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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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報酬と名誉

「その偽装婚約に付いては、まだバル様には提案していません」


 レントの言葉にレントの祖父リート・コーカデスと祖母セリ・コーカデスは少し安心をする。既に何らかの約束をバルと交わしているのではないかと考えていたからだ。

 しかしその安心は少し早かった。


「その代わり、と言っては何ですが、バル様とラーラ様にはミリ様に交際練習を申し込む許可を頂きました」

「え?交際練習?」

「申し込む許可?」


 リートとセリは再び戸惑う。


「ミリ様の出した条件をクリア出来れば、わたくしはミリ様に交際練習を申し込めるのです」

「ミリとの交際練習なんて」

「レントは申し込む気なのか?」

「はい。ですがその状況に出来たのなら、ミリ様への交際練習の話とは別に、バル様には偽装婚約を提案しようと思っているのです」

「いや、待て。交際練習をしている余裕など、レントにはあるのか?」

「そうよ。レントはここで領政を行わなければならないでしょう?」

「それに付いてはお祖父様とお祖母様と叔母上に、御協力頂きたいと考えています」

「協力って?」

「何をするのだ?」

「わたくしは交際練習云々がなくても、領地と王都を往復する事になります」

「そうだな」

「それで?」

「わたくしが不在の際には、叔母上には領主代行、お祖母様には当主代行をお願いしたいと思います。そしてお祖父様にはお祖母様と叔母上にわたくしも含めた三人のサポートをお願いしたいのです」

「当主代行って、つまりは家の事をやれば良いのね?」

「はい。普段お祖母様が気遣って下さっている事に、しっかりと役職での後ろ盾をしたいと思っているのです」

「そう」

「お祖父様も、わたくしが改めてお願いせずとも、色々と心配りをして下さるとは思いますが、それを明文化させて頂こうと思います」

「ああ、それは構わないが」

「ありがとうございます」


 レントの笑顔にリートもセリも戸惑う。


「それは良いのだが、つまりはこれまでと変わらないと言う事ではないのか?」

「私達に役職を付けたところで、レントの負荷が軽くなる訳ではないではないの」

「それに交際練習に時間を掛けたら、領政に時間が取れなくなる」

「レントの言うその交際練習と言うのも、偽装と言う事なの?」

「いいえ。まず交際練習の目的は、ミリ様の時間を頂く事です」

「ミリの時間を?」

「貰ってどうするの?」

「コーカデス領の領政を手伝って頂きます」

「それは、でも、それが偽装婚約の目的なのでしょう?」

「そうだな。それとは別に交際練習をするのか?」

「ミリ様の側から話しますと、ミリ様に領政を手伝って頂く報酬は、領政を手伝って頂く事そのものなのです」

「え?待って?」

「どう言う意味だ?」

「ミリ様は領政に興味を持っています。今もコードナ侯爵家とコーハナル侯爵家の領政にアドバイスをしているのは、頼まれたと言う事もありますが、そもそもミリ様が領政に強い関心を持っているからなのです」

「そうなの?」

「はい。それですので、コーカデス領の領政の手伝いをお願いすれば、ミリ様は率先して手を貸して下さるとわたくしは思っています」

「しかし、ミリが喜んで手伝ったとしても、無報酬と言う訳にもいくまい」

「はい。ですので投資もして頂いて、利益も上げて頂こうと思います」

「いや、それは投資に対しての利益であって、領政に対しての報酬にはならないぞ?」

「ただ働きさせたりしたら、何を言われるか分からないわよ?」

「ミリ様への一番の報酬は、コーカデス領を再興した事に対しての名誉となります。コーカデス領を回復させたとなれば、ミリ様の手腕は更に高く評価される事でしょう。その為には国内でもっとも凋落の激しいコーカデス領以上に、ミリ様の活躍の舞台に相応しい領地はありません」


 リートもセリもその通りだろうとは思ったけれど、それはつまり現状のコーカデス領が酷い事を国内に知らせる事になるので、素直に肯く事は出来なかった。


「しかし、それではレントの手柄も、ミリに譲る事になるのではないのか?」

「そうよ。ミリに手伝わせると言っても、ミリが行おうとする事をレントが採択するのでしょう?」

「わたくしの手柄や名誉など、コーカデス領が再興出来る事に比べたら、不要ではありませんか」


 リートとセリには、その様には割り切れなかった。

 自分達の孫がこれからどれ程の苦労をするか分からない。少なくともコーカデス領を侯爵領に戻す為の方策が思いつかないリートとセリには、その苦労も想像が付かない。

 その苦労の先に得られる筈の名誉をレントはミリに譲ると言うのだ。


「それがミリの出した条件なの?」

「それが?どれがですか?」

「手柄も名誉もミリのものにすると言うのがよ」

「いいえ。先程も言いました様に、ミリ様自身への報酬はミリ様に領政をお手伝い頂く事自体です。ミリ様はあまり、名誉などを望む方ではありません」

「え?一番の報酬と言わなかった?」

「ミリ様をただ働きだと評する人に見せる為の、一番の報酬ですね。名誉を全てミリ様に押し付ける事で、文句を言えなくします」


 貴族に取っては名誉は大切なものなのに、ミリがそれを望まないのはやはり血の所為なのか、とリートもセリも思った。

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