく、歳の割には出来る事は多いが、ミリにも出来ない事はある」


 確かにミリは頭も良いし知識も多いし、礼儀作法も素晴らしいとガダから見ても思える。しかしそうは言ってもまだ子供だ。


「・・・ガダ様の仰る通りなのかも知れませんが、ミリ様が料理を習い始めれば直ぐに上達なさる様にしかわたくしには思えません」


 そのレントの言葉にガダは、子供であるが故のレントの視野の狭さを感じた。


「そうかも知れないが、ミリを神聖視などしていたら、そうでなかった時に幻滅する事になるのではないか?」


 子供のレントなら仕方がないが、子爵であるレントの事を考えると、ガダは少し心配になる。


「・・・ミリ様がなさった失敗など、わたくしには受け入れられず、なかった事にしてしまうかも知れません」


 レントはミリとの認識合わせの前の、ミリの事を都合良く信じている自分を思い出していた。


「信仰と言うのは、そう言うものなのではないのでしょうか?」


 真剣な表情のレントに、ガダは眉尻を下げる。そして小さく息を吐いた。


「それではやはり、ミリとは結婚など出来ないだろうな」


 天使だ女神だと讃えても、相手が自分と同じ人間だと思えなければ夫婦生活など出来ない、とガダは思っている。


「そうですね」


 レントは顔を伏せて声を下げながらそう返した。

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