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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
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謁見

 高位貴族達の活動により、法令の幾つかが変更された。

 もっとも大きな改変は受刑者の刑罰に関するもので、被害者またはその遺族が刑を選べるというものだ。

 例えば死刑の判決が下された受刑者に対し、死刑の代わりに被害者が慰謝料請求を望む事が出来る。具体的には、夫を殺されて収入の当てがなくなった妻が、加害者の死よりは子供の将来の為を望めば、金銭的な補償を得る事を選択出来る。


 そしてソウサ商会は、この補償請求のサポートを新規事業として始めた。加害者への慰謝料や賠償金の取り立てを代行するのだ。

 慈善事業ではない為、被害者やその遺族から手数料は取る。ただしサポートなので、慰謝料や賠償金の請求金額算定をフォローするし、取り立て不能に陥っても被害者への支払いは完遂する保険付きだった。



 そしてそれらの法改正後に、コードナ侯爵家とコーハナル侯爵家の連名で、コーカデス侯爵家に対してのパノからリリへ送った手紙の存在確認を国に対して要請した。パノからリリに対しての個人的な問い合わせではなく、貴族家間の係争の一端として国に届け出たのだ。

 コーカデス侯爵家はそれへの反攻の為に、バルとラーラの婚姻無効と養子縁組無効の審議を国に要請した。


 その二つを受け、関係者が国王の名で召喚された。



 謁見室の玉座の国王とその隣の宰相の前には、喚び出された者達がテーブルの左右に分かれて着席をしている。

 片側には国王に近い方から、コードナ侯爵ゴバ、コードナ侯爵夫人デドラ、ラーラ、コーハナル侯爵夫人ピナ、コーハナル侯爵ルーゾの順に並ぶ。

 もう一方には、コーカデス侯爵ガットとリリの二人が並んだ。

 国王と宰相の後には国王の侍従と議事を取る文官が控え、国王を警護する近衛兵も室内に配置されている。


 宰相が口を開いた。


「召喚していない者がこの場にいるのは何故だ」

「良い」


 宰相から侯爵達への詰問に、国王が割って入る。


「余が許可したのだ」

「陛下。勝手な事をなさっては困ります」

「この場は余の名で召集したのだ。参加者に不足があったので追加したまでだ」

「しかし発言権のない者を参加させるなど無駄です」

「病み上がりのラーラ・コードナの付き添いだ」


 ラーラの苗字にリリがピクリと反応する。皆は国王と宰相の遣り取りに注目していたので、それに気付いたのはリリを見詰めていたラーラだけだった。


「二人ともですか?」

「ああ」


 ガットが眉を(ひそ)めて発言する。


「発言権のない者の参加が無意味であると言うのは賛成ですな。しかしそれなら何故、リリが喚ばれておるのですか?」


 宰相はガットの言葉に肯き、国王に顔を向けた。


「リリ・コーカデス殿も陛下がお喚びになったのですね?」

「当事者だろう」

「当事者と言うならバル・コードナ殿もですな」


 そのガットの言葉に宰相は、今度は眉を僅かに顰めた。

 国王がガットに返す。


「バル・コードナは被害者であるとの話ではなかったか?嫌々ラーラ・コードナと結婚させられたと。バル・コードナはこの場にいる必要はないだろう」

「それならリリもです」

「発言しなくても、この場の話でどんな態度を示すか確認するだけでも意味はある。はあ。話を始める前に、いつまでこんな説明を余にさせる積もりだ?コーカデス卿?日を改めるか?」

