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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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対外と実態

 ミリは頭の中で、レントの話を整理してみた。


「コーカデス卿」

「はい、ミリ様」

「コーカデス卿の案は、体制的にはコーカデス領とミリ商会の事業共同体を設立して、そこを主体として開発を推し進めると言う事ですか?」

「はい、ミリ様。わたくしはその様なイメージでいます」


 ミリはレントに小さく肯く。


「その上で、事業や領域ごとにコーカデス卿とわたくしが手分けをして、もちろん報告はお互いにするのでしょうけれど、基本的にはそれぞれの判断で開発を進める事をコーカデス卿は考えているのですね?」

「はい、その通りです」


 ミリはレントに肯くと、レントの祖父母、セリ・コーカデスとリート・コーカデスに顔を向けた。


「確かにメリットはありそうですけれど、問題点もある様にわたくしには思えます」

「そうなのですか?」

「それはどの様な点でしょうか?」

「先ずは会計処理が複雑になりそうな事です」

「いいえ、ミリ様」


 レントが首を左右に振る。


「コーカデス領から見ますと、ミリ商会への投資に対しての配当金収入と、ミリ商会からの事業税収入だけになりますので、会計処理は却ってシンプルにする事が出来ます」

「え?・・・それではコーカデス卿の働きに対しての報酬が抜けているではありませんか」

「その分がミリ商会の利益となって、その利益から配当金と事業税が発生しますので、問題がないではありませんか」

「問題はありますよ。それではミリ商会がコーカデス卿をただ働きさせている事になるではありませんか」

「領地の収入からコーカデス家への分配がありますので、そこは問題がありません」

「いいえ、そうではなくて、ミリ商会が開発を一括受注するのでしたら、コーカデス卿が開発に携わった働きに応じて、ミリ商会からコーカデス卿に報酬を支払わなければならないではありませんか」

「ですので、対外的には事業共同体の形を取るのではありませんか」

「対外的にどうであろうと、実態はただ働きですよね?」

「いや、ミリ様?まさかこの点を理解して頂けないとは思いませんでした」

「理解していますよ。理解しているからこそわたくしは、それはおかしいと言っているのです」

「しかしわたくしを本当に、金銭的にミリ商会の従業員の様な扱いをするのだとしたら、収益計算が難しくなるのではありませんか?」

「なりますからそう言っているのではないですか」

「その計算や調整自体に、ミリ様やわたくしの時間を使うのは無駄ではありませんか」

「無駄?いいえ、必要な事なのですから、無駄な訳がないではありませんか」

「いいえ。必要がないから無駄だと言っています。わたくしは余計なコストは掛けたくありません。その為にはその様な無駄は省きたいのです」

「いいえ。法に照らせば、必要な事です」

「ですからそれは、わたくしがミリ商会に雇用された場合ですよね?対外的には事業共同体なのですから、法律的にも問題はないではありませんか」

「しかし実態は違うではありませんか」

「実態が違うからと言って、だからどうだと言うのですか。ミリ様。わたくしは最も効率的に領地開発を進めたいのです」

「それは分かりますが」

「効率に着目した場合、わたくしの述べた案が最もシンプルで、会計処理も単純であり、間接費も抑えられる事には、ミリ様も同意頂けますよね?」

「それは、同意しますけれど」

「そしてもちろん違法でもありませんよね?」

「それもそうですけれど、道義的な問題を抱えています」

「しかし結果がコーカデス領の利益になるのでしたら、その点を外部から指摘される事もありませんよね?」

「コーカデス領の利益にもなりますが、それ以上にミリ商会の利益になる事に付いて、わたくしは問題視しているのです」

「ですからそれを問題としない為にも、コーカデス領からミリ商会に投資をさせて頂くのではありませんか」

「あっ・・・」

「投資対象が利益を上げるのは出資者としては求めるべき事であるのですから、コーカデス領でミリ商会が利益を上げても問題はないのです」


 ミリが思い付く方策では、確かに会計処理が複雑だし、納税時に指摘でもされたら、コーカデス領もコーカデス家もミリ商会もミリ自身も、説明させられたり修正申告させられたりで、余計な時間が掛かる可能性はある。その上今の税法上では重複して課税される様な形になるので、純利益も目減りするだろう。

 それに比較してレントの案は、対外向けと実態が合わなくはなるけれど、そこに目を瞑れば至ってシンプルになる事はミリにも分かっている。しかしミリには気持ちが悪い。


「ミリ様」

「・・・ええ」

「わたくしがミリ商会の従業員として報酬を頂いたら、納税申告を受け付ける係官も困るとは思いませんか?」

「しかしそれは、その人に取っては仕事ですので」

「そうは言っても、どこからどこまでが領主の仕事で、どこからが従業員としての仕事か切り分けるとか、その根拠を一つ一つ深掘りさせる事になりますよね?」

「それはもちろん、そうしなければなりませんから」

「その様な事、係官も望まないでしょうし、もちろんわたくしも望みません」


 そう言われてしまえばその通りなので、ミリは言葉が出なかった。


「それにミリ様?コーカデス領開発でミリ商会には資産が増えると思いますけれど、それらは皆コーカデス領内の不動産ですよね?」

「え?・・・ええ」

「そしてそれらを使ってコーカデス領の領民が働いて、コーカデス領に税を納めてくれます。それは領地開発が成功している間中続くのです。その金額に比べたら、わたくしが従業員として頂く金額など、少ないのではありませんか?」

「それは、期間にも拠るとは思いますけれど」

「そうです。成功期間が長ければ長いほど、領民の納税額は多くなりますし、仕掛けがシンプルで早く成功出来れば出来るほど、早くわたくしの報酬を上回る筈です」

「それは、分かります」

「そして領地収入が増えれば当然、コーカデス家の収入も増やす事が出来るのです」

「それは、そうですけれど」

「それなので、ミリ商会の一員としてのわたくしの労働自体も、ミリ商会への投資の一部と考えて頂いて、受け取っては頂けませんか?」


 レントの言葉にミリは、自分が納得出来る案を思い付く。


「分かりました」

「ありがとうございます、ミリ様」

「コーカデス卿の働きは受け取りますが、それには評価を付けさせて頂きます」

「え?いえ、ミリ様?それは会計処理が複雑になる話ではありませんか」

「いいえ。収益には含めませんけれど、評価に対しての対価を計算して、それを上回る利益がコーカデス家に入るまで、追跡させて頂きます」

「え?・・・結局は複雑になるのではありませんか?」

「いいえ。働きの評価だけですので、納税額を計算したりはしませんから、きちんと記録すれば複雑でも難しくもありません」

「それはそうかも知れませんけれど」

「わたくしが譲れるのはここまでです。これ以上は譲れません」


 そう言い切るミリに、レントは小さく息を吐いた。


「分かりました。それでお願いします」


 レントが軽く頭を下げると、ミリは肯いた。


「ええ。合意が出来て良かったです」


 そしてミリはレントに微笑みを向ける。


「それでは案も出揃った様ですので、開発案の着手順を決めましょうか」

「ええ、ミリ様。そうしましょう」


 そう言って肯き合うミリとレントの様子に、リートとセリは話し合いがまだまだ終わらない事を悟った。

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