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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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名より実を

 相手と同じ表情をする時、例えば笑顔に釣られたり、痛がっている人を見ている方も痛そうな顔をしていたりする時は、相手の感情を推測して共感していると言える。

 この共感は、相手に多少なりとも好意や同情がなければ起こらないだろう。笑顔を向けられて嫌な顔をしたり、痛がっている様子を楽しそうに見ているのであれば、好意などある筈はない。

 そして同じ表情をする事で互いの間に共感を感じ、それで好感度が上がる事もある。苦労や勝利を通して連帯感が高まるのはこれに当たる。厳しい練習を涼しい顔で熟すチームメイトがいくら「練習つらいよね」などと言っても、中々仲良くなれなかったりするかも知れない。


 照れ笑いを交わしたミリとレントは、相手に対しての好感度を少しだけ上げていた。

 とは言っても、ミリがレントにそれまで感じていたのは忌避感だったから、「嫌い」寄りから「それほどでもない」側に近付いただけで、好感度としてはまだマイナス値だった。

 一方でレントも、「好ましい」から「好き」には近付いたけれど、低くなっている自己評価が影響して、好感度よりも尊敬度の方がかなり上がっていた。

 ただし二人の関係性としては、良い方向への変化である事は確かだった。



 ミリとレントは照れ笑いを交わした後、そのままコードナ邸の応接室で細かい認識合わせを行った。

 そこでは相手の考えが自分の想定とは異なる事がいくつか見付かり、二人は認識合わせの大切さを感じていた。

 この認識合わせの最中は、二人の感情の動きはかなり同調していたと言える。


 レントの出した、石切り場から海まで水路を作って石材を運ぶ案は、具体的に検討する事になった。

 認識合わせが終わると、レントはコードナ侯爵邸に戻り、バルの父ガダ・コードナ侯爵にアポイントメントを取る。コードナ侯爵領の開発で培われてきた土木工事の知識や技術に付いて、人を含めて貸して貰える様にガダに頼む為だ。ミリからガダに頼む方が貸して貰い易いけれど、それだとレントの出番がなくなる。今後の貴族同士の取り引きの練習にもなるからと、これに付いてはレントが担当する事になった。もちろん、レントだけでは上手くいかなければ、ミリからもガダに頼む予定だ。

 一方でミリもソウサ商会へ技術者の募集に向かった。事前の検討作業を任せる為だ。



 ソウサ商会でミリは、ラーラの三兄ヤールに技術者募集を依頼した。


「今度は水路工事の設計者か」


 募集要項の詳細を読んだヤールがミリに言う。

 人材募集はソウサ商会の店舗で受け付けるのだが、ヤールがいる事を聞いたミリは、ヤールに書類を見せにヤールの執務室を訪れていた。結局は店舗の受付に回すのだけれど、先にヤールに承認のサインを貰っておけば、その後の事務処理が素早く進む。身内だから使える裏技だ。


「うん、ヤール伯父ちゃん。コーカデス領の農地整備にも携わって貰う事になるから、出来たらコーカデス領に定住してくれる人を優先したいのだけれど」

「いたらな。コーカデス子爵領は評判が悪いから、行きたがる人は少ないんで、いたらで良いよな?」

「うん・・・そんなに悪い?」

「王都では聞かないけれど地方だと、移動して来た人やこれから移動をしようと考えている人達の間では、コーカデス子爵領は()めとけって話が広がってるって。この間の石工も、コーカデス子爵領と聞いて止める人が多かったからな」

「そうなんだ」

「ああ。もともとコーカデス子爵領で石工をしていたり石切り場で働いていた職人達が、悪く言って回ってるのもあったけれど」

「そうなのね・・・よほど苦労をしたのかな」

「代々続けていた仕事を辞めて、生まれ育った土地から離れて行ったんだ。行商が生業であちらこちら移動している俺達には、分からない(つら)さもあるんだろう」


 ヤールの言う「俺達」に自分も含められている気がしたけれど、自分に分からない辛さは確かにありそうだと思って、ミリは肯いて返した。


「そうかもね」

「本当はその人達がコーカデス子爵領に戻ってくれれば、慣れてるだろうから良いんだろうけどな」

「来てくれた人の経歴を見たら、コーカデス領出身者は一人もいなかったものね」

「ああ」

「でも却って良かったんじゃないかな。新しい事をして貰おうとしているから、昔はこうだった、とか不満を持つかも知れないし」

「そうだな。頑固な人は、勝手に自分流を通すかも知れないしな」

「相談も報告もなしに、それをやられたら困るな」


 ミリはそうヤールに返しながら、レントと認識合わせを行う切っ掛けとなった話し合いで、ミリとレントがそれぞれ勝手に判断して意思疎通が上手くいっていなかった事を思い出していた。



 コードナ侯爵邸では、ガダが直ぐにレントとの話し合いの為の時間を作った。

 本邸の応接室でレントはガダと向かい合う。


「コードナ侯爵閣下。コーカデス子爵領の水路作成の為に、コードナ侯爵領の技術者をお貸し下さい」


 レントはストレートに願いを口にした。それに対してガダは渋い顔をする。


「コーカデス卿は確かに年齢は幼いし、色々と経験が不足しているのは理解するが、それでも爵位を賜った一領主だ。その様な頼み事をする前に、貴族同士の遣り取りと言うものを身に付ける必要があるのではないか?」

「御指摘、ありがとうございます。しかしわたくしは、何も持たない今の状態でも、領地をなんとかしなければならないのです」

「・・・レント殿」


 ガダからの呼ばれ方が変わって、レントは小さく息を飲んだ。そしてレントも呼び方を変える事を選ぶ。


「はい、ガダ様」

「コーカデス領は今のままでも失くなったりはしない。その様に焦らずとも、何かを手に入れてから進むのでも良いのではないか?」

「ガダ様。御指導、ありがとうございます。ですがわたくしの望みは、それでは叶わないのです」

「・・・それほど陞爵を求めるのは、リート殿が望むからか?」


 ガダの脳裏にレントの祖父母、リート・コーカデスとセリ・コーカデスの顔が浮かんでいた。


「いえ。陞爵は手段ではありますが、祖父に望まれている訳ではございません」

「手段とは?名誉や王国史に名を刻む事を求めていると?」


 ちょっと子供らしい発想を思い付いて、ガダの頬が緩む。


「いいえ、名より実を」


 そう言ってからレントは目を見開き、顔を伏せた。

 その返しも、子供らしいと言えば子供らしいな、などとガダは眉尻が下がる。


「それでは、レント殿が求める実とは?」


 ガダの問い掛けにレントは一瞬顔を上げるが、また顔を伏せた。


「まさかミリではないよな?」


 レントを揶揄う積もりでガダが口にした言葉に、レントは顔を上げてガダを正面から見た。

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