「・・・いえ」


 ガットは会釈をして引き下がった。


「宰相も良いな?」

「はい」

「では、始めてくれ」

「畏まりました」


 訴えの内容と事実確認を行う事がこの場の目的だとして、宰相が説明をした。この場で何かの裁きを行う事はないが、訴えを取り下げるのはこの場でも構わないと宰相は告げる。


「それではまず、バル・コードナ殿とラーラ・ソウサの婚姻無効の件から」


 宰相の発言にコードナ侯爵とコーハナル侯爵は僅かに眉を顰める。

 国王は小首を傾げた。


「訴えは手紙の方が先だったのではないか?」

「婚姻無効となれば、手紙の件は確認不要になるかも知れませんので」

「ラーラ・コードナをラーラ・ソウサと呼んだのも故意か?」

「婚姻無効ならば、平民に貴族家の姓を付けて呼んだ事が問題として残ります」

「細かい事を。残るも何も、書類上は既に貴族の妻なのだろう?」

「書類上はそうですな」


 そう言うと宰相はゴバに顔を向けた。


「コードナ卿。何か言う事はあるか?」

「何も」

「では、婚姻無効を認めるのだな?」

「法に則った手続きを完了している以上、ラーラ・コードナはバル・コードナの妻であり、我がコードナ家の一員である。それだけだ」

「法の網を(くぐ)る様な真似をしておいて、何を言う」

「ほう?宰相はこの手続きが違法だと言うのか?」

「法の網を潜っていると言ったのだ」

「つまり合法だろう?」

「いや」

「では違法なのか?」

「そうではないが」

「どうした?明晰を(うた)われる宰相らしくない。ハッキリと言ったらどうだ?」

「違法に決まっているではないか」


 答え倦ねている宰相の代わりに、ガットがゴバに向けて声を上げた。


「婚約期間を省く為に、バルを一旦平民にするなど、法の悪用だ」

「バルは勘当したのだ。しかし勘当はやり過ぎたと思い復縁しようとしたら、既にラーラと結婚していた。思い合う二人を引き裂くのは忍びないから、ラーラも我が家に迎えた。もちろん喜んでな。これだけでも法的にはなんの問題もないが、言い掛かりを付けて来る家もあるかと思い、コーハナル侯爵家に後ろ盾となって貰う為に、ラーラを養女にして貰った。なにせバルもラーラも人気者だからな。余計な横槍を入れたくなるのも仕方ない。そうだろう?コーカデス卿?」


 ゴバの反論にガットが言葉を詰まらせる。宰相が口を出した。


「法的に問題がなくても常識として、してはならない事がある」

「常識に照らしても問題ない」

「前例のないその様な企て、許されると思っているのか?」

「宰相。前例がないのと常識がないのは違うぞ?」

「常識から逸脱しているから、前例もないのだ」

「これまでも貴族と平民の結婚はあった。婚姻の為に平民になったり貴族と養子縁組したりしている。既婚者を養子にする事もあった。それらも法に則った手続きをして、問題なく認められている。調べれば直ぐに分かる事だ。宰相。もちろん調べているのだろう?」


 今度は宰相が言葉を詰まらせる。代わりにガットが声を上げる。

 

「コードナ卿は思い合う二人などと言ったが、陛下も仰った通り、バルは嫌々だった筈だ」

「陛下はバルと会話をしていない。嫌々かどうか、バル本人に確認していらっしゃらない筈だ。そうですな、陛下?」

「ああ。聞いた話だけだ」

「しかし陛下。結婚の届け出の直前のバルが、かなり不機嫌だった事には証人がおります。バルやこのリリと同じクラスの生徒達です」

「ほう」

「コーカデス卿。バルが不機嫌だったとして、それがラーラとの結婚と関係があるとは証明出来ないだろう?それにバルの機嫌が悪かろうと、それだからと言って我がコードナ家の事情に口を出すのはおかしいではないか」

「貴族同士の婚姻なら国の承認が必要な事くらい、コードナ卿も知っておろう。それを受けずに結婚したから、婚姻が無効だと言っておるのだ。それにバルはリリと結婚させる約束だったではないか」

