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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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港の開発案

「石材事業は直ぐに着手するべきですね」


 レントの言葉にミリは「ええ」と肯いた。


「もし実施する事に決定したなら、直ぐに王都に戻って手配します」

「そうして頂けると助かります」


 微笑むレントにミリは「はい」と肯く。それから小首を傾げて「いえ」と言った。


「決まったらですよね?実施する事に」

「わたくしは実施したいと思いますが、ミリ様は他にも案をお持ちですか?」


 レントに尋ねられて、ミリは「ええ」とまた肯いた。レントもミリに小さく肯き返す。


「それはどの様な案でしょうか?」

「港を作りたいと考えます」


 レントの祖父母、リート・コーカデスとセリ・コーカデスは目を見開いた。


「え?」

「港?」


 レントも目を徐々に見開くと、小さく何度も肯く。


「なるほど!石材の運搬を船で行うのですか」

「え?石材を?」

「船で?」

「はい」

「いや、ミリ様?お待ち下さい」

「その様な事が可能なのですか?石って重たいのですよ?」


 セリは切り出す前の岩をイメージしていた。リートはレンガ程度の石材をイメージしていたけれど、セリの言葉に肯く。


「運ぶにしても、その様な大きな船を用意出来るのですか?そしてその様な船に石材を積み込むのなら、港もそれなりの規模が必要になりますね?」


 リートの言葉にセリも肯いた。


「ああ、そうですよね。港も大きくしなければならないなら、かなりのお金が掛かるのではありませんか?」


 リートとセリに、ミリは首を小さく左右に振る。


「港自体はそれほど掛かりません。船も手配できるもので運べるだけの量を運びます」

「そうなのですね」


 セリは安堵したけれど、リートはそれはそれで納得出来なかった。


「いや、それでは、大した量は運べないのではありませんか?」

「街道を荷馬車で運ぶのも並行して必要だとは思いますが、小型の船でも結構な量を運べますし、石材を筏に乗せて曳航する事も考えています」

「そう、ですか」


 船での輸送に詳しくないリートは、船を相手に商売をするソウサ商会に縁のあるミリが言うのなら、これ以上強くは言えない。

 そのリートにミリは肯いた。


「はい。量は頼れないかも知れませんが、コーカデス領から王都まで、海路なら陸路の半分から三分の一の日数で運べます。たとえ少量でもこれを使えるならば、王都での在庫管理が楽になるでしょう」

「なるほど」

「そうなのですね」


 船での輸送そのものが目的ではなく、在庫管理が目的だと聞いて、リートも納得したしセリも感心する。


「はい。ただし、船や港よりも、石切り場から港まで新たに道を作りたいと思いますので、そちらの方には費用が掛かると考えています」

「え?道を作るのですか?」

「今の街道を整備するのではなく?」


 リートもセリも再び驚いた。港を作るのも安くはない筈だけれど、それより費用を掛けて新たな道を作るなど、理由が思い浮かばない。


「はい。狙い通りに、貴族邸の建築が一区切り付いた後も、王都での建物の建築が続くのなら、そちらに付いては海路輸送だけで賄いたいと考えています。船で運ぶ方が、費用を下げられる想定ですので。その為には石切り場と港を一直線で結ぶ、長く使える専用路を作った方が、最終的には経費を抑えられる計算になります」


 ミリの言う事に付いて、セリはイメージが出来なかった。話が大き過ぎるとセリは思う。リートはミリの案のイメージは出来たのだけれど、セリと同様に話が大き過ぎると思った。失敗した場合の損失がどれ程になるのかに付いては、リートもイメージが湧かない。


「想定通りにならなかった場合、港も港への道も無駄になりますけれど、ミリ様はその事業が成功すると思っているのですね?」


 リートは石材事業なら具体的に利益を計算できるし、失敗した場合の損失にも目処が付けられていた。なにせリートが領主の時に一度、石材事業は()めている。既存の事業を止めるのに当たってでも、それなりの損失が発生した。新規の事業を止めるなら、投じた資金がすべて無駄になるが、それ以外にも影響が発生する様にリートには思える。


「成功するとは思っていますが、リスクがある事は承知しています。それですので、ミリ商会で開発や整備のすべてを請け負う積もりでいます」

「その場合は石材事業の話と同じで、コーカデス領に入るのは増えた領民からの税金と、ミリ商会からの事業税だけになると言う事ですね?」

「作った道を専有させて頂けるのなら、土地の利用料を支払う事も考えています。もちろん利用料を支払えば、ミリ商会の利益はその分減りますから、事業税として納める税金も減りますけれど」


 リートもセリも、ミリの提案に不安を感じた。

 すべてのリスクをミリ商会に負わせても、コーカデス領には最低限の税収の増加が見込まれる。しかしコーカデスを侯爵に戻す事を狙うレントが、それで満足するとは思えない。

 レントがミリに全権を渡すと言った時にミリがハイリスクと言っていたのは、これらの案をミリが持っていたからではないだろうか?そしてミリには、レントがどこまでリスクを積み上げるのか、分かっているのではないだろうか?

 リートもセリもその様に考えてしまえば、レントに任せるよりもミリに全権を渡して、ミリにリスク管理をして貰った方が安全なのではないかと思える様になって来ていた。

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