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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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寝不足の朝

 ミリはいつもと違い、なかなか寝付けなかった。疲れてはいるし、目は開けていられないのだけれど、目を閉じると色々な事が頭に浮かんで来て、眠りに入るのを邪魔されてしまう。

 ようやく寝入った後も眠りは浅く、夜中に何度も目を覚ました。そして朝も早くに目を覚ます。

 まだ使用人達も寝ている筈なので、起き出しては迷惑を掛けてしまう。それなのでミリは横になったまま、起きても良い時間が来るのを待った。


 興奮し過ぎたのかも知れないと、ミリは自分の状態を分析する。普段は昨日ほど頭を使う事がミリにはなかった。

 助産院や治療院での手伝いでは、神経を使って集中する事はあるけれど、トラブルが起きても現状把握と対処法を思い出す事が主で、新たに何かを考え出す事はない。ミリはまだ助手の立場なので、思い付きで何かをしてしまうのは危険だからだ。

 投資にしても、得られた情報から価値の上下を予測するだけだ。新しい情報を予測に組み込む時には頭を使うけれど、それでも価値が上がるか下がるかの選択肢しかないので、ミリが疲労を感じる程ではない。

 近いのは広場で子供達と遊ぶ時だろうか?あの時の疲労感に似ている様にミリには思えた。しかし広場での遊びには肉体の疲労も伴う。それなのでミリは、眠れなくなる経験などした事はなかった。



 ミリは目を瞑り、ラーラの言葉を思い出していた。


 レントがミリとの交際練習を望む理由は、バルとラーラからの出資を求める切っ掛けを得る為ではないのだとしたら、他に何があるのだろう?

 他家からの縁談を断る為と言うのは分かるけれど、それならミリにプロポーズの真似事をすると言うのは、リスクが大き過ぎる。

 レントは将来、結婚をしなければならない。結婚をして子供を儲けて跡を嗣がせなければならない。

 たとえ振りだけでもミリにプロポーズなどしたら、レントの妻となる女性は自分とミリとを比較してしまうだろう。そして夫の気持ちを疑い続ける事になるのではないのか?

 レントの結婚が政略に拠るものだとしても、それなら尚更、夫婦間の信頼関係構築に、ミリへプロポーズしていた事が弊害となる筈だ。

 その様な事がレントに分からないとはミリには思えなかった。


 ミリからの投資を引き出す為にミリとの交流を深めるのが狙いかとも思ったけれど、ラーラの指摘通り、それならミリの時間を交際練習に使わせるよりは、ミリに投資問題に注力させた方がコーカデス領の利益に繋がるだろう。

 効率を求めるのなら、ミリには投資に専念させて、レントに交際練習が必要なら他の令嬢と行うべきだ。

 確かに降爵したコーカデス家を相手にする家は少ないだろうし、そもそも交流のあった家とも縁が切れてしまっている。頼る相手がいないのかも知れない。

 ミリとは一緒にコーカデス領の視察をした仲だし、面識のない相手に交際練習を申し込むよりは頼み易いだろう。しかしだからと言って、効率を捨ててまで、交際練習の相手にミリを選ぶなどあるのだろうか?

 レントの最重要課題は、コーカデス領の再興なのではないのか?



 邸の中に人の気配がし出したので、ミリはベッドから出た。ガウンを纏って廊下に出て、ディリオの部屋を目指す。


 寝ているディリオの顔を見る事で、ミリの気持ちは落ち着いた。

 眠れなかったのはディリオ分が足りなかったから。

 そう結論付けたミリはディリオのベッド脇に両膝を付いて、上半身をベッドに俯せて、自分の顔をディリオの顔の隣に置いた。


 ディリオに指先を握らせて、ディリオの手のひらの温かさを確かめていたらミリはいつの間にか眠ってしまっていて、コードナ家の朝食に遅れると言われて起こされた。



 いつもより少しだけ遅れて、ミリはコーハナル侯爵邸からコードナ邸に向かう。

 道ながら、あそこを曲がって行けばレント達の宿だ、などと考えていたら、その曲がり角から三頭の馬が現れて、その馬に乗る中の一人が子供で、その子供がレントだとミリは気付いた。

 レントもミリに気付いて馬を停め、ミリの馬が進んで来るのを待った。


「おはようございます、レント殿」

「おはようございます、ミリ様」

「お散歩ですか?」


 そう尋ねてから始めてミリは、散歩にしてはレントの装備が重い事に気付く。馬に積まれた荷物も多い。


「いいえ。これから領地に戻ります」

「こんなに早くですか?」

「ええ。少しでも早く領地に戻り、祖父母を説得して来ます」


 そう言ってレントはミリに笑顔を向けた。

 レントの言葉と表情に、レントの本心が分からず、ミリの気分が少し下がる。しかしこれから王都を発つレントに、景気の悪い表情を見せては縁起が悪い。そう考えてラーラもレントに笑みを返す。


「朝食はもう摂られたのですか?」

「いいえ」

「え?」


 訊いておきながら、レントが朝食を食べてはいないとは思っていなかったミリは驚いた。


「食べずに行くのですか?」

「宿の朝食がまだ用意出来ていないそうなので、その代わりに昼食を早めに摂ります」


 ミリは心配だった。学年なら一つ上に当たるレントはミリより小さいし、初めて会った時に比べたら肉が付いてきてはいたけれどまだまだ細い。


「わたくしはこれから朝食ですので、よろしければ一緒にいかがですか?」


 その言葉は無意識にミリの口から出た。言ってから、コードナ家が朝食に突然の客を迎えても大丈夫な事とか、両親もレントの同席を許すだろう事とか、レントを招いても問題ない事をミリは頭の中で確認していく。


「ありがとうございます。しかしお招きに応じてしまいますと、領地への到着が一日遅くなりそうです」

「そうなのですか?」

「はい。祖父母を説得しましたら直ぐに戻って参りますので、その節にはまた、御相伴に(あずか)る機会を頂けたらと思います」


 そう言って優しく微笑むレントを見て、誘いを断られた事に自分がそこそこショックを受けている事をミリは自覚した。


「リリ殿は一緒ではないのですね?」

「はい。叔母も今日には王都を発ちますが、馬車での移動ですので、別々に帰る事にしています」

「そうですか」

「ミリ様?」

「はい、レント殿」

「わたくしは直ぐに戻って参りますので」


 そう言われて、自分は表情に寂しさでも浮かばせていたのかと、ミリは少し慌てる。そして、レントには何と応えたら良いのか、咄嗟に頭が回らなかった。


「お待ちしています」


 そう言ってしまってからミリは、なんだか自分がレントに交際練習を申し込まれるのを待っている様に受け取られる事に気付いたけれど、もう言ってしまっているから手遅れである事も、レントの嬉しそうな表情からも分かっていた。


 これは寝不足の所為。

 ミリは自分にそう言い聞かせ、もしレントにもそう受け取られていて何かを言われたら、その時もそう言い訳しようと考える。

 しかし、それが言い訳として通用する様には、この場のミリにも思えなかった。

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