第三者としての考え
レントの反応を見て、バルの父ガダ・コードナ侯爵はまた渋い顔をした。
「レント殿がミリにプロポーズをしている事にするのは、縁談除けの為と聞いていたが、違うのか?」
「そう申しました」
「バルがミリを結婚させないと言っているのも知っているな?」
「はい。ですがわたくしは、バル様はいずれミリ様の結婚を認めると考えております」
「バルが?」
「はい」
ガダの表情に、ガダもそうは思っていないのかとレントは受け取る。
「バル様もガダ様も周囲の方々も認める相手が現れて、ミリ様も受け入れるのでしたら、ミリ様は結婚なさるのではありませんか?」
レントの言葉に根拠が感じられず、ガダはふっと体の力を抜いた。
「そのバルが、ミリの結婚を認めないと言っているではないか」
「それはその様な方が、まだミリ様の周囲にいないからではありませんか?」
「・・・ミリと同世代のサニン殿下は身分も家柄も申し分ないぞ?」
「バル様とラーラ様は身分が違いました」
下手に答えればサニン王子への不敬と取られかねないガダの質問に対し、レントはそう返して躱す。当時はバルとラーラの結婚に反対していたガダは、苦笑いをした。
「あれは、認めなければバルがどうなっていたか、分からなかった」
思わずそう言ってしまってからガダは、レントに聞かせる話ではなかったと少し慌てる。ガダは少し早口で言葉を足した。
「それにコーハナル侯爵家がラーラを養女にしなければ、今とは違う状況にはなっていただろう」
「つまりそれと同等の影響力を持つ相手が現れれば、ミリ様も結婚なさると言う事なのではないでしょうか?」
「それは、つまり、レント殿もそれを目指すと言う事か?」
ガダにそう問われて即答出来ず、レントは視線を下げる。そして一拍置いて、視線を上げないまま答えた。
「目指すにしても、わたくしにはゴールが分かりません」
首を小さく左右に振り、レントは顔を上げる。
「わたくしには恋愛感情とか夫婦愛とか、良く分かりません」
ガダは、まだ子供だしそれはそうだろう、と思ったけれど、口は挟まなかった。
「ミリ様を幸せに出来る事が結婚相手に求められる必要最低条件である事は分かりますが、どうすればミリ様が幸せなのか、それすらも分かりません」
ガダにもミリの幸せが何を示すのか分からなかったけれど、やはり何も言わないし肯きもしないで、ガダはレントをただ見詰めた。
「ミリ様と結婚したいのかどうか、自分の気持ちも良く分かりませんが、ミリ様にはわたくしの傍に常にいて頂きたいとは思うのです」
「それは、例えば仕事を任せられる部下として、などと言う事か?」
「傍にいて頂けるのであれば仕事はお任せしたいですが、部下でも投資家でもなくても構いません」
「ミリが何もしなくても?」
「・・・分かりません。わたくしにはミリ様が何もしない状況が想像出来ません」
それはガダも同じだった。
「ミリ様の傍で、ミリ様と一緒に何かをしていたい。今のわたくしにはコーカデス領開発以外の選択肢はありませんが、もしそれ以外を選べたとしても、ミリ様と一緒なら何をするのでも構わないと感じます」
「つまり、ミリを独占したいと言う事か?」
「・・・確かにミリ様に交際練習を申し込んだのは、ミリ様にコーカデス領開発に使って頂く為の時間を少しでも多く取って頂く為でした。しかしわたくしは、ディリオ様の事を話すミリ様も好ましく思っています」
「うん?いや、独占したいと言うのは、こう、そうではなくて、何と言うか・・・」
「男性が意中の女性と他の男性の接触を避ける為に示す独占でしょうか?」
「そう、それだ」
「ディリオ様は男児ですが?」
「いや、ディリオはまだ赤ん坊ではないか」
「しかしディリオ様は、コーハナル侯爵家の跡取りです」
「いや、赤ん坊だから、レント殿の嫉妬の対象にならないのではないのか?」
「嫉妬の対象・・・そうなのでしょうか?」
「うん?そう言う積もりでディリオを出したのではないのか?」
「・・・家格の高い家の跡取りであり、ディリオ様の御両親であるスディオ様もチリン様もミリ様を可愛がっていらっしゃると聞いております。チリン様はバル様とラーラ様の恋愛劇のファンでいらっしゃったとも聞きました。王家の血を引くチリン様に乞われれば、バル様も他の皆様も、ディリオ様とミリ様の結婚を認めるのではないでしょうか?」
「サニン殿下には認めなくてもか?」
「サニン殿下の妃の座は、ミリ様が求めないと思います」
そう言われればその通りにガダも思う。
「しかしディリオとミリでは歳が離れている。逆なら分かるが」
「ミリ様はディリオ様を可愛がっていますし、ディリオ様はミリ様にとても懐いています。お二人が望むのであれば、ミリ様が年上である事など、大して問題にはならないのではありませんか?」
本当にミリとディリオが望むのであれば、コーハナル侯爵家もコードナ侯爵家としても、許してしまうかも知れない。しかしそれは王家が許さないだろう、とガダは考える。それに子供のミリと乳児のディリオを思い浮かべてしまえば、二人が結婚を望む姿はガダには想像出来なかった。




