港のレストラン対応
石材規格化の話が一段落したところで、ラーラがミリに声を掛ける。
「ところでミリ?」
「はい、お母様」
「色々な国のレストランを作る案は素敵だけれど、料理人や従業員はどうやって集めるの?さすがにヤール伯父ちゃんでも無理じゃない?」
「いいや、ラーラ。ミリの為なら俺はやるぞ?任せろ、ミリ!」
ラーラの三兄ヤールはそう言って胸を叩いた。
「本当に?ヤール兄さん?目処が立っているの?」
「この国にも様々な国から人が集まっているから、適任者を探し出す事は出来る筈だ」
「筈だって、出来なかったら大変じゃない。レストランだけ建っても従業員が集まるまで開店出来ないなんてなったら、スタート時点で港町全体にブレーキが掛かるわよ?閉まっている店が並ぶ港町なんて、寂れて見えるだろうし」
「王族や貴族を喚ぶのは店が揃ってからにすれば良いじゃないか」
「そうはいかないわよ。ねえ?ミリ?」
「そうですね。最初に王族を招待して、そこから貴族に流行らせて、平民に憧れて貰う積もりでいます。歴史あるお祭りや観光地などは、平民が楽しんで有名になって貴族や王族が訪れる様になっていますけれど、コーカデス領は即席で開発しますので、人々の間で評判が上がるのを待てません」
「けれどそれだと港町全体が薄っぺらくならないか?」
「薄っぺらくしない為に、レストランには本物の料理と本物の従業員を揃えたいと思うのです」
「いや、分かるけど、そうなるとますます開店までに時間が掛かる事になるぞ?」
「そこはお母様にお願いしようかと私は思っているのです」
「え?私に?」
期待に溢れた視線をミリに向けられて、ラーラはかなり驚いた。
「はい。王都の港町にも、それぞれの国の料理を出す店がありますよね?」
「ええ」
「それに多くの国からの船が港には来ていますよね?」
「ええ、そうよね」
「そしてお母様は、それらのお店とも船員達とも懇意でしたよね?」
「いや、ミリ、それは駄目だ」
ミリの話をバルが遮った。
「それはお母様の結婚前の話だろう?」
「それでも今も、店のオーナーや従業員達にも船員達にも、お母様は人気があります」
「いや、お母様に人気があるのは分かるけれど、ミリはお母様にその人達の取り纏めをさせようとしているのではないかい?」
「はい、その通りです」
「それはお母様には、かなりの負担になるではないか」
「はい」
「はいって、それは駄目だよ、ミリ。それは駄目だ」
「お母様はどうですか?」
「どうって、駄目だよな?ラーラ?」
「ミリ?」
「はい、お母様」
「それって、お父様と一緒でも良い?」
「え?ラーラ?」
「はい。お父様にはお母様の護衛を依頼する積もりでした」
「それなら、バル?もう少しミリの話を聞いてみない?」
「いや、でも、ラーラ?」
「バルが私の心配をしてくれているのは分かっているの。でもミリの案には私も興味があるの。それにバルが一緒なら、やれそうな気もするのだけれど」
「ラーラ」
「どう?」
「どうって・・・分かったよ。先ずは話を聞こう」
「ありがとう、バル」
「ああ。ミリ?続けて貰えるかい?」
「はい」
ミリはバルに肯くと、ラーラを見ながら続きを話し出す。
「店と船員は同じ国同士で人の繋がりがありますから、まず国ごとにチームを組んで貰います」
「え?王都の港町の話かい?」
「はい。王都の港町を起点としたチームで、お祭りなどでのチーム対抗戦の様に、そのチーム同士でコーカデス領の店の開店を競って貰おうと思うのです」
「それは面白そうだな」
ヤールが明るい声を挟む。ラーラの次兄ワールも肯いた。
「その競い合い自体を見世物にするイベントに出来れば、港町の事前の話題作りにもなるな」
「良いじゃん、ワール兄さん」
「楽しそうね」
「コーカデス港に寄港しろって、船員達が騒ぐかもな」
ラーラの長兄ザールとその妻カンナも笑顔で言葉を挟んだ。
ミリも皆の様子に笑みを浮かべてから、ラーラに視線を戻して表情を引き締める。
「コーカデス領のレストラン自体はミリ商会が出資して開きますけれど、レストランの料理人や従業員は、王都の港町の店から派遣しても良いですし、それぞれの国から連れて来ても構いません。それらを取り纏めるには、それらの国の人達と会話が出来る人が必要だと思うのです」
「そう言う事なのね」
ミリの話にラーラは肯いた。
「もちろんミリも出来るわよね?」
「会話は出来ますが、私ではお母様の娘として扱われてしまい、どうしても子供扱いになる部分が残っていて、そこが事業の不安材料になります」
「お祭り騒ぎで派手にばかりなって、事業面や収益面で甘く見られるかも知れないと言う事ね」
「はい」
「それにミリは他の開発案件も進めなければならないものね」
「はい。しかしお母様にレストランの立ち上げをお願いするとしたら、お母様も他の事に手が回らなくなるかも知れません」
「そうね。専念する必要がありそうだわ」
「はい」
ラーラは隣りに座るバルを見る。
「バル?どうかな?」
「いいよ。やってみたいのだろう?」
「もしかしたらコーカデス領と行ったり来たりになるかも知れないけれど、大丈夫?」
「ああ。ただし」
バルはラーラの父ダンに顔を向けた。
「そうなるとお義父さん。ソウサ商会の護衛事業は他に人に任せる事になりますが、よろしいでしょうか?」
「構わないですよ。業務を部下に任せると言う事だよね?」
「いえ。今も私でなければならない仕事はほとんどありません。職を辞する形を取りたいと思います」
「それは駄目だね。仕事は全て部下に任せるのでも良いから、籍はそのままにしておいて欲しい」
「ですが、出勤もほとんど出来ない事になりそうですし」
「構わないよ。護衛事業の特性として、何かあった場合の非常時に備える必要があるよね?」
「ええ」
「その時にバルさんがソウサ商会に籍を置いておいてくれたら、貴族の方達に話を通し易いと言うのは見逃せないメリットだからね」
「・・・分かりました。その言葉に甘えさせて頂きます」
「いやいや、ソウサ商会の為でもあるし、ラーラがやりたいと思う事を助けたいのもあるし、ミリにやりたいだけやらせてみたいのもあるからね。バルさんもそうだろう?」
「はい、お義父さん」
バルと肯きあったダンは、ミリに微笑みを向けた。
「レストランもそれに纏わるイベントも、ソウサ商会はミリ商会に協力するよ。皆もそれで良いね?」
ダンがソウサ家の皆を見回すと、皆が口々に肯定を返す。ダンはラーラとも肯き合って、それからもう一度バルと肯き合ってから、ミリにまた微笑みを向けた。
「と言う事で、よろしくお願いするね、ミリ」
ミリも笑顔でダンに肯く。
「はい。みんな、ありがとうございます」
そう言ってミリは、皆にも笑顔を向けた。




