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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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石材加工案

「建材に使える形にまで、石切り場で加工をして貰おうと思うのです」

「石切り場で?」


 ミリの答えにレントは眉根を寄せる。レントの祖父母、リート・コーカデスとセリ・コーカデスも、眉間を狭めて眉尻を下げた。

 ミリはレントに「ええ」と小さく肯く。


「建材に使える様に石切り場で作れたら、石の加工が出来る人を一カ所に集めておく事で、作業効率が上がるかと思います」

「なるほど、確かに。離れた地域に分散させていたら、手が空いていても忙しいところに手伝いに行けませんね」

「はい。それに完成品を運ぶ事にすれば、移送する量も多少は減りますし」

「そうか。それもあるのですね」

「いや、お待ち下さい、ミリ様」


 レントがミリの話に前のめりになっている様に思える事は、リートにもセリにも不安を感じさせていた。それなのでブレーキを掛ける為にリートが口を挟む。


「建物の設計に拠って石材のサイズは変わります。完成品と言う事は、王都からの指示を受けながら石切り場でサイズ加工をするのですか?」

「いいえ。石材の規格を作るのです」

「規格?」

「はい。同じサイズに予め加工した物を使う様に、邸の設計をして貰うのです」

「それは、しかし、その様な事が出来るのでしょうか?」

「これから王都では建築ラッシュが起こると、わたくしは思っています」

「邸を再建する貴族が増えるからですね?」

「はい。そしてどの家も、早く邸を建てる事を望むと思います」

「まあそうですな」

「そうしますと建材の不足がおきますが、その前に、設計士の仕事が大変な事になるでしょう」

「まあ確かに。あちらこちらから引き合いを受けるでしょうな」

「はい。そして打ち合わせも増え、それは設計士から設計の為に検討する時間も奪う筈です」

「う~ん、なるほど」

「しかし貴族の邸です。皆それぞれ、他家の邸とは異なる特徴を求めるでしょう」

「それはそうでしょうな」

「はい。そうなれば、時間のない設計士は、人目に付かない、例えば壁の内側とか使用人用の領域とかには時間を掛けたくないでしょう」

「確かにそうかも知れません」

「そこで予め規格化した石材を提供する事で、設計士の検討時間を減らす事が出来るのならば、建材として採用されると睨んでいるのです」

「そう言う事ですか」


 リートはミリの説明に納得したし、ミリがそこまで考えている事に驚きもした。セリも不安を和らげる。


「コーカデスの敷地に、サンプルを建てるのもいいですね」


 レントの言葉にミリは「なるほど」と肯いた。


「使い方を見せるのですね?」

「はい。見せる事で、イメージを植え付けられるのではありませんか?」

「植え付けるは語感がよくありませんけれど、確かにイメージを持って貰えていれば、設計の検討時に利用して貰い易いでしょうね」

「はい」


 肯くレントに肯き返してから、ミリはリートに向き直る。


「そして貴族が王都に戻れば、王都に人が増えるでしょう。それに合わせて建物も色々と次々に建てられるでしょうけれど、規格化された石材を使い慣れた設計士や建築家達は、使い慣れたコーカデス領の石材を使いたいと思う筈です」


 ミリのその言葉には、言われてみれば確かにそうだと同意は出来たのだけれど、リートは驚きで即座に相槌は打てなかった。

 そのリートの様子に構わずにミリは言葉を続ける。


「コーカデス領の石材がブランド化していない事は、この為には強みになります。今既にブランド力を持つ他領の有名石材では、その石材を使う事自体がステータスになっていますので、いかに大きいまま使うかに重点がおかれますから、サイズの規格化はされないでしょう」


 確かにそうだとリートは肯いた。


「邸の外壁などは有名石材で化粧をされるかも知れませんが、その一枚内側には、規格化されたコーカデス領の石材を使って貰えると思うのです」

「棲み分け、と言う事ですな」

「はい。ライバルになるのは焼きレンガですが、そちらは増産の為には焼き窯を増やさなければなりませんから、体制が整うまでは品不足で価格が高騰する筈です」


 これもリートは何とか肯くだけで、また言葉が出なかった。


「王都近郊でのレンガ生産には限りが有りますので、遠くから運んで来たレンガなら、コーカデス領の石材も価格で対抗出来ます」

「人手は?人手はどうするのですか?」


 思い付いたリートが口を挟む。


「そもそも石工も何人集められるかは分からない。そこで需要が増えても、人手がなければ応えられないのは我が領も一緒ではありませんか」

「技術が必要なところには対応できる人を宛がいますけれど、それ以外の場所は素人でも構いません。増産が必要となれば、コーカデス領の石切り場は景気が良いと思われますし、戻る事を躊躇っていた職人も背中を押されるでしょう」

「その為には、働いている人が喜ぶ様な状況ではなければなりませんね」


 レントのその言葉に、ミリはレントに顔を向けて肯いた。


「それは大前提ですし、それは石切り場や石材販売に限りません」

「そうですね」

「あの?それはどう言う意味でしょうか?」


 ミリの言葉に素直に肯いたレントを見て、何がそうなのか分からなかったセリが尋ねる。そのセリにミリが答えた。


「領地を再興させると言う事は、簡単に言えば領民を増やすと言う事だと思います」

「はい。わたくしもそれはそう思っております」

「そしてコーカデス領から出て行った人達は、コーカデス領に悪いイメージを持っているでしょうし、それを人にも伝えると思います」

「それは、そうでしょうね」

「それなので、新しくコーカデス領に働きに来た人に、コーカデス領で働き続けたいと思って貰う事が、まずは必要なのです」

「ええ」

「人の流出をゼロに出来れば、いま以上の悪評は増えない。そして行商人達を中心に良い評判が広がれば、新たに人は集まります。その為には、辛いとか苦しいとか思いながら働く人を出さなくする必要があると、わたくしは考えます」


 セリはミリの言葉に肯けなかった。

 確かにミリの言う通りに、そうなのかも知れない。しかしそう言うミリには貴族の血が流れていない事がセリの頭に浮かび、それだからミリは平民の視点で語っているのではないかとセリには感じられていた。

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