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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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留学案件の出出し

 ミリは毎日、港町に通った。

 そこにいる大勢の人達から、他国での医療事情と医師に関する情報を訊いて回って集めてゆく。

 それらに付いて情報提供できる人は少ないし、集めた話はどれも噂程度のものだった。けれど同じ情報でも何人もから集める事で、情報の確度が上がるとミリは考えていた。

 日中に集めた情報は、夕方にコーハナル侯爵邸に持ち帰って整理する。


 夕食後、ミリは今日集めた情報をパノに共有した。


「今日は主にこの国とこの国の人達に訊いたのですけれど、新しい情報は特にない、と言う状況です」

「ご苦労さま」

「いいえ」

「やはり医療を学べる学校の情報より、女性の医師に付いての情報を集めた方が良いのかしら」

「そうですね。ただ船員にしろ乗客にしろ、港町にいる渡航者には女性が少ないので」

「そうか。そうよね」

「はい。他国から来た女性がお店で働いていたりしていますけれど、夕方から夜中しかお店が開いてないところが多いので、そちらからはなかなか話が集められません」

「ううん。構わないわ」

「パノ姉様の方はいかがでした?」

「今日も王宮で話を聞けたけれど、どの国の資料にもそれらしい情報がないわ」

「そうでしたか」

「ええ。考えてみたら、私達みたいな事を考える人でなければ、その国の医療の情報が必要にならないものね」

「そうですよね。もし私がよその国にいたとして、この国に女性の医師がいるのかとか、この国で医師になるにはどうしたら良いのかとか、調べようがないと思います」

「そうよね。私達は治療院に伝手があったり、ミリが実際に働いていたりするから情報が手に入るけれど、普通はそうではないものね」

「平民の場合は、家族が病気になったり怪我をしたりしなければ、治療院の場所さえ知らないかも知れません」

「それもそうよね」


 二人の会話はそこで一旦途切れた。


 ミリはパノの留学を助ける為に情報を集めていたけれど、自分の医学留学事業の為でもあった。

 やはり現地に赴いて情報を集める方が確実だろうし、そうする方が早いのだろうけれど、問題はその現地と言うのにどの国を選べば良いのかさえ決めかねている事だ。


「やはり外交を通して、調べて頂きましょうか」


 パノの案にミリは虚ろに「そうですね」と答えた。


 何か案がないだろうか?

 医療に限らず、他の国の状況を調べたい事はあるはず。


「パノ姉様?」

「なあに?」

「パノ姉様は最初は遊学する積もりだったのですよね?」

「ええ」

「いきなり留学ではなくて、いくつかの国を旅してみたり、ある程度その国で暮らしてみてから、留学先を決めた方が良いかも知れませんね」

「そうよね。今の情報の集まり具合だと、外交を通してもどの様な情報を手に入れられるか分からないものね」

「そうですよね」


 知りたい情報は、結局自分で出向いて調べるしかないのだろうか?

 有効な方策が思いつかない事が、ミリには悔しかった。



「ミリの事業の方はどうなの?」

「留学先が決められない内には、出来る事はあまりありませんが、伯父のヤールに調べて貰った限りでは、医師になる事に興味を示す女性はそれなりにいるそうです」

「そうなのね」

「はい。身内や親しい人が、医者に掛からずに亡くなっていたりする人も、結構いる様です」

「そうなのね。でも、そう言う人が医師になったとしても、治療費が高くなれば、やはり治療院に来られない人も出るわよね」

「そうですね。新たに救える命は増えるとは思いますけれど、救えない命の方にどうしても目が行ってしまうかも知れません」

「だからと言って、誰か一人をただで治せば、自分もただにしろと言う人が出るでしょうし」

「ええ」

「難しい問題よね」

「ですけれどパノ姉様?それは実際に医師を送り出せてからの問題です。解決策を考える時間はまだあります」

「そうか。そうよね」

「それより手前に問題がありますから」

「どうやったら女性が医師になれるか、ね」

「それもそうなのですが、興味を持つ人も必ずしも留学に送り出せるとも限らないのも問題です」

「学力的な事ね?」

「はい。それもあります。まずは言葉を覚えて貰わなければなりませんし、専門の勉強もして貰わなければなりません。その間の学習に掛かる費用もどうやって回収するかの問題もあります」

「難しいわね」

「女性が医師になれば確実に利益が得られる事は、これまでにも多くの人が気付いたと思いますけれど、実現させていないのはこれらの問題を解決出来なかったからなのでしょうね」

「そうなのね。それで?ミリには解決の目処が立っているの?」

「今はまずは、語学教室を作ろうかと思っています」

「そこから?」

「はい」

「その語学教室の運営費はどうするの?医師になりたい女性達からの授業料で賄える計算?」

「いいえ。語学教室の最初のターゲットは、船員に興味を持つ女性です」

「船員に興味を?そう言う女性がいるの?」

「一定数はいます。平民の話になりますけれど、船員と結婚して移住する話は実際にありますし、その事に憧れる女性もそれなりにいます」

「そうなの?その女性達に語学を教えて、出会いの場も設けるの?」

「それ、良いですね。この国の女性と仲良くなりたい船員も多いですから、出会いの場は利益が得られそうです」

「儲かるのは良いけれど、公序良俗的には大丈夫?女性を泣かせて船員達は逃げちゃったりしない?」

「考えます。ひとまずは語学教室で合格した生徒には、港町での仕事を紹介する積もりでした」

「それなら良いかもね。女性が泣く事にならないかは、やはり気になるけれど」

「それに付いても検討してみます」


 最近のミリには、調べたり検討したりする必要がある案件が、毎日の様に増えていっていた。

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