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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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レントの再訪

 他国の医療情報の収集は人に依頼して、ミリはある程度纏めて貰ってから報告を受ける事にした。それはミリが語学教室を開く準備に力を注ぐ為だった。

 他国の言葉を習いたい人はそれなりにいる為、語学教室の需要はある。ソウサ商会が行っている人材育成のノウハウを流用する事で、授業マニュアルや教材の初版は出来上がりつつある。場所の確保も伝手を頼れば容易だ。

 それなので、あと必要なのは教師だった。


 ミリは幾つもの国の言葉を使う事が出来るし、それぞれの国の文化や風習も学んでいる。それなのでミリは教師にはお誂え向きなのだけれど、ミリは自分では教師をする積もりはない。

 ラーラもパノもミリと同程度には出来る。そもそもミリは、養祖母ピナ・コーハナルに他国の事情を習い、ラーラとパノと一緒に文化や風習や語学に付いての知識の肉付けを行っていったのだ。ラーラもパノも、教師としての不足はない。

 しかしミリもラーラもパノも、他にもやる事がある。ラーラの今の本業は投資家だし、ミリも投資をしている上に、治療院と助産院の手伝いもしている。最近は領政への助言を求められる事も増えて来ている。パノも医学留学に向けて準備をしている。医師学校の受験に向けた勉強も始めたし、ミリと同様に治療院の手伝いも始めた。

 三人ともそれぞれに忙しいけれど、それらの用事が無かったとしても、語学教室の教師には自分達ではなくて人を雇って充てただろう。

 その代わりに三人が(おこな)っているのは採用面接だ。ソウサ商会を通して募集した教師希望者の面接を行っている。面接に三人が揃う事は少なかったけれど、必ず二人にはなる様にしている。その内の一人は当然、語学教室の事業主であるミリだ。


 その日もラーラとミリは、ソウサ商会の一室を借りて、教師希望者の面接をしていた。

 面接が終わって希望者を帰し、ラーラとミリで評価を話し合っていると、ソウサ商会の従業員が声を掛けて来た。


「え?コーカデス家の使者が?」

「わざわざミリを尋ねてソウサ家に来たの?」

「お母様、出て来ますね?」

「私も立ち会うわ」


 そうして二人で向かおうとすると、応接室に通したりしておらず、使者は玄関の外で待っていると言う。案内しようとしたら、外で待つと使者に固辞されたと言う。

 不思議に思いながら玄関を出ると、そこにはレントの姿があった。


「え?レント殿?」

「どうなさったのですか?」

「ラーラ様、ミリ様。ご無沙汰しております」

「ええ、お久しぶりです」

「レント殿?お母様?まだ、久し振りと言うほど日にちが経ってはおりません」

「それもそうね」

「どうなさったのですか?レント殿?本日はどの様な御用件なのでしょう?」

「これを少しでも早くミリ様に届けたくて、ソウサ商会にまでお邪魔してしまいました」


 そう言ってレントがミリに差し出した紙には、レントからミリへのプロポーズに賛成する事に付いて、レントの祖母セリ・コーカデスと祖父リート・コーカデスと叔母リリ・コーカデスの三人のサインが記されていた。


「え?・・・本当に?」

「レント殿?本当に御家族が、ミリへのプロポーズに賛成なさったの?」

「はい」

「お母様。ここで話すのはよろしくありません」

「そうね。レント殿、どうぞこちらへ。中で話しましょう」

「いいえ。ご覧の通り、わたくしは旅装のままです。汚れさえ落としておりません。しかしこの先の事に付いて、話し合う為のお時間を頂きたくて、お仕事の邪魔になる事を承知で、ソウサ商会に出向かせて頂きました」

「この場所は家人に聞いたのですか?」

「はい。先にコードナ邸を訪ねさせて頂き、お二人がこちらにいらっしゃる事を教えて頂きました。それでなのですが、ラーラ様、ミリ様」

「ええ」

「はい」

「話し合いの為のお時間を頂きたいのですが、それはよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろんです。良いわよね?」

「はい」

「ありがとうございます。その話し合いの日時を決める為に、コードナ邸を訪ねさせて頂きたいのですが、いつならよろしいでしょうか?」

「え?・・・日時を決める為に訪ねていらっしゃる日時?」

「話し合い自体、今日の夕方、お父様が帰って来てからなら構いませんよね?お母様?」

「そうね」

「バル様の御都合を伺わなくてもよろしいのでしょうか?」

「はい。緊急事態が起こらない限り、父の帰宅時間は変わりませんし、緊急事態が発生したのなら、日時をお約束していても変更させて頂く事になりますので」

「そうね。レント殿が構わないのでしたら今日の夕方、夕食に招待致しますけれど、いかがかしら?」

「ありがとうございます。それでは夕方、コードナ邸を訪ねさせて頂きます」

「ええ。お越し下さい」

「お待ちしております」

「はい。よろしくお願いいたします」


 ラーラとミリがする会釈に、レントは深く頭を下げた。



 約束の時間にコードナ邸を訪ねると、バルとラーラとミリの三人が玄関でレントを出迎えてくれた。ミリは微笑みを作り、ラーラは笑みを零し、バルは困った様な表情を滲ませている。


 食事が済んで、話し合いの為に場所を応接室に移した。


「本当に、リート殿とセリ殿が、賛成を?」

「はい、バル様」


 眉間を寄せたバルの問いに、レントは強く肯いた。


「リリ殿もなのですか?リリ殿はあの時、反対していましたよね?」

「はい、ミリ様。叔母も賛成しました」


 レントの答えにミリの眉間も寄る。


「ですがレント殿?」

「はい、ミリ様」

「リリ殿は交際練習自体も、反対なさっていましたよね?」

「そうですね。あの場でも反対を口にしておりました」

「その交際練習自体も、リリ殿は賛成したのですね?」

「はい。もちろんです。もちろんですが、ミリ様?何か懸念がございますか?」

「懸念と言う程ではありませんが」

「レント殿?」

「はい、バル様」

「こちらのサインに付いてだが、リート殿とセリ殿の手によるものか、確認したい」

「はい」

「この書状を預かっても良いだろうか?二人のサインを知っているものに、文面も見せる事になるが」

「はい、構いません。お預け致します」

「ありがとう」

「あの、お父様?もしかして王宮に依頼するのですか?」


 大袈裟な事になりそうで、ミリは心配になった。


「いや。コードナのお祖父様とお祖母様なら、リート殿とセリ殿の筆跡を覚えていると思う」

「それならコーハナルのナンテ養姉(ねえ)様の方が、コーカデスの方との交流が深かった筈よ」


 口を挟んだラーラの言葉に、ミリが「そうですね」と肯く。レントも「そうだな」と肯いた。


「ですがお父様、お母様。わたくしはこれが正しいものとして、行動に移したいと思います」

「行動?」

「行動ってミリ?何を始める積もりなんだい?」


 そのミリの言葉に、行動が何を指すのか、どこまでを指すのか分からずに、ラーラは少し首を傾げ、バルは結構慌てた。

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