説得に向けた流れと自信
レントの祖父リート・コーカデスと祖母セリ・コーカデスは、レントの言葉を肯定してしまった事に、お互いの顔を見合わせる。二人とも困惑を表情に現していた。
その様子を見てレントは二人に対してもう一段強く、ミリに付いてのアピールを行う事にする。二人が反発するのではなく、戸惑っている今が畳み込みのチャンスだとレントは考えていた。
「その上でミリ様は、各地の領主や財務担当官からの質疑にもしっかりと応えました。コードナ侯爵領やコーハナル侯爵領で実践している施策に付いてのアドバイスをしている事も公表されています」
「そうなのか?」
「アドバイスなんて、その様な事が本当にミリに出来るの?」
「はい。その為、密造などに絡んで納税の修正申告が必要だった貴族家からも、乞われて修正申告についての助言を行っていたそうです」
「でも、まだ子供よね?」
「レントと変わらんのだろう?」
「はい。学年で言いますと、私より一つ下に当たります」
リートとセリがまた顔を見合わす。お互いの表情を確認して共感を深めながら、二人はレントに顔を向け直した。
「修正申告って、普通より難しいのではないの?」
「適切な助言など、出来るものなのか?」
「はい。ミリ様なら可能でしょう。手紙を通してでのミリ様との交流でも、ミリ様なら問題なくアドバイスを与えられるだろうとの印象をわたくしは持っています」
「でも、ミリに助言を貰ったのは、コードナ侯爵家やコーハナル侯爵家と所縁のある領地なのでしょう?」
「いいえ。ラーラ様を貴族として認めないと、過去にはしていた貴族家も含まれていた様です」
「なに?」
リートもセリも目を見開く。
「そうなの?」
「はい。もっとも、かなり以前から表面上は、コードナ侯爵家ともコーハナル侯爵家とも和解していた家ですけれど」
「その様な家が相手でも、ミリは助言をしたのか」
「はい」
リートの眉間には深い皺が生じていた。セリも同じ様に眉間に皺を寄せながら、目を細めて小首を傾げる。
「公爵三家はどうなの?」
「公爵三家もその配下の貴族家も、修正申告の対象にはなっていませんでしたけれど」
「そうなのか」
「はい。しかし公爵三家も表面上は、コードナ侯爵家ともコーハナル侯爵家とも対立してはいません」
「それは我が家もでしょう?」
「スルトが和解したからな」
リートの言葉にセリは傾げていた首を戻し、小さく数度肯いた。レントも肯いて返す。
「はい。ですが王太子殿下だけではなく、国王陛下も王妃陛下もミリ様を気に入っているとの話もあります」
「え?」
「なに?」
再びセリとリートが目を見開いた。
「両陛下がか?」
「本当なの?」
「はい。その様な話があるのは本当です。ですので公爵三家も、少なくとも王妃陛下の御実家のコウグ公爵家は、ミリ様への対応を変える可能性がとても高いと、わたくしは考えています」
「あのコウグ公爵家は、ラーラ排斥の急先鋒だったのだぞ?」
「そうよ。前宰相の実家ですもの。前宰相の怪我も引退も亡くなったのも、全てラーラの所為だって言っていたのに」
「ああ。賠償金の請求もしていたよな?」
「ええ」
「コウグ公爵家も代替わりをしました。過去の柵みが家に取っての利にならないとあれば、方針を変えてもおかしくはありません」
「いや、確かに代替わりはしたが、それほど昔の話ではないぞ?」
「そうよ。表面上は剣を収めたけれど、今でもラーラを恨んでいる筈だわ」
「ですがそれは昔と言う程ではないのかも知れませんが、少なくともわたくしが生まれるよりも前の話ですよね?」
「え?」
「いや、確かにそうだが」
「このまま恨み続けても事態が変わらないのなら、変えられない過去は忘れて、より豊かな未来を手にしようとするのではないでしょうか?」
リートもセリもレントの言葉が、自分に対しての指摘をしている様に感じられた。
確かにラーラの誘拐が切っ掛けになって、コーカデス家は凋落した。しかし確かにラーラが直接コーカデス家に何かをした訳ではない。王冠の傷も当時の宰相の怪我も、ラーラの挑発があったのかも知れないけれど、ラーラは直接は手を出してはいない。
ましてやミリはレントと同じく、まだ生まれてもいなかった。
ミリは確かに優秀なのだろう。レントも優秀だが、そのレントがミリを認めているのだ。国王や王妃や王太子のミリへの評価も、正当なものなのかも知れない。
それならば、母親のラーラとの因縁を持ち出して、娘のミリを忌避するのは悪手かも知れない。
言葉を継げないリートとセリの様子に、レントは説得の成功に向けての自信を持った。
「そのミリ様に付いてですが、ミリ様からアドバイスを受けた貴族達が、関係を深めようとしたり、囲い込もうとしたりする事は明らかなのではないでしょうか?」
「・・・そう、ね」
「自分達の都合の好い様に、使おうとはするだろうな」
「でも、囲い込もうだなんて、ミリにはコードナ侯爵家とコーハナル侯爵家が付いているのだから、無理なのではない?」
「そうだな。両家がみすみす好い様にはさせておかないだろう」
セリとリートの意見にレントが「いいえ」と、自信を持って首を左右に振る。
「縁談を持ち掛ければ、ミリ様の囲い込みは可能です」
「なに?」
「なんですって?」
三度、リートとセリは目を見開いた。




