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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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好意の在処

「わたくしはミリ様以外と交際練習をする気はありません」


 そう言うレントにミリは体を向けた。


「わたくしもコーカデス卿との交際練習にはメリットを感じています。それはわたくしにだけではなく、コーカデス卿側のメリットもです」

「もちろんです。わたくしにメリットがあればこそ、ミリ様に交際練習を申し込んだのですから」


 ミリの声が少し固いのもあって、レントの祖父母、リート・コーカデスとセリ・コーカデスには、ミリとレントの会話が単なる取り引きの様に感じる。交際練習と言う言葉の響きに含まれる甘やかな部分が、この場のミリの様子に似合わない。それだからこそ、熱を見せるレントの態度が、リートにもセリにも胡散臭く感じられた。


「あの、ミリ様?取り敢えずお座りになりませんか?」


 セリが場の空気を変える為、先程からミリも自分達も立ったままでいる事が気になっていたのもあって、ミリに着席を勧めた。


「そうですね。しかし今日はこちらで話し合いを進めるのでしょうか?資料もない様ですが?」


 応接室を選んだのはレントなので、セリはレントに顔を向ける。それにミリもリートも釣られてレントを見た。

 レントはミリが交際練習に付いての話を打ち切ったと感じた。ここで部屋を変えれば、交際練習の話が中途半端になる。そのまま済し崩しに中止にされるかも知れない。


「ミリ様に今後も変わらずに相談させて頂く事が可能なのかどうか、確認させて頂く為に、本日は先ずは応接室に案内させて頂きました。その点をうやむやにしたまま開発に付いての助言をお願いする事を避けたかったのです。ミリ様?」

「はい」

「交際練習もわたくしとして頂く事でよろしいのですよね?」

「それに付いては、わたくしの方でも両親や親族から反対の声が上がれば、交際練習は中止とさせて頂きますけれど、その認識は合っていますね?」

「それは、もちろんです」

「それなら同じく、コーカデス家の方達から反対が上がったり、わたくし自身が交際練習に価値を感じなくなれば、交際練習は終了でよろしいですね?」


 コーカデス家からの反対に付いては、自分が当主であるのだからとの理由を出して、反対の威力を引き下げようとレントはしていたのだけれど、ミリはそれを遮る為に、ミリに価値を感じられなくなれば終了とする事を後に置いた。


「それは、そうですが」

「コーカデス卿は交際練習がわたくしに価値ある経験を与えると仰いました。わたくしもそれに同意しましたからこそ、交際練習をコーカデス卿と始める事にしたのです」

「ええ」

「ですので、わたくしに取って価値がなくなったり、あるいはもっと価値のある事が別に見付かれば、コーカデス卿との交際練習は終了させて頂きますが、よろしいですよね?」

「それは、はい」

「ありがとうございます。そしてわたくしに取っての価値とは、わたくし一人に限らず、わたくしの家族やコーカデス家の方達に取っての価値も含んでのものになります」

「それは、ですが」

「自分に利があるからと、コーカデス家の方達に不満を抱かせてまで、何かを続ける気はわたくしにはありません」

「いえ、その様な事は」

「わたくしが単に、コーカデス領の領地経営の相談を受けるのと、コーカデス卿と交際練習までするのとでは、世間の受け取り方が違います。ましてやコーカデス卿がわたくしにプロポーズをするなど、正気を疑う人も出るでしょう」

「正気なんて!たとえそうだとしても、その様な事は構いません。ミリ様との交際練習もプロポーズも、わたくしに取っては必要不可欠な事なのです」

「コーカデス卿の覚悟を示す効果はあると思いますが、どう考えても失笑されます」

「失笑など、構いません。したい人にさせておけば良いのです」

「子爵への降爵と急な授爵で、正気を失っているか自棄(やけ)になっていると、コーカデス卿は評価されるでしょう。それは領地の開発の為に何かを為そうとした時に、他家との協力を妨げる事に繋がります」

「その様な事は分かっています」


 レントの返しにミリの眉尻が下がる。


「分かっているのなら何故」

「もちろんそれ以上のメリットがあるからではありませんか」

「確かにわたくしは曾祖母や養祖母達から教育を受けましたので、交際練習を通して他の御令嬢よりはコーカデス卿に影響を与えられるかも知れませんが」

「その様な事ではなく、わたくしはまず、ミリ様に好意を感じています」

「いいえ。コーカデス卿の根底にあるのは、わたくしへの嫌悪です」

「・・・え?・・・本当にそう思っていらっしゃるのですか?」

「はい」

「いや・・・何故ですか?何故そう感じるのですか?」

「何故も何も、貴族としての常識で考えれば、当然ではないですか」

「それはミリ様の出自の事を仰っているのですね?」

「もちろんです」

「確かに伯母には、ミリ様の産む子にコーカデス家を嗣がせないと言われました」

「え?レント?」

「お前!何を言ってるのだ!」


 セリが目を大きく見開き、リートがレントに手を伸ばす。


「いいえ、リート殿。構いません。コーカデス卿、続けて下さい」

「わたくしはコーカデス家を嗣ぎましたので、確かに跡取りが必要です。そして養子では駄目だとも言われました。それなので適当な女性との間に子供を作らなければなりません」

「いえ、レント」

「セリ殿、構いません。コーカデス卿、続けて下さい」

「もちろん相手には不自由のない暮らしをさせますし、わたくしの出す条件に納得して貰った上での関係にします。しかし望まぬ結婚などわたくしだけではないのですから、それはどうでも良いのです。わたくしの興味はミリ様にだけ向いています。これは恋愛などとは違うのかも知れませんが、好意から生じているのは信じて頂きたいと」

「何を根拠に信じろと言うのですか?」


 ミリに即座に切り返されて、レントは咄嗟に言葉が出なかった。

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