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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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港町の店の案

「もちろん港を作るのは石材事業を興す場合にですし、道を新たに作るのも港を作る事が前提です」


 そう言うミリにレントが肯く。


「石材をやるなら港も道もやるべきですね」

「そこは石材の販売予測をしっかりと立ててからではありますけれど」

「ですが、後回しでは効果が薄くなりますよね?」

「王都での貴族邸建設には間に合わせたいですけれど、それに遅れても港の使い途はあるかと考えています」

「それはどの様な事でしょうか?」

「港に人が集まれば、店も宿も出来ると思います」

「ええ、そうですね。それをどうするのですか?」

「他国の料理を出す店を作ろうかと考えます」

「他国の?」

「はい」

「もしかして、石材事業の船だけではなく、王都の港に来ている他国からの船も呼び寄せるのですか?」

「それも考えていますけれど、それよりも王都からの観光客を呼び寄せる事を狙っています」

「観光客ですか?」

「ええ。国ごとに店を出して、国ごとの料理を提供します。そして店員はその国の言葉だけで接客し、あたかもその国に渡航した様な体験が出来る様にします」

「その店の客として、王都から人を呼び寄せるのですか?」

「はい」


 ミリの案にレントの祖父母、リート・コーカデスとセリ・コーカデスは困惑した。その店にどれ程の客が来るのか分からない。

 しかしレントはやはり前のめりになる。


「素晴らしいですね!是非やりましょう!」

「ですから、その様な店を作るのは、港を作る事になってからですので」

「その為に港を作るのでも良いではありませんか」

「いや、待て、レント」


 リートがレントを止めた。


「その様な店に、どれだけ客が入るか、分からないではないか」

「そうよ。それにミリ様?そう言うのって、一つの国だけではきっと、人を集められませんよね?」

「そうですね」

「何カ国もの店を作るのにしても、料理人や店員も、それぞれの国から呼ぶのでしょう?」

「ええ。その積もりです」

「そんなに直ぐに、お店が始められますか?」

「人の当てはあります。それに一国だけではなく、複数の国の店を同時に開店させる方が、スムーズに進められると思ってはいます」

「え?ミリ様?それは何故ですか?」

「何カ国もの店舗が集まるのなら、それに携わる自分達は国を代表する人間だと思えると考えています」

「なるほど」

「それはありますね」


 ミリの言葉にリートとセリは肯いた。


「確かにそれなら、競うように店を成功させようとするでしょうな」

「その事が活気を産むかも知れませんね」

「ええ。わたくしもそう考えています」


 リートとセリの言葉に、今度はミリが肯いた。


「そして客を王都から運ぶのには、石材を運ぶ船を利用します」

「え?石材と一緒に運ぶのですか?」

「いいえ。コーカデスから王都に石材を運ぶと、その帰りには運ぶ荷がなくなります」

「なるほど。そこに人を乗せて来るのですか」

「はい」

「いや、しかし、帰りはどうするのですか?」

「そうよね。王都に帰るには、石材を積んだ船に乗る事になりますよね?」

「それなので、石材を積む貨物室を使って王都からコーカデス領に来るのは無料にして、コーカデス領から帰る時は有料にします」

「え?それは騙すと言う事ですか?」

「いえいえ、最初に料金は説明しておきますし、帰りは陸路を使う事を勧める積もりです」

「でもそれって、評判が悪くなるのではありませんか?」

「王都との往き来は、陸路より海路の方が早いので、海路を使う方が費用が高い事には納得して貰います」

「しかしそうすると、一度は来るかも知れませんが、二度目以降は来なくなるのではありませんか?」

「それは考えられます」

「それでは直ぐに廃れてしまうのではありませんか?」

「それですが、各店の料理に、それぞれの国で妊娠や出産に良いとされるものを用意します」

「妊娠や出産に?」

「はい。そして貴族が泊まれる宿も用意して、貴族を店の主な客にします。そこから平民にも店の利用を広めて行く予定です」

「しかし、それですと、貴族が船を使うなら、それなりの船室を用意しなければなりません」

「ええ。それは石材を運ぶ船とは別に用意します」

「それですとやはり、平民客は一度しか来ないのではありませんか?」

「多くはそうなるかも知れませんが、一生に一度だけでも行きたい港町にして、憧れて貰うのです」

「そう、ですか」

「平民は旅行をしたりするのですか?」

「滅多にありません。それなので、一生に一度のタイミングを狙って、利用を呼び掛ける積もりです」

「一生に一度?」

「平民の一生に一度とは、どの様なタイミングなのですか?」

「結婚です」

「結婚?」

「結婚ですか」

「ええ。平民は結婚をすると、普通は二三日は仕事を休みます。その期間を少し延ばして貰って、コーカデス領を訪ねて貰うのです」

「それは、可能なのでしょうか?」

「充分に需要はあると考えています」


 ミリが自信を持ってそう言い切る様子に、しかしリートもセリも納得は出来ない。

 その様子を見て、レントが口を挟んだ。


「その新婚と言うのと、妊娠に良い料理を結び付けるのですね?」


 そのレントの言葉にリートもセリも目を見開く。

 ミリは「ええ」と肯いた。


「平民も、跡継ぎ夫婦には跡取りを儲ける事が求められます。それですので本人達だけではなく、その親達からも支援を受けながら港町に泊まりに来る風潮は、作り出せると思っています」


 そう言うミリにレントは肯く。

 リートとセリは目を見開いたまま、お互いの顔を見合った。そして、これはもう、ミリとレントに任せておいた方が良いと、二人とも感じていた。

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