本当に
ラーラの表情にレントは、ラーラにはまだ他に心配事があるのかと考えた。あるとすれば警備の事だろう。
しかしバルがラーラの護衛に付くのなら、ラーラ個人の警備では心配が要らない筈だ。レントはバルが剣を振るところを見た事は無いけれど、バルが指導をしているソウサ商会の護衛達の動きは、ミリの護衛として付いて来た事で目にしている。それにバル自身も逞しい体をしているので、かなり鍛え上げている事だけはレントにも分かっていた。
そしてミリに対しても、ミリに付く護衛達の事を考えたら心配は要らない様に思える。
だからと言って、ミリやラーラの安全に付いて、レントとしても手を抜く積もりはもちろんない。バルがいなくてもコードナ家の護衛がいなくても、コーカデス家だけで不備がなくする積もりでレントはいた。
他に問題があるとしたら、暴動などだろうかとレントは考える。ラーラやミリではなく、港町自体がターゲットにされて、建物が破壊されたり火を着けられたりする事は考えられる。
しかしそれも警備に拠って防げる筈だし、そもそも暴動など起こさない様にするべきだ。
領内の経済が上向けば、それに関しての不満は減るはずだから、暴動が起こるとしたら王都での件の様に、信仰心に基づくものになりそうだ。
今は廃墟となっているコーカデス領内の神殿は、やはり速やかに取り壊してしまい、再建も許可しない様にすべきか、などとレントは考えていた。
「レント殿」
しばらく、カップにも茶菓子にも口を付けずに声も出していなかったラーラが、レントに呼び掛けた。
自分の考えに沈んでいたレントも、ラーラの声に意識を浮上させる。
「はい、ラーラ様」
「レント殿は本当に、ミリと結婚したいと考えているのですか?」
「・・・はい」
急な話題にレントの返しは一拍遅れた。
「それは本当に可能だと、レント殿は考えているのですか?」
「はい」
今度はすかさずレントは肯く。
「バル様もいずれ、ミリ様に結婚させない事を撤回なさるとわたくしは考えております」
「そうしてレント殿とミリとの結婚を許すと?」
「そうなる様には努力致しますが、わたくしに限らず、結婚を許可なさるのではないかと思っているのです」
「それは、どうしてですか?」
「わたくしはラーラ様がバル様と結婚なさって、幸せを感じていらっしゃると思いますが、いかがですか?」
「・・・そうですね」
今度は、自分の事を訊かれるとは思っていなかったミリの返しが、一拍遅れた。
「その事はもちろん、バル様も感じていらっしゃるのではないでしょうか?」
「私が幸せを感じていると、バルが感じていると言う事ですね?」
「はい。わたくしの両親は離婚をしておりましたので、夫婦間の幸せと言うのは全く知らなかったのですが、ラーラ様とバル様を見て、その存在を知りました。そしてそれはとても良いものに思えました」
ラーラはそうだと肯いて良いのか躊躇う。それはバルと自分が一般的な夫婦とは思えないからだ。
しかしレントはそのラーラの躊躇いは、レントの両親が離婚をしている事にラーラの気が引けているからだろうと受け取り、気に留めないで話を進める。
「バル様はミリ様を幸せにしたいと思っていますよね?」
「え?ええ。そうね。それは確かです」
「そうしますとそのミリ様の幸せに、夫婦としての幸せが含まれないのはおかしいと思えるのです」
ラーラはバルがミリに結婚をさせないと言っているのは、ミリの出自もあるからだと考えていた。それなので、今のレントの言葉の様な考え方はした事がない。
「わたくしにはミリ様の存在も、ラーラ様の幸せの理由の一つになっている様に思えるのです。それですのでバル様がミリ様に少しでも多く幸せになって欲しいと思うのでしたなら、ミリ様の結婚もミリ様が子供を儲ける事も、バル様は賛成なさるのではないでしょうか?」
そのレントの意見は、ラーラには新鮮に響いた。
ラーラももちろんミリには幸せになって欲しい。その為には親として、出来る限りの事はミリにしてやりたい。
「バルがミリの結婚に賛成しても、そしてミリが結婚を望んだとしても、ミリが望んだ相手と結婚できるとは限りません」
「・・・それは、やはり、そうなのですか?」
「やはり?何がやはりなのです?」
「実はミリ様は既に、婚約なさっているのではありませんか?」
「え?なんで?その様な訳はないではありませんか」
「ですが、望んでいない相手と結婚しなければならないのでしたら」
「いいえ、違いますから。望んだ相手と結婚が出来ないというのは、結婚が出来ない話であって、望んでもいない相手と結婚する話ではありませんよ」
「ですが結婚できないと言うのは、バル様が結婚に反対だからと言う理由ではありませんでしたか?」
「それは、だから、建前の様なものではありませんか」
「・・・もしかしてラーラ様も、ミリ様の出自が理由になると考えているのですか?」
「・・どこかには、その事を気にしないでくれる相手がいるかも知れませんけれど」
「いえ、ラーラ様?どこかにではなく、わたくしがいるではありませんか?」
ラーラはそう言い切るレントをまじまじと見た。




