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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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自立の援助策

「しかしミリ様?」

「何でしょうか?コーカデス卿?」

「他国より集めるだけでは、人手が足りないのではありませんか?」

「はい。洗い物や閉店後の掃除など、表に出ない仕事は国内の人で賄う積もりです」

「その人達を集めるあても、ミリ様にはあるのですね?」

「はい。今のコードナ侯爵領やコーハナル侯爵領などは、職を求める人が集まり過ぎていて、人が余っている状態です」

「なるほど」


 レントがすんなりと納得するので、レントの祖父母、リート・コーカデスとセリ・コーカデスは不安になる。


「あの、ミリ様?」

「何でしょうか?リート殿?」

「仕事にあぶれている人間では、能力に問題があるのではありませんか?」

「そうよね?ミリ様?大丈夫なのでしょうか?」

「ええ、リート殿、セリ殿。わたくしは大丈夫だと考えています」


 ミリは二人に微笑みを向けた。


「コードナ侯爵領やコーハナル侯爵領など、景気の良い領地は品物が不足しがちなので、物価が高くなりがちです。一方で人手が余っていると言う事は、人を安く雇えると言う事です。つまり同じ仕事をしているのに、給金は安くなっていきます。物価は上がるのに収入は下がるミスマッチが起こっていますので、職に就いていても転出を考える人は出て来ます」

「いや、ミリ様?人手が余っているのなら、領主は開墾を進める筈です」

「そうよね?ミリ様?賃金が下がっているのなら、尚更領地開発を進めるのではありませんか?」

「領地開発の余地は残っているのですが、簡単に開発出来るところは既に開発済みですので、残っているのは開発が多少難しいところになります」

「なるほど。難しいと言う事は、費用が掛かると言う事ですか」

「そう言うところしか、残っていないのですね?」

「はい。コーカデス卿が農地の再開発を行うと仰っていましたけれど、その様な再開発をしたい地域はたくさんあるのですが、やはり地権者との調整は難しいので、そうなると開発対象は限られてしまいますから」

「そうでしょうな」

「そうなのですね」

「はい」


 納得出来たリートとセリにミリは肯く。

 そしてミリはレントに顔を向けた。


「その際には、子供を一人で育てている女性を優先して、勧誘しようと思っているのです」

「え?」


 このミリの案には、レントも理由が思い付かなかった。


「それは何故ですか?」

「子供を育てながらですと、難しい仕事にはなかなか就けません。しかしこれからのコーカデス領には、直ぐに覚えられる様な仕事がたくさん生まれます。それに就いて貰おうと思うのです」

「それの対象が何故、シングルマザーなのですか?」

「その子供達が大人になれば、コーカデス領で働いてくれます。コーカデス領で生まれる子供を待つよりは、早く納税者になってくれますから」


 このミリの説明には、レントもリートもセリも驚く。


「いや、ミリ様?それなら普通に両親が揃った子供でも良いのではありませんか?」

「もちろん構いませんけれど、その様な家族は移住する事のリスクを考えて慎重になります。夫と妻の意見を合わせるのにも、時間が掛かるでしょう。しかし母子家庭は苦しい状況に置かれている場合が多く、現状維持こそがリスクになっている事があるのです。それなので、コーカデス領への移住をする決断も、して貰い易いとわたくしは考えています」


 レントもリートもセリも、そう言う事かと肯いた。


「もちろん、両親が揃っている家庭も独身者も、拒む訳ではありませんけれど、移住して貰って働いて貰うのが誰でも良い職種には、一人親を優先したいと思います」

「分かりました。わたくしもミリ様に賛成します」

「ありがとうございます。そしてその様な家族向けとして、母子寮と保育室も作りたいと思っているのです」

「それも援助の為ですか?」

「それもありますけれど、女手一つで子供を育てる事になる理由の中には、結婚に懲りている場合もあると思うのです」


 リートとセリは、まだ子供であるミリが口にした言葉に、なんとなく違和感を抱く。もしかしたらミリが結婚しないと言っているのには、バルが結婚させないと言っている以外にも、何らかの理由があるのではないかと、リートとセリは思った。

 一方でレントは、結婚に懲りていると言う事が良く分からない。


「結婚に懲りると言うのは、どう言う事ですか?」

「例えば暴力を振るう夫から逃げて来たとか、妻と子供を置いて夫がいなくなったとか」

「え?離婚とかではなく?」

「離婚の場合にも、夫の浮気が原因だったりしますので、再婚を望まない場合も多いでしょう。結婚前に子供が出来てしまって、男性が逃げてしまう場合もありますから、男性に懲りたと言った方が良いかも知れませんが、夫の両親や親族とのトラブルで別れる場合もありますので。どちらにしても、男性をあてにせずに生きたい女性はいます」

「そうなのですね」

「ええ。ですが、子供を女手一つで育てるのは大変で、子供の為に仕方なく再婚する場合もかなりあります」

「そうなのですか?」

「はい。それで女性も子供も再婚相手の男性も幸せになれるのでしたら良いのですけれど、仕方なく再婚している時点で、その可能性は下がりますから」

「それは、そうかも知れませんね」

「ええ。保育室で子供を預かれば、女性も自分達が食べて行ける分は働ける筈なのです。わたくしはその様な女性達の自立を助けたいと思っているのです」

「男が一人で子供を育てる事はないのですか?」

「あります。しかし男性の方が収入の多い仕事に就き易いのが現状ですので、住まいは自分で探してもらえば良いと思います」

「そうなのですね」

「はい。ただし、父子家庭でも母子家庭でも両親が揃っていても関係なく、保育室で子供を預かる積もりではいます」

「そうですか」

「はい」


 レントはミリが男性を切り捨てる訳ではないと分かってホッとする。

 リートとセリはミリの案に隙が見付けられない事に改めて驚いていた。

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