「そんな約束はない。コーカデス卿は、バルのアプローチにリリ殿が肯いたら二人の婚約を考える、と言っていただけだったであろう?私も確かにその時は、そうなったらよろしく頼むと頭を下げた。しかし肝腎のリリ殿は肯かなかったではないか。リリ殿から付き合っても良いとバルが言われたのは、ラーラとバルが交際を始めてからと聞いているぞ?」

「なに?リリから?」


 ガットは隣に座るリリを見た。リリは少し俯いたまま動かずに、ガットの声にも反応しなかった。


「そんな話は聞いておらん。何かの間違えだ」

「教室内での発言だそうだから、それこそ同級生達が証人だ」

「だがバルはコードナ家を通して謝罪すると言ったそうだぞ?自分が悪いと認めたからだろう?それを誤魔化す為にどうでも良い事にでもケチを付けようとして、パノ殿からの手紙がどうしたと言い掛かりを付けたのだろう」

「バルは、過去の清算が必要と言うならコードナ家として対応させて頂く、とリリ殿に言った筈だ。コードナ家から謝罪するなどとは言ってはおらん。なのでケチを付けるも何もない」

「いいや、ケチを付けてリリが悪い様な印象を与えようとしている。良いか?いくらリリの印象を悪くした所で、その娘の印象が良くなるわけではないぞ?」

「こちらはリリ殿の印象を悪くする意図はない。手紙については事実を確認したいだけだ」

「それならパノ殿から直接リリに尋ねさせれば良い話だ。国を通して手紙の所在確認を行うなど、リリの評判を落とそうとしているとしか考えられん」

「評判が落ちると言う事は、リリ殿はパノ殿からの手紙を持っていないのだな?」

「あ、いや、それは・・・だが、仕方ないのだ。リリ宛ての手紙を使用人が紛失しておった」

「ほう?パノ殿からの手紙を全てか?」

「いや。全てではない。一つだけだ。それにパノ殿からに限らず、他の差出人からの手紙もだ」

「それならその使用人の話を聞かせて貰おう」

「責任を取らせて既に解雇したわ。どこに行ったか知らんから、話が聞きたいなら自分達で探すんだな」

「ほう。随分と手回しの良い事だ」

「なんだと?どう言う意味だ?やはりリリに何らかの罪を着せる気なのか?リリに罪があるからバルがその娘を選んだと言う様に、話を持って行く気だな?」

「バルがラーラを選んだのは、純粋にラーラを好きだからだ」

「そんな訳があるか!」

「あるとも。バルのラーラへのプロポーズは熱烈だったぞ?」


 ラーラは少し頬を染めた。


「そんな訳がある筈ない!その娘はバル以外の男とも関係を持っていたんだぞ?!身籠もったとの話だが、本当にバルの子かどうか分からんそうじゃないか?!バルだって自分の子じゃないと思うから、結婚を嫌がったのだ!」


 場を静寂が包むが、ゴバとルーゾは拳を振るわせ、デドラとピナも併せて4人でガットを睨んだ。

 国王と宰相は少し嫌そうな表情をラーラに向ける。

 リリは少し俯いたまま変わらずに動かなかった。


 ラーラが国王に向けて声を出す。


「発言してもよろしいでしょうか?」

「良い」

「お待ち下さい、陛下。ラーラ・ソウサにはこの場での発言権はありません。今、陛下に直接声を掛けた事も大変な不敬です」


 そう言って宰相は立ち上がると、ラーラを指差して近衛兵に「捕らえよ」と命じた。


「宰相、何を言っておる」


 その国王の言葉に近衛兵達は動きを止める。


「何をも何も、爵位を持たぬ者には発言を許さないではありませんか」

「余が事前に許可をしておったのだ。いきなり口を開くと騒ぎになると思って、ラーラ・コードナは余に念を押したのであろう。ラーラ・コードナ。事前に伝えてある通り、そなたの発言は許す。いちいち確認を取らずに意見を述べよ」

「ありがとうございます」


 ラーラはそう言って、国王に会釈をした。

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