ザールの指摘
ラーラの長兄ザールは、資料から顔を上げてミリを見る。
「ミリ」
「はい、ザール伯父ちゃん」
「この資料、全体的に規模感が不鮮明だけれど、それは何故かな?」
「石材規格化の話をしてから、その場の手応えを元にして取り引きの概算を見積もろうと思っています。港も付帯施設もそれから規模を見積もる積もりなので、今はまだ、その様な記述になっています」
「そうか。これは事業概要で事業計画は別に立てるから、と言う事だね?」
「はい」
「なるほど。ワールが船舶事業をソウサ商会で引き受けるのは、規模のブレのリスクを減らす為でもあるのか」
「ミリ商会から見たらそうだけれど、兄さん?ソウサ商会単体でもメリットがあるだろう?」
ザールの言葉に、ラーラの次兄ワールが返した。
「ああ。コーカデス領に港が出来なくても、船上ディナーはやりたいな」
「そうだよな?」
ラーラの三兄ヤールも身を乗り出す。それを見てザールの妻カンナが笑った。
「ヤールちゃんはよっぽど気に入ったのね?」
「カンナちゃんだってザール兄さんと船上ディナーとか行きたくない?」
「もちろん連れてって貰う積もりだけどね?」
「準備段階でリハーサルとかやるなら一緒に行くけれど、多分急に流行るだろうから、営業開始後に行くなら大分落ち着いた後からになるだろうな」
「そうよね。是非リハーサルをやってね?ワールちゃん?」
「約束は出来ないけど、その時は兄さんと義姉さんに声を掛けるよ」
「ああ」
「よろしくね」
「俺も喚んでくれよ?ワール兄さん?」
「喚ばなくても来るだろう?料理人の手配とか、任せて良いんだよな?」
「もちろんだよ」
「それでミリ?」
ワールとヤールの遣り取りを切る様に、ザールがミリに声を掛ける。
「はい、ザール伯父ちゃん」
「その石材規格化の話はいつ行う予定?」
「十日後くらいにです」
「う~ん、五日後かな?」
「え?」
「持ち帰りもあるだろうから、五日後に初回、七日後に二回目で十日後には合意が良いんじゃない?」
「五日後ですと、コーカデス子爵がまだ王都に来られていないと思います」
「いついらっしゃるの?」
「石切り場の視察とその他を終えてからですので、早くても五日後くらいかと」
「十日後なら確実にいらっしゃっているの?」
「その想定です」
「この資料を読む限り、コーカデス子爵様はいらっしゃらなくても大丈夫じゃない?」
「そうかも知れませんけれど」
「コーカデス領からミリ商会が受注して開発するのだから、その場の責任はミリ商会にある訳だよね?」
「もちろんです」
「そうしたら発注者のコーカデス子爵様がその場にはいない方が、責任の所在が明確になるよ?」
「それはそうなのですけれど」
「ザール義兄さん」
ザールとミリの遣り取りに、バルが口を挟んだ。
「なんだい?バル?」
「その打ち合わせにはシロント子爵家とシンコク子爵家にも参加を打診するのです」
「なるほど。子爵様達が来るから、コーカデス子爵様も出席しなければならないと言う事なんだね?」
「いや、子爵が来るかは分かりませんし、だからコーカデス卿の出席が必要と言う訳でもないのですけれど」
「貴族観点で、コーカデス子爵様の出席は必須ではないの?」
「そうですね。必須と言う訳ではありません」
「なるほど。事業観点でもコーカデス子爵様の出席は必須ではないよね?ミリ?」
「はい。必須ではありません」
「それなら一日でも早く進める事を提案するよ。コーカデス領もミリ商会もそうだろうけれど、建築家達だって一日でも早く対応を始めたい案件だろうから」
「確かに、そうですね」
「報告で済ませられるところは済ませて、会議への参加者は必須な人だけに絞った方が良い。必須ではないけれど発言力がある人の参加は、無駄に会議を長引かせるだけだから」
「う~ん、確かにザール伯父ちゃんの言う通りな気がします」
「多分、俺が建築家や設計士なら、その石切り場の視察や実際の石材を見ながら話したいと思うから、そのイベントが割り込む事も考えた方が良いと思うな」
「なるほど。確かにそうですね」
ミリが納得する様子に、ザールは微笑む。
「指摘をありがとうございます、ザール伯父ちゃん」
「どういたしまして」
ミリはザールに下げた頭を上げると、ラーラの父ダンを向いた。
「お祖父ちゃん」
「ああ」
「関係の方達を集めるのは、五日後でも可能でしょうか?」
「大丈夫だよ。持ち帰り前提なら、代理を寄越しても良いのだし」
「分かりました。お父様?」
ミリは顔をバルに向ける。
「なんだい?ミリ?」
「シロント子爵とシンコク子爵への参加打診も、五日後でも大丈夫でしょうか?」
「両家とも当主が王都にいるし、問題ないとは思うけれど、ミリ?」
「はい、お父様」
「今のザール伯父ちゃんの話だと、両家は会議には参加させない方が良いと言う事ではないのかい?」
「両家には共有の為に声を掛けるのですので、オブザーバーとして参加して頂く積もりでした」
「そうか。それなら大丈夫か」
「はい。それなので、お祖父ちゃん?五日後に開催で手配をお願い出来ますか?」
「ああ、分かったよ」
ダンが微笑みながら肯いた。それにミリも笑みを返す。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」




