海上事業案
ミリは席を立って、ラーラの長兄ザールに体を向けた。
「ザール伯父ちゃん。忙しいところを参加して頂き、ありがとうございます」
「おお!ミリ!」
頭を下げるミリに素早く近付いて、ザールはミリを抱き上げた。
「ますます綺麗になって!ラーラを追い抜きそうだな!」
「あ、いえ、その、まだまだです」
「ミリちゃんが気を遣って、返事に困ってるじゃないの」
ザールの妻のカンナが呆れを声と態度で表す。
「気を遣って、ラーラを追い越したとは言ってないだろう?」
「いいから、ミリちゃんを降ろして座りなさいよ。ほら。これがミリちゃんの資料」
「ああ」
カンナに言われてザールはミリを降ろすと、カンナの隣の席に座って資料を捲った。
「ザール伯父ちゃん?説明をしましょうか?」
「いいや、ミリ。分からなかったら質問するから、先を進めて」
「分かりました」
資料に目を落としたまま答えたザールにミリは肯くと、顔をラーラの次兄ワールに向ける。
「海上輸送の話ですけれど、他に何かありますか?」
「双胴船への改修は、需要の予測を立ててからする積もりなんだね?」
「はい。石材の規格化の検討会である程度の感触を得てから、販売計画を立てる予定です」
「うん。それで船だけれど、ソウサ商会から買うのではなく、海上輸送も貴族の移動も、ソウサ商会に依頼する方が良いと思うな」
「ですが、貴族用には船を双胴船にしたいのですけれど」
「今は遊ばせている船だから、その改修は構わないよ。なあ?父さん?」
「そうだね」
ワールに訊かれてラーラの父ダンは、首を少し傾けた。
「どれだけの利益が得られるかだけれど」
「だが、ミリ商会で船を買い取って改修するなんて、リスクが高いだろう?」
「それはミリ商会が考えるべきで、ワールが気にする事ではないじゃないか」
「いや、そうだけれど」
「ミリ?」
「はい、お祖父ちゃん」
「ミリ商会の商会長のミリとしては、リスクよりリターンを取ると言う判断なのだよね?」
「私の案を通すなら、貴族に宿泊に来て貰う必要があって、そうするには先ずは王族を招待したいと考えています。それなので王族に使って頂ける船が必要で、その為には双胴船が是非欲しいのです。そして双胴船を用意するには、改修費を含めてミリ商会が負担する以外にないと判断しました」
「双胴船にして王族向けの内装にしたら、使い途は限られるからだね?」
「はい」
「ミリ商会からは今も陸路での配送依頼を受注している。ワールは海路の配送も、双胴船の改装込みでソウサ商会が引き受けても、利益が出ると考えているのだね?」
「ああ、父さん。コーカデス領との往復以外にも、王都を起点とした遊覧でもニーズがあると思う。王族が利用できる程の安定した船なら、船上でランチやディナーを提供するのも受けると思ったんだ」
「おお。面白そうじゃないか、ワール兄さん」
ラーラの三兄ヤールが体を乗り出した。
「そうだろう?双胴船ならデッキも広いから何席も作れて、流行ればかなりの利益が見込める筈だ」
「そうだよな。俺も乗ってみたい」
「そうすると、もしミリの話がなくても、双胴船にする価値はあるかも知れないね」
ダンの言葉にワールは肯いた。
「それにもしコーカデス領の港が成功すれば、他の領地でも港が出来て、王都からの寄港先が増えるかも知れない」
「なるほどね。ユーレはどう思う?」
「良いと思うわよ」
ラーラの母ユーレが肯く。
「遊んでいる船を有効活用出来ると言う事は、ソウサ商会ならリスクが少ないと言う事をワールは言いたいのよね?」
「ああ、母さん。訓練だけさせている船員達も、働かせてやれる事になるし、利益が出せればもう少し待遇も良くしてやれる」
「今のところ、ソウサ商会のお荷物扱いだものな」
「言ってくれるじゃないか、ヤール」
「だってそうだろう?」
「商会の方針に翻弄されたんだから、仕方ないだろう?」
「それは分かっているけどさ」
「俺も賛成だ」
資料から顔を上げずに、ザールが発言した。
「どっちにだ?ザール兄さん?」
「どっちに?」
ザールが顔を上げてヤールを見る。
「ミリ商会の配送依頼を受けて双胴船で事業を始める事に賛成なのか、海運事業がソウサ商会のお荷物だと言う事に賛成なのか」
「なに言ってんだ?ヤール?双胴船に決まってるだろう?お荷物だとは思ってないよ。お前は海運事業に反対だったのか?」
「いや、俺も賛成だけどさ。人材事業よりソウサ商会らしいし」
「なに言ってんだ。ニーズとのマッチングと言う意味では、行商も海運も人材紹介も有罪証明も、ソウサ商会の仕事だよ」
「ざっくりだよな、ザール兄さんは」
「カンナはどうだい?」
ダンがカンナに尋ねる。
「料理人は船に乗りたがらないって聞くけど、手配は出来るの?ワールちゃん?ヤールちゃん?」
「出来るよ、カンナちゃん」
「それは何ヶ月も陸に戻れない船での事だ。長くても五日も掛からないなら、手を挙げる料理人はいるだろう」
「そうそう。ワール兄さんの言う通りだよ、カンナちゃん。日帰りならもちろんだし、相手が貴族なら箔が付くから、コーカデス領までの往復だってやりたがる人はいるから、大丈夫」
「そうなのね。それなら義父さん、私も賛成だわ」
「そうか」
ダンはカンナに肯くと、ミリに顔を向けた。
「ソウサ商会としては、船舶を販売するのではなく、海上輸送業務を請け負う事を提案するけれど、ミリ商会としてはどうだい?」
「はい。その方針で結構です。それでお願いします」
「うん」
ダンはミリに微笑んでみせる。
「それでみんな?コーカデス領への輸送が受注出来なくても、双胴船への改修に着手しても良いよな?」
ワールの言葉に、ソウサ家の皆は肯いた。
「そうだね」
「いいわよ」
「細かい事は詰めるよな?」
「ああ、後で計画書を出すよ」
「それなら良いわね」
「楽しみだなミリ?」
皆が真剣な表情で肯き合う中で、ヤールは嬉しそうな顔をミリに向ける。それがミリにはおかしかったけれど、同時に安心も感じられ、ミリも笑顔で「はい」と返した。




