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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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不安と心配

「叔母上はやはり、わたくしを足留めしたいのではありませんか?」


 そのレントの問いに、レントの叔母リリ・コーカデスは「違います!」と、首を大きく左右に振る。


「当主様の身が心配だからに、決まっているではありませんか?」

「それは、ありがとうございます」


 レントは微笑みを作ってリリに向けるけれど、その目は笑ってはおらず、リリの様子を探っていた。


「しかし叔母上。わたくしは暗くなる前に野営地に着かねばなりません」

「でも」


 リリの言葉を切る様に、レントは続ける。


「こうやっている間にも、ミリ様が他の家から縁談や交際練習を申し込まれていないかと、わたくしは心配で心配で堪らないのです」

「そんな、当主様。ミリ様にまともな縁談など」

「ええ。まともではない縁談しか来ないでしょう」


 リリの言葉に反発を感じてさえぎる様に声を出しながらも、レントは小さく肯いた。それに対してリリは首を左右に振る。


「いいえ、違います。そもそも縁談なんて、バル様もミリ様を結婚させないと言っているではありませんか?」

「たとえそうだとしても、わたくしの不安は消えません」

「え?不安?」


 レントが不安を持つ事など、リリにはしっくりと来ない。


「わたくしは先日のミリ様達との会話の中で、ミリ様との交際練習から始まるコーカデス領の再興の流れを思い付いてから、不安で、夜もあまり眠れていないのです」

「え?不安なんて、どうしてですか?」


 レントはたとえ上手く出来ない事があっても、負の感情を表に見せる事はなかった。リリが教えていたダンスで上手くリズムに乗れなくても、レントは諦める事なく繰り返し練習を続けていた。

 そのレントが不安で眠れないと言う状況が、リリには想像する事が上手く出来なかった。


「ですからこうしている間にも、わたくしと同じ事を狙う家がミリ様に縁談を申し込んで、それをミリ様とバル様とラーラ様が受け入れてしまうのではないかと考えてしまうからです」

「え?その様な事」


 レントの言う事が、リリには無駄な心配に思える。


「ですのでわたくしは一日も早く、出来れば他家からのミリ様に接触がある前に、ミリ様にコーカデス領の開発を援助する事に対しての了承を頂きたいのです」

「ですが、それでは」

「叔母上はこれらの話を分かった上で、わたくしに対しての反対や、この場での足留めをなさっているのですか?」

「違います!」

「そうすると、知らずになさっているのですね?」

「そんな」


 レントに心外な事を言われ、リリは感情の波に声が震えそうになるのを押さえようとした。


「わたくしは当主様が心配だから」

「叔母上の心配を解消したいとは思いますが、今のわたくしにはそれほどまでの時間がありません」

「当主様」


 レントの言葉や口調や表情の僅かな歪みに、リリはレントから拒絶をされている様に感じてしまう。


「明るい内に着ける様にこの場を発ち、野営地に向かいます」

「あ、それなら、今からみんなで野営地に向かうのはどうですか?」


 リリはレントに歩み寄った積もりで、そう提案した。


「叔母上」

「そうすれば一晩、当主様とお話が出来ますよね?」

「叔母上も叔母上の護衛達も、野営の準備がないのではありませんか?」

「準備なら、当主様を残して先程出発した護衛がするのではありませんか?」


 僅かに首を傾げてそう尋ねるリリに、レントは「いいえ」と首を左右に振る。


「わたくし達は三人分の野営しか用意をしておりません。今から馬車で向かったら、野営地に着くのは夜です。それから追加で薪を集めたり、この人数分の食事を用意したりする事など、不可能です」


 野営が不可能だと言われて、リリは少しムッとしてしまった。だから最初から言っているのに。


「それならやはり、当主様も一緒に宿に」

「叔母上」


 レントが声を強めてリリの言葉を遮る。


「叔母上に止められても、時間切れになればわたくしは、野営地に向かいます。そうでなければ危険ですし、王都に着くのが遅れるからです」

「ですから」

「いいえ」


 今度は声を低くした。


「ですからわたくしがこの場で叔母上とお話するのには、時間に制限があります。叔母上?このまま時間まで野営地に向かう向かわないの言い合いを続けますか?それとも叔母上がお訊きになりたい事をわたくしが答えますか?」


 リリは黙ってしまう。

 このまま時間までリリは無言かも知れないと、レントは覚悟をした。



 しかし、しばらく待っても本当にリリが口を開かないので、レントは少し話題を変える事にする。


「わたくしはあれから、叔母上に取って最も大切なものは何か、考えていました」


 それはまさにレントに会う直前にも、リリが考えていた事柄だ。


「わたくしに取って最も大切なのは、当主様と両親です。仕えてくれている使用人達も大切ですし、もちろん領地も大切に思っています」


 リリにとって大切なものはそれほど多くはなかった。それなのでどれも最も大切と言っても良い気が、リリはして来ている。


「わたくしも、叔母上とお祖父様、お祖母様がわたくしを大切にして下さっている事は知っています。もちろんわたくしに取っても皆様は大切ですし、叔母上とお祖父様、お祖母様が大切になさっているからこそ、わたくしもコーカデス領を大切に思うのです」

「当主様がそう思って下さっているとは思っていましたけれど、当主様の口からそう聞く事が出来て、わたくしも安心です」


 微笑みを向けたリリにレントも微笑みを返した。そしてその表情のまま、レントは話を続ける。


「しかし、叔母上にはもっと大切な事があるのではありませんか?」


 そう言われた途端に、リリの顔が曇った。

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