求めに応じるも、そうではない
不機嫌な声を出してしまった事を誤魔化す様に、ミリは小さく咳払いをした。
「コーカデス卿」
「はい、ミリ様」
レントの声が、心なしか冷たくミリには聞こえる。
「コーカデス領の開発の為には、わたくし達は意見を出し合うべきではありませんか?」
感情を抑えようとしたそのミリの声も、冷たく響いた。
「結果が同じであるのなら、議論の時間はない方が良いのではないでしょうか?」
レントの抑揚の少ない言葉も、場の空気を冷やす様にミリには感じる。寒さ故か、ミリの肩に力が入った。
「わたくしとの議論は無駄だと言うのですか?」
ミリに取っては無駄だろうし、ミリからすれば嫌だろうとレントは思う。それなのでミリが何を言いたいのか分からず、レントは小首を傾げた。
「ミリ様がわたくしとの議論に時間を費やすより、他の有意義な事にミリ様の時間を使って頂いた方が、ミリ様の為にもコーカデス領の為にもなると考えます」
レントが小首を傾げた様子に、ミリはレントとの気持ちの乖離を感じる。
「卿とわたくしの間では意思の疎通は不要だと?」
ミリは少し早口になった。その上言葉尻も荒い。その為にレントはミリに責められている様に感じたけれど、レントにはミリとの意志疎通は出来ている認識だ。
「連絡や報告を行う事で、充分に意志の疎通は取れるのではないでしょうか」
「今のわたくし達のこの状況は、意思の疎通が充分に取れていると?」
更に責められている様に感じたけれど、レントにはミリが何を言いたいのか分からない。
「今はまだ、ミリ様の話を伺ってはおりませんので」
良く分からない遣り取りを続けるよりは、レントはミリに早く話をして欲しかった。
レントと意思の疎通が出来ていないと思えているミリは、自分の出す話題でもレントには話が通じないのではないかと思えている。そして通じない事を通せば、意思疎通が出来ていない事をレントに納得させられるかと考えた。
「・・・分かりました。わたくしからの話は、ソロン王太子殿下がコーカデス領産の香辛料に対して、国内の自生地が特定されるまでは使用しない様に仰った事です」
「はい」
「それに付いて、もう少し詳しく教えて下さい」
ミリにそう言われ、レントは戸惑う。
「あの、ミリ様?」
「何でしょうか?」
「手紙に書いた内容が全てなのですが?」
全てを伝えているからこそ、意思疎通は足りているとレントは思っていた。しかしミリは、レントの手紙だけでは、レントとソロン王太子の考えが良く分からないと思っている。
「会話の流れがどの様に進んで、その様な結果になったのか、それを聞かせて頂きたいのです」
流れも何も、とレントは思ったけれど、ミリが望むのならと思い直して、ソロン王太子との会話を辿ってみる事にした。
「分かりました。まず、コーカデス領で香辛料が作られている事をソロン王太子殿下に打ち明けました。他国で同種の香辛料の自生が確認された事にソロン王太子殿下が言及し、この国にも自生していた筈だとの話になり、コーカデス領で自生していたかどうかの調査を行う事を命じられました。その調査の間、ソロン王太子殿下は他国の状況を確認なさるそうです。この事をミリ様に伝える様にも命じられました。それに続けて、ミリ様がコーカデス領の香辛料を使った料理を提供する店を出す予定である事をソロン王太子殿下に伝えたところ、国内の自生地が判明するまではコーカデス領産の香辛料は料理に使用しない様に命じられました。料理には輸入した香辛料を使う様にとも指示されました。経緯は以上です」
レントの説明にミリの眉根が寄る。
「コーカデス卿は、香辛料が自生しているかも知れないと、思った訳ではありませんよね?」
「ニダの話を聞いていますから、密輸した物と知っています」
レントがそれを知っている事はミリも知っている。ミリが訊きたいのはそこではない。ミリの語調が強まった。
「それなのに自生地を探す調査を引き受けたのですか?」
流れを訊かれたから話したのに、この質問に答えるには推測を混ぜるしかなく、レントの声は少し小さくなる。
「それに付きましては、ソロン王太子殿下も自生しているとは考えていらっしゃらないと受け取ったからです。国内で生産した香辛料を使っても良い様に調整して頂ける様に思えました。そしてその結論が出るまでは、自生地を調査と言う事にするのだなと、わたくしは受け取りました」
「それは、ソロン王太子殿下との会話が、他には漏れない状況での事ですよね?」
「はい」
「それなのにソロン王太子殿下が、香辛料使用の為の調整を口には出さずに、調査する事を命じたのはおかしくはありませんか?」
レントは小さく息を吐いた。
「・・・仰る通りです」
疑問を口にしただけなのに、レントが受け入れてしまった事にミリは少し慌てた。
「あ、いえ。そうも思えると思っただけです」
「わたくしが勘違いをしていました。申し訳ございません」
頭を下げるレントに、何故その様な反応になるのかミリには分からない。本当にただの報告だけで話し合いとはならず、レントがその様な接し方をして来る事に、ミリはだんだんと腹が立って来た。




