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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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話し合いを始めて

 ミリとレントとレントの祖父母、リート・コーカデスとセリ・コーカデスの四人での話し合いは、そのまま執務室で始まった。

 ソファ席に移り、テーブル上に資料を広げ、まだ体の小さいミリとレントはテーブルの端の資料に手を届かせる為に立ったままだ。リートとセリも立っていようとしたけれど、自分達も疲れたら座るからと言って、ミリは二人を座らせていた。


「レント殿からは、先ずは街道の整備、並行して水路の整備だと聞いています」

「はい。物流のロスをなくす事が第一かと」

「なるほど。暫時ですか?」

「はい」

「暫時?」


 セリの呟きをミリの耳が拾う。


「はい。最終的には領地全体の街道を再整備する必要がありますが、優先順位を付けて進めて行くのが良いかと、わたくしも考えます」

「ミリ様の言う通り、先に整備しなければならない水路もありますから、そちらも他の街道よりは優先した方が効率が良いとわたくしも思っていました」

「あの、教えて頂きありがとうございます。しかし、口を挟んでしまって申し訳ありません」


 セリが恐縮しながら、ミリに頭を下げる。


「いいえ、セリ殿。分からない事は積極的に尋ねて下さい。わたくしはセリ殿とリート殿と今日初めて話をしましたので、お二人が知っている事や経験をなさって来た事を知りません。御存知の事をわざわざ詳しく説明しても、説明される方は自分は知っていても他の人が知らないかも知れないと思って止められないでしょう。それなので基本は説明は最低限で進めます。しかし打ち合わせに参加して頂くからには、問題点があれば指摘や更なる改善案を出して頂かなければなりません。その為には分からない事は訊いて頂く必要がありますし、わたくしの方こそ、コーカデス領の事で教えて頂かなければならない事が多い筈です。ですからこの後も、分からない事や疑問に感じる事があれば、直ぐに指摘して下さい。わたくしもそうさせて頂きますので」

「あの、分かりました」

「そうしましたら、ミリ様?わたくしからもよろしいでしょうか?」

「はい、もちろんです。どうぞ、リート殿」

「ありがとうございます、ミリ様。ところでレント?」

「はい、お祖父様」

「優先順位はどの様に付けるのだ?」

「それは開発計画の優先順位に準じます」

「開発計画?それはどの様なものが考えられているのだ?」

「それに付いてはこれから御説明します。その中で優先順位を決めていき、そして最初に着手すべき事柄を決定する積もりです」

「なるほど、そうであるか。いや、ミリ様、先走った質問をして申し訳ない」

「いいえ、リート殿。わたくしの話の切り出し方が拙かった様です」

「あ、いや」


 リートはミリの言葉を否定しようとして、どう言えばミリは悪くないと伝わるかが即座に思い付かずに言い淀んだ。

 そのリートの言葉の続きを待たずに、レントが話を先に進める。


「ではわたくしから、今持っている開発計画案を説明させて頂きます」

「お願いします、レント殿」

「はい。これから説明させて頂くものは、直ぐに着手出来たり、完了が早いであろうものもあれば、着手の為の準備がかなり必要だったり、完成に長い期間かかるだろうものもあります。取り敢えず手持ちをすべて並べますし、皆様にも不足分、追加分、改良案などを出して頂きたいと思います」

「分かりました」

「お祖父様とお祖母様もよろしいでしょうか?」

「あ、ああ。大丈夫だ」

「ええ、分かりました。続けて下さい」


 大丈夫だ分かりましたと答えながらも、リートもセリもかなりの不安を感じていた。


「一つ目は酪農の復活です」

「畜産ではなく?」

「ええ、ミリ様。コーカデス領では畜産が途絶えました」

「そうですね」

「はい。ですので、まずは酪農から取り掛かり、そこから畜産に明るい人を集めるなり育てるなりします」

「羊ですか?」

「はい。気候的にも合う筈ですので、羊はリスクが少ないと思っています」

「そうなの?」

「はい、お祖母様」

「コーカデスでは牛や豚が飼われる以前から、山の麓を中心に羊が育てられていたからな」

「はい。お祖父様の言う通りです」

「放牧を主体とするのでしたら、必要な資材もそれほど多くはありませんね」

「はい、ミリ様」

「牛や豚は飼わないのか?」

「領民が増えて行けば昔の様に、やがては飼う人も出て来るかも知れませんが、領主としては推奨したりサポートしたりする予定はありません。領主として助成するのは羊と、その後は鶏を考えていますが、それ以外は今のところは考えていません」

「そうですね。牛も豚も集団性が羊より低いので、放し飼いするには労力が多く掛かります。そして畜舎で飼うとするのなら、鶏の畜舎よりも資材が掛かりますし、育成の為の人手も鶏よりも必要です。助成をしても効果が現れ難いでしょう」

「ええ、ミリ様。わたくしもそう思います」

「なるほど」

「そうなのね」

「そして羊乳製品は特産品として、他領にも流通させたいと思っています」

「羊乳か」

「羊乳と言うのがあるのね?」

「はい。これも牛が入って来るまでは、コーカデス領の特産品でした」

「そうらしいな。私は口にした事はないが」

「レントはどこかで食べた事があるの?」

「いいえ、残念ながら」

「他領の物でよろしければ、手に入れましょうか?」

「是非お願いしたいのですが、ミリ様は食べた事があるのですか?」

「ええ。チーズとバターでしたらあります。バターは分かりませんが、チーズなら王都に戻れば手に入れられます」

「それは是非、お願いします」

「分かりました」


 セリはコーカデス領でかつて羊の畜産が盛んだった事を知らなかったし、リートはコーカデス領のかつての特産品を口にした事がなかった。二人ともこれまでそれに付いて考えた事もなかったのに、レントは知っていたし、ミリは食べた事もあると言う。

 セリとリートは改めて、ミリに領政の手助けをして貰える事は、コーカデス領に取って良かった事なのかも知れないと思えた。少しばかりそこに、レントの筋書きを感じながらも。

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