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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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助力を乞う姿勢

「失礼させて頂きます」


 レントは席を立ち上がり、テーブルを回ってミリの隣に立つと、その場に片膝を突いて胸に片手を当てて、椅子に座ったまま少し動揺を表しているミリに、真剣な表情を向けた。


「ミリ・コードナ様」

「・・・はい」

「わたくし、コーカデス子爵レントは、ミリ・コードナ様に交際練習を申し込ませて頂きます」


 ミリは答えずに、僅かに身動ぎした。

 レントの行動がプロポーズをする様にも見えて、止めようと腰を浮かせ掛けていたバルは取り敢えず椅子に座り直したけれど、少し渋い表情になっている。ラーラは手で口元を隠しているけれど、その目は細められてはいるがレントとミリの様子を見逃さない様にと鋭い光を湛えていた。


「申し込みを受け入れて頂けますか?」


 ミリが答えないので、レントが言葉を足しながら、ミリに片手を差し出した。そのレントの手に釣られて、ミリは片手を僅かに持ち上げるけれど、下ろす前に我に返った。


「それは、コーカデス家の方達にお会いしてから答えさせて頂きます」


 ミリの硬い声での返事に、レントは僅かに首を傾げる。


「それは、受け入れて頂くのが、御両親の前ではなくなりますが、よろしいでしょうか?」


 ミリが断らないと思っているレントの発言に、ミリはカチンと来た。


「・・・構いません」


 色々と言い返そうと考えたけれど、結局ミリはそれだけを今度は冷たい声で答える。


「この後、わたくしと一緒に、コーカデス領に向かって頂けるのですよね?」

「その積もりですが、なにか?」

「交際練習を今受け入れて頂ければ、コーカデス領までの道程でも、交際練習を行う事が出来るのですが」

「コーカデス卿は領地の開発が最優先なのですよね?それでしたらわたくし達には話し合いに時間が必要な事柄が、他にも色々とあるのでは御座いませんか?」

「そうですけれど、領地開発の方針は既に以前よりミリ様に相談させて頂いております。そして具体的な話は現地に立ってさせて頂くべきかと思います。いかがですか?」

「それは、そうですけれど」

「申し訳ありません。大切な事をお願いしておりませんでした」

「大切な事とは?」

「ミリ様へのプロポーズや交際練習の事ばかりが心を占めていましたので、失念しておりました」

「そう言うのは結構ですから、大切な事とはなんでしょうか」

「ミリ様」

「はい」

「コーカデス領の再興の為に、是非ともミリ様のお力をお貸し下さい」


 レントはもう片方の膝も突き、腿に両手を当てて、深く頭を下げた。


「お願いいたします」


 ミリの回りには、領主である祖父や養伯父、商会長の祖父、跡継ぎの伯父や養従兄、護衛達、治療院の医師、助産院の助産師、船員達など、仕事に向き合っている時には真剣な人達がいる。もちろんバルもそうだし、ラーラもパノもそうだ。

 同じ様な真剣さを今までは感じた事のなかったレントから感じ、ミリは少し戸惑った。

 レントが真剣になるのは分かっている。今のレントの肩には領民達の生活が掛かっているし、領地の未来も背負っている。

 そして自分との交際練習も、レントに取っては領地の為なのだ。それは分かっていた。

 レントは少し変だけれど、その気持ちは真っ直ぐに感じる。たびたびレントの言動にムッとするけれど、その行動力は賞賛できる。レントの思い通りにしようとしているのは感じるけれど、こちらの意見も聞いてくれるし取り入れてくれる。結局はこちらを操ろうとして来るけれど、その結果、自分が大変な役割を請け負ったりしている。何を言い出すのかは分からないけれど、言っている事には同意出来たりする。


「分かりました」


 ミリはレントの情熱を利用して、自分も能力一杯協力してみる事にした。ミリはレントにその気にさせられる事にしたのだ。


 ミリが差し出した手が視界に入り、レントは顔を上げる。小首を傾げながら微笑むミリに促された気がして、レントはミリの手を取った。


「よろしいのですか?」

「ええ。わたくしに出来る事でしたら、お手伝いをさせて頂きます」

「ありがとうございます」


 レントは片膝をまた立てると、ミリの手の甲に額を付ける。ミリが驚いて肩に力を入れて、その指先がぴくりと反応した。それに気付いたレントは額を離して微笑みをミリに向ける。それがまた、レントに余裕を見せられた様で、ミリはまた少しムッとした。


「それでは交際練習に付いては今後回答を頂くとして、取り敢えずはコーカデス領までの道程では、もし交際練習を始めたらどの様に進めていくのか、始めるまでにどの様な準備をすれば良いのか、それを相談させて頂くのでもよろしいですか?」


 ミリはレントのその提案に、間髪置かずにこう言う事を言うからこちらは操られている様に感じるのよ、と不機嫌よりも呆れ多目にまず感じ、レントの目を見ながら、こう言う事を言ってしまうのはそれだけレントに余裕がないからなのかも知れないと思い至った。

 ミリは同世代の子供は、空き地のミリとしてしかほとんど知らない。大人達と同じ様な責任を背負っている子供は、ミリはレント以外に知らなかった。

 大人と同じ事を自分と変わらない歳の子供がやろうとするなら、余裕など持てはしないだろう。


 ミリは出会ってから今日まで、会う度に印象が変わっていっていたレントに対するイメージに付いて、ここでもう一度改めてみる事にした。

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