交際練習申し込みの許諾
「まず最初に、コーハナル領を訪ねて、リート・コーカデス殿とセリ・コーカデス殿に会って参ります」
ミリの言葉にラーラもバルも驚いた。
「行動するって、いきなりそこまでするの?」
「え?また行くのかい?」
「はい。わたくしは二人にお会いした事がありません。それなので今はプロポーズに賛成していたとしても、実際に会って話をしたら、意見が変わるかも知れませんから」
「いや、そうだけれど」
「でも、意見が変わらなかったらどうするの?」
「交流して行く中で、変わるかも知れませんので、レント殿?」
「はい、ミリ様」
「この先、リート・コーカデス殿とセリ・コーカデス殿とリリ殿が、レント殿からわたくしへのプロポーズに反対する事になったら、今回の話は無かった事にします。それでよろしいですよね?」
「もちろんです、ミリ様。その様な事はあり得ないとわたくしは思っておりますが、もしそうなっても、三人が再び揃って賛成になったのなら、その時にはまた、続きを再開して頂けると考えてよろしいですよね?」
「それは、そうですね。それで結構です」
「ありがとうございます」
ミリは少し顔を逸らし、笑顔を浮かべるレントから視線を外した。
「ところでバル様、ラーラ様、ミリ様。わたくしからミリ様への交際練習の申し込みは、そのサインの真偽が明らかになってからがよろしいですか?」
レントはバルに渡した、レントからミリへのプロポーズをコーカデスの人々が賛成をすると言う書状を指しながら、そう尋ねる。
「ああ、そうか。そうだな」
「いいえ」
「え?ラーラ?」
「だってバル。レント殿には前回既に、ミリに交際練習を申し込む権利を与えたじゃないの」
「いや、そうだけれど、それにはリート殿とセリ殿とリリ殿がプロポーズに賛成する必要があっただろう?」
「それはミリが言った条件じゃない。そのミリはそのサインを以て次の行動に出るのだから、もう申し込みを受けても良いでしょう?」
「いや、まあ、言われてみればそうだけれど、三人が賛成したら申し込みを受けるとはしていなかっただろう?レント殿がミリに交際練習を申し込めるだけで、ミリが受け入れるかどうかは別問題だ」
「それはそうかも知れないけれど、レント殿もその認識なの?」
「はい。わたくしもバル様と同じで、ミリ様の回答で交際練習が出来るかどうか決まると思っております」
そう言って微笑むレントの様子には余裕や自信が透けて見えて、断られないと思っていそうに思えて、ミリは少しムッとした。
レントがちらりとミリを見て、またバルとラーラに視線を戻す。
「そしてミリ様に交際練習を申し込む許可を頂きましたが、実際に申し込むに当たっては改めて、ミリ様より先にバル様とラーラ様にお伝えしておくべきだと考えています」
「それは、まあ、そうだな」
「ええ。それで?レント殿?」
「はい。バル様、ラーラ様。ミリ様に交際練習を申し込ませて頂きます。よろしいでしょうか?」
ミリより先にバルとラーラに伝えると良いながら、それをミリのいる前で行うレントに、ミリはまた少しムッとした。
「ええ、よろしいですよ」
「ラーラ」
「だってバル。レント殿はこの短い期間で王都と領地を往復して、リート・コーカデス殿とセリ・コーカデス殿を説得して来たのよ?あの日のリリ・コーカデス殿が反対していた様子から見ても、二人も相当反対したと思うわ」
「それは、まあ、そうだろうな」
「だから三人が賛成した理由の一つに、急ぎ領地開発に取り掛かる必要を感じた事があると思うの。どうですか?レント殿?」
「はい。ラーラ様の仰る通り、三人を説得する材料の主軸に、一日でも早くミリ様に御助力頂く事が領地の再興に繋がる事を置き、プロポーズへの賛成を引き出して来ました」
「ミリも少しでも急ぐべきだと思ったから、直ぐにコーカデス領に向かうって決断したのよね?」
「はい、お母様」
「だからね、バル?ここで私達がなんやかや言い始めて時間を取らせたら、レント殿の狙いを邪魔する事になるし、それは結局ミリの足を引っ張る事になるんじゃない?」
「そう、か。そう、だな」
「何事にもタイミングってあるでしょう」
「確かに。時間に余裕がないとベストのタイミングを逃して、何倍もの労力や時間が掛かる事があるな」
「ええ。その余裕を私達が奪ってはダメよね?」
「ああ。ラーラの言う通りだ。レント殿」
「はい、バル様」
「レント殿からミリへの交際練習を私も受け入れよう」
「ありがとうございます」
頭を下げるレントにバルは肯くと、顔をミリに向けた。
「ミリ」
「はい、お父様」
「レント殿と交際練習をするかしないかは、ミリが判断して決めなさい」
「・・・はい」
「コーカデス領の開発を手伝うかどうかに付いても、自分で決める事。お母様と私の事を持ち出す事なく、我が儘になって良いから、ミリに取ってのベストを求めなさい。それが結局はミリの時間を有効に使う事になると、私は思う」
「・・・はい」
「もちろん、私が手伝える事があれば手伝うし、いつでも相談に乗るからね?」
「はい。ありがとうございます」
そう言ってミリは頭を下げながら、少し寂しさを感じていた。
先日まではレントとの交際練習は反対しないと言いながらも賛成はしていない様にバルから感じていたのに、今日のバルは基本賛成になっている様にミリには思えた。そしてラーラは積極的に賛成に回っている様に思える。
これまでもバルもラーラも、ミリを結婚させないとは言っていたけれど、それ以外に付いてはミリの意見を尊重してくれていた。今回もこれまでと同じ筈なのに、何故それを寂しいと感じてしまうのか、ミリには分からなかった。




