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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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染み出す疲れ

「疲れたな」


 寝室のソファに体を預け、レントの祖父リート・コーカデスが長く息を吐く。


「そうね」


 レントの祖母セリ・コーカデスもソファの背凭れに寄り掛かった。

 目を瞑った二人はそのまま会話もなく、しばらくの間は身動(みじろ)ぎもしなかった。

 自分自身の呼吸音しか聞こえず、隣りに座る相手の気配も感じられない状況に、疲れがじわじわと染み出して来る。


「寝ましょうか」

「そうだな」


 起こすだけで体が重い様に感じながら二人は立ち上がり、並んでベッドに入った。

 灯りを消して使用人が寝室から出て行くと、また自分の呼吸音だけが聞こえる。しかし今度は寝具の上下で相手の呼吸を感じるし、体温も伝わって来ていた。


 疲れを自覚しているが、中々眠りに入れない。

 瞑った目蓋の裏側には景色にならない模様が浮かぶし、言葉にならない程度の想念が頭と心に浮かび、それが眠気を妨げていた。

 長年連れ添って来た相手もまだ眠りに入っていない事が、寝息でもいびきでもない吐息から分かる。


「・・・起きているの?」

「・・・ああ」

「・・・疲れたわね」

「・・・疲れたな」

「私、レントの相手をするのも結構疲れるのだけれど、その比ではなかったわよね?」

「そうだな」

「相乗効果と言うか、掛け算と言うか、彼女一人を相手にするなら、これほどではないのかも」

「それは言えるな」

「お義父(とう)様がラーラの事を言っていた事、思い出したわ」

「うん?何と言っていた?」

「あくどいとか、良くは言っていなかったけれど、ラーラは手強そうな事を言ってらしたじゃない?」

「状況を利用して、父上を嵌めたとは言っていたな」

「ええ。ミリってラーラにそっくりなのでしょう?」

「見た目はそうらしいな」

「中身もそっくりなのではないかしら」

「そうかも知れないな」

「その上で、デドラ様とピナ様に教育されたのよね」

「ああ。受け答えも所作も、文句の付けようがなかったと私は思ったな」

「それは私も思ったけれど・・・」

「・・・うん?」

「ミリの父親って、どんな男なのかしらね?」

「掴まった男達の調書を読んだ事があるが、どれも小者の感じだったな。父親には似とらんのだろう」

「でも、感情的になった時に、少し本性が出ていたのではない?」

「レントを威圧していた様だな」

「ええ」

「まだ幼いのに、あの迫力はなんなのだろうな」

「そうよね」

「投資で儲けているとの話だったから、こう、節操がないと言うかなんと言うか・・・」

「節操?柔軟?」

「ああ、そうだな。柔軟な思考をするのかと思っていたが、かなり固い信念を持っている様だった」

「ええ。王都の暴動の事で、そう言う、暴力を否定する様な教育を受けたのかしら?」

「そうかも知れんな。日用品を扱うソウサ商会としては、争いなど商機を失くす面倒事でしかないだろう」

「でも・・・」

「・・・うん?」

「もしもラーラが同じ様な教育を受けたり、同じ様な考え方をしているのなら、なぜ王都の暴動は起こったのかしら?」

「さあ、分からん。あの暴動でコードナやコーハナル達が得をしたり、ソウサ商会が儲けたのは本当だが」

「暴動を起こさせれば利益になると考えた、と言う事?」

「商材を王都に運ばずに品不足を起こして、物価を釣り上げて荒稼ぎをしたのだ。安く仕入れて高く売る事を突き詰めれば、あの様な手段を取るのかも知れんが」

「でも私、今日のミリを見てデドラ様やピナ様を思い出したのだけれど、コードナ侯爵家やコーハナル侯爵家が暴動に加担したりするとは思えなくて。今更だけれど」

「・・・そうだな」

「結果だけ見れば、コードナもコーハナルもソウサ商会も得をしているけれど」

「確かにあの暴動からコードナやコーハナルの領地の繁栄まで、筋書きを描くのは難しいとは思えるが・・・」

「・・・ねえ?」

「うん?」

「その筋書き、レントやミリなら描けると思う?」

「・・・どうだろうな」

「そう?・・・私、コーカデス領の為なら、レントならやりそうに思えて」


 リートは返事の代わりに、長く息を吐いた。


「育て方・・・間違えたのかしら」

「子供なら極端に走る事はある。それを矯正するのが私達の役目だろう?」

「そうだけれど」

「今日のはミリの所為だ。ミリが対峙した事で、レントがあの立場に立たざるを得なくなったのではないか」

「でも、レントがリリと交わした覚え書きにも、領民を追い出す施策は取らないって書いてあったでしょう?」

「うん?ああ」

「つまりそう言う事をレントは考えていたから、リリが止めたのよね?」

「そうかも知れんが、それらを止めるのはまさに私達の役目の訳なのだから」

「でも・・・止めきれるの?」

「・・・本来なら、子供の思い付きに付き合いながら、常識を教えていけるのだが、レントは領主と言う権力を握ってしまったからな」

「そうなのよね」

「・・・まったく、スルトの奴は」

「・・・スルトも、可哀想ではあったけれど」

「だからと言って・・・そうだな。私も望まぬスルトに責任を負わせたし、尻拭いをさせてしまった。スルトは私の真似をレントに対して(おこな)ったに過ぎないのかも知れん」


 セリはリートも、リートの父親ガット・コーカデスから後始末を押し付けられたと思っていた。

 しかし自分も責任を全う出来ていたとは思えず、それに付いては口にする事がセリには出来なかった。

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