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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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行き会う

 王都からコーカデス領に向かう馬車の中。

 レントの叔母リリ・コーカデスは窓から外を眺めながら、考えに耽っていた。

 あれからずっと気が付くとリリは、自分に取って一番大切なものは何かを考えている。領地に戻ったら色々とやる事がある筈で、それを考えている積もりがいつの間にか、リリは自分の一番を考えてしまっていた。


 自分に大切なものなら分かる。

 コーカデス領もコーカデス家も大切だし、両親もレントもコーカデス家に勤める使用人達も大切だ。

 しかし一番と言われたら、何が一番大切なのだろう?


 リリは手元に視線を移した。手にはミリから貰ったミニチュアの花瓶を持っている。


「これが他より大切とは思えないけれど、でも壊れない様に守ってしまう」


 リリはミニチュア花瓶を両手で包んだ。


 大切なものにはなくなったり壊れたりして欲しくない。

 一番失いたくないものってなんだろう?それが一番大切なものなのだろうか?


 リリは視線を窓の外に戻し、大切に思えるものを一つ一つ思い浮かべる。

 そしてその数が少し少ない様に思えて、リリは目を閉じながら苦笑した。



 馬車が急に停車する。

 何かあったのかと窓の外を確認しようとすると、馬車の扉がノックされた。

 馬車の扉の前にはレントが立っていた。


「叔母上」

「当主様?どうしました?」

「これをお祖母様から預かって参りました」

「え?お祖母様?」


 レントの言葉が理解できなかったけれど、リリは差し出された封筒を無意識に受け取った。


「この場でお読み頂けますか?」

「え?あの、当主様?お祖母様から預かって来たと言うのは、どう言う事ですか?」

「え?どう言うもこう言うも、その手紙を叔母上に渡す様にと、お祖母様に命じられて運んで来たのですけれど?」

「え?当主様?」

「はい、叔母上」

「お祖母様と途中で会ったのではありませんよね?」

「途中で?」

「もしかしてもう、領地に戻られたのですか?」

「はい。戻って折り返して来ました」

「いえ、だって、そんなに早く領地に着くはずはありませんでしょう?」

「叔母上。わたくしは先を急いでおります。申し訳ありませんがまずは、お祖母様からの手紙をお読み下さい。お祖母様には叔母上が手紙を読んでから、手紙の内容に対しての叔母上の意思を確認した上で、王都に向かう様にと命じられているのです」

「え?王都に向かうのですか?」

「はい。ミリ様のところへ」

「それにわたくしの意思ですか?」

「はい」

「何についてのですか?」

「手紙の内容に付いては存じません。手紙を渡されて直ぐに邸を発ちましたので、細かい話はお祖母様からは伺ってはおりません。叔母上。わたくしは先を急ぎますのでどうか、お祖母様からの手紙をまずはお読み下さい・・・あの、叔母上?わたくしが封を開けましょうか?」

「あ、いいえ、自分でやります」


 リリは状況が分からなかったけれど、レントの表情からレントが真剣なのは汲み取れたので、取り敢えず手紙を読む事にした。


 そのレントの祖母セリ・コーカデスからの手紙には、リリがレントの領政を邪魔している事に対しての非難と、レントに協力する様にとの命令が書かれていた。


「何よこれ」


 その呟きをレントが拾う。


「今のが叔母上の意思でよろしいですね?」

「え?待って!」

「待てません。領地の為には急いで王都に戻り、ミリ様を説得しなくてはならないのです。叔母上。今のが叔母上の意思でよろしいですよね?」

「いえ、待って下さい当主様。この手紙にはお祖母様が当主様からミリ様へのプロポーズに賛成したとあるのですが」

「はい」

「・・・はい?」

「お祖母様だけではなく、お祖父様も賛成して下さいました」

「え?お父様も?」

「はい」

「・・・一体どの様な説得を当主様はなさったのですか?」

「叔母上。わたくしはお祖母様からその手紙を読んだ叔母上の意思を確認しろと命じられました」

「え?・・・はい」

「わたくしは領地の為に先を急いでいるのだと、叔母上にお伝えしました」

「・・・はい」

「急ぐわたくしを足留めする事が叔母上の意思だと言う事ですね?」

「え?違います!そうではありません!」

「ではわたくしに何を待てと仰るのですか?」

「何をって」

「わたくしは叔母上の望む通り、ミリ様にはプロポーズをしません。ミリ様への交際練習も申し込みません。ミリ様以外のどこかの誰かにコーカデス家の跡継ぎを産んでもらいます。コードナ侯爵家とコーハナル侯爵家との仲を良好なままに保ちます。領民を追い出す為の施策も実施しません。それらの叔母上からの御命令を(たが)える積もりはありません」

「命令だなんて」

「それなのに叔母上はこの上、わたくしに何を求めていらっしゃるのですか?」

「え?」

「叔母上がわたくしにひたすら隠す、叔母上の一番大切なものとはなんなのですか?」

「え?・・・わたくしはただ・・・」

「ただ?」

「・・・わたくしは、ただ・・・」

「叔母上」

「え?・・・ええ」

「もしかして、叔母上が望むのは、コーカデス家の没落ですか?」

「・・・え?」

「それともコーカデス領の消滅ですか?」

「そんな、そんな訳がある筈ないではありませんか!」

「では今こうやって、わたくしを足留めする理由はなんですか?」

「いえ、足留めなんて」

「叔母上はこれがコーカデス領の為になると思ってやっているのだと思っていらっしゃると言う事なのですか?」

「・・・そんな・・・」

「叔母上」

「・・・ええ」

「わたくしが間違えているのでしたら、それを指摘して下さい」

「・・・当主様が間違えているなんて・・・」

「わたくしが間違えているなんて?なんですか?」

「当主様が間違えているなどとは、思ってはおりませんが・・・」

「思ってはいらっしゃらないけれど、なんですか?」


 リリは言葉を返せなかった。

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