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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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民意の予想

 ラーラはラーラがコーカデス領に行く事自体に、レントが懸念を持っているのかと思った。

 コーカデス領の衰退には、レントの曾祖父とラーラとのトラブルが影響している。その事をコーカデス領の領民達は今でも忘れてはいないだろうし、ラーラを恨んでいる者もいるだろう。

 コーカデス領で万が一にも、ラーラ・コードナに危害を加える様な人間が現れたら、コードナ侯爵家もコーハナル侯爵家も、もちろんバルも赦さないだろう。たとえラーラに実害がなかったとしてもだ。そこからラーラ誘拐事件に繋げて、コーカデス家が誘拐に関わっていたとの話が再燃するかも知れない。


 ラーラは視線をレントから外し、手元のカップに移す。レントも自分のカップに視線を落とし、カップをまた口に運んだ。


「私がコーカデス領に足を踏み入れる事に付いて、コーカデス家の皆さんが不安に思う様なら、何らかの対策を打つ事も出来ると思いますけれど?」


 その言葉にレントは顔を上げ、驚いた表情をラーラを向ける。

 そのレントの表情から、レントの懸念がコーカデス家とラーラとの因縁ではなさそうだとラーラは思った。

 しかし言い掛けてしまったのだから仕方がない。ラーラは思い付いた対策案を口にする。


「例えば海を渡ってコーカデス領に近付いて、船からは下りないで指示だけをするとか」


 レントの頭には王都からコーカデス領まで海路を使う考えはなかった。確かに港が出来る前でも、小舟を使えば上陸できる。

 その考えには驚いたけれど、ラーラの提案が解決策にはならない事はレントにも分かる。


「ラーラ様のお話が、コーカデス領内の治安に対しての御指摘でしたら、バル様に頼らずともラーラ様を守る為の方策を立てます」

「警護の面ではなくて、どちらかと言うと民意の面の心配ですね。ミリの事はまだ、領民には知られていないのでしょう?」

「はい。ミリ様の姿は見られてはいますけれど、ミリ・コードナ様だとは思われてはいません」

「店舗開発の責任者として私が赴任したら、私もそうだけれどミリの存在も知られるでしょうから、私達の存在は隠した方が良いのかも知れません」


 そのラーラの言葉にはレントは肯けなかった。


「領地の為に力を貸して頂くのに、ラーラ様とミリ様の存在を隠さなくてはならないなど、領主として恥ずかしいですし、また皆様にも申し訳なく思います」

「レント殿が悪い訳ではありません」

「いいえ。わたくしはミリ様を妻に迎えたいのですから、民意の修正は早い内に行わなくてはなりません」


 ミリを妻に迎えるとのレントの言葉に、ラーラの表情は曇る。

 それをレントは、民意を変える事が出来ないとラーラに思われていると感じた。


「ミリ様を悪魔の子と呼ぶ者達は、領地から追放しても良いとわたくしは思っています」

「それは駄目ですよ」

「はい。コーカデス家の人間にも反対されましたし、ミリ様にも反対されるでしょう。しかしその様な者達が自ら領地から出て行くのでしたら、わたくしはそれを(とど)める様な施策は打ちません」

「自ら出て行くなんて、その人達に生活をし(づら)くするのなら、それは追い出しているのと一緒ですよ?」

「わたくしに取っては領地の開発が優先課題ですから、その様な者達の生活を難しくする様な事をわざわざ行ったりはしません。ミリ様の功績を公表する事で領内にミリ様の支持者が増えれば、ミリ様とラーラ様を悪く言っていた者は肩身が狭くなり、やがては領地から出て行かざるを得なくなるでしょう」

「けれど、私の事を恨んでいる人は多いでしょうし、私を通してミリも恨まれているでしょうから、そうだとしたら大勢が出て行くかも知れませんよ?」

「改心する者もいる筈です」

「それは、でも、以前のコーカデス領を覚えている人には難しいですよ?過去の豊かさを私に奪われたと思っている訳ですし、今の生活が少しくらい良くなったとしても、私達に向ける気持ちを変える程にはなりませんから」

「ラーラ様の仰る事は分かりますけれど、ラーラ様?」

「何でしょう?」

「わたくしの祖父母がミリ様に謝罪した件は、御存知ですか?」

「・・・ええ。聞きましたけれど」

「実はわたくしは、祖父母がラーラ様を悪く言うのを聞きながら育ちました」

「その割にはレント殿は、私に対して悪い感情を持っていない様に思えますけれど?」

「はい。わたくしはラーラ様に敬意を持っている積もりです。ミリ様には信じて頂けなさそうですけれど」

「何故ミリが?」

「ミリ様にはわたくしがミリ様に向ける感情が、侮蔑とか嫌悪とかに感じられるそうなので、わたくしがラーラ様とバル様に敬意を持っている事ですとか、お二人の事を理想的な夫婦として憧れている事など、ミリ様には全く信じて頂けない様なのです」

「でも、お祖父様とお祖母様からレント殿は、私の事を悪く教わっていたのでしょう?」

「それについては共感が出来なかったと言いますか」

「共感ですか?」

「はい。お目に掛かった事はありませんでしたし、お姿も想像できませんでしたので、ラーラ様を怨む相手とする事は、わたくしには出来なかったのだと思います。ミリ様がラーラ様とそっくりだとは聞いていましたから、ミリ様と知り合ってからはわたくしが思い浮かべるラーラ様はミリ様の姿でしたし、そのミリ様をミリ・コードナ様だと知らないうちに、わたくしはミリ様に助けられて感謝を感じていましたから、始めてラーラ様にお目に掛かった時も、自然と感謝を感じていたのです」

「そうなのですか?」

「はい。それに先程ラーラ様が仰っていた過去の栄光を奪われたとの件も、わたくしが物心付いた時には栄光とやらは昔話の中だけで身近なものではありませんでしたし、現在進行中の状態で少しずつ領内の景気が悪くなっていたのは感じていましたが、それをラーラ様に結び付けて考えるのには無理がありましたので」

「それでも、身近な人に繰り返し言われていたら、そう言うものだと思う筈なのですけれど」

「祖父母の話では叔母も被害者の様に語られる事もあったのですが、その叔母が一切バル様とラーラ様の事を悪くは言わなかった事も、わたくしがラーラ様に悪意を向けずに済んだ理由なのかも知れません」

「・・・そうなのですね」

「はい。そしてその祖父母はミリ様に、ラーラ様に敵意を向けていた事も含めて謝罪をしたのですが、わたくしにはそれが本心からの様に思えています」

「ミリも、お二人が本心から謝罪したと感じているそうです」

「そうなのですね。それは良かったですけれど、そうしてラーラ様にあれだけ敵意を向けていた祖父母が改心を出来るのでしたら、ミリ様に対しての考えを変える者も多く現れると思いますし、ラーラ様にも領地開発をお手伝い頂けるのでしたら、より早く良い影響が現れると思うのです」

「ですが、皆が皆、そう考える訳ではありませんよ?」

「はい。どうしても考えを変えない者は残ると思いますが、周囲が改心して行く中、その者達は生き辛くなって行く筈で、やがては領地を出て行くとわたくしは考えています」

「そう・・・そう言う事なのですね」

「はい」


 肯くレントにラーラも小さく肯いて返したけれど、その表情はまだ晴れてはいなかった。

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