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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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償えない罪

「キロとミリが私の所為で犠牲になって、けれど皆に悪いのは犯人達で私ではないって言って貰っているけれど、それでも私が巻き込まなければ、キロもミリも死ななかった。

 捕まえた犯人達には罪を償わせたけれど、そんな事をしても二人は戻って来ない。でもだからって犯人達の命も奪ってやるって言う風には思えない。それより二人を返して欲しいって今でも思う。犯人達は今でも憎いけれど、でもキロとミリがいない寂しさの方が強いの。

 でもね?その寂しさをバルは私に忘れさせてくれる」

「ミリもだろう?」

「ミリ?・・・そうね。ミリもね。二人が寂しさを忘れさせてくれて、でもだからって寂しさがなくなって、憎しみだけが私に残る訳じゃない。寂しさの代わりに私は幸せを感じているわ」

「ラーラに幸せを感じさせる事が俺に出来ているなら、ラーラ、俺は幸せだ」

「ええ。私も幸せだし、それはバルのお陰よ・・・でもね?・・・でも、私は罪を償えていない」


 罪なんてないと言いたい。しかしその言葉はラーラに届かないとバルは分かっていた。それを言ってしまえば、ラーラの心の蓋がまた閉まる。

 一緒に罪を償おうとも思う。しかしそれはわざわざラーラに言う事ではない。もしかしたらそう口にする事で、ラーラの気持ちを軽く出来るかも知れない。けれども今日までラーラの嫉妬も劣等感も気付かずにいた自分がそう言う事で、ラーラに変な気を遣わせてしまうかも知れない。バルが罪を意識しない様に、ラーラが気持ちを隠してしまう様にバルには思えた。


「ラーラ」


 言うべき言葉が何も思い付かなかったバルは、ラーラの名をただ呟くだけで精一杯だった。


「それなのに私は、キロとミリへの罪を償えていないだけではなくて、今も罪を重ねている」

「え?」

「バルに愛して貰って、とても良くして貰っているのに、私はバルにちゃんと返せていない」

「いいや、ラーラ?ラーラはもちろん、俺を愛してくれているだろう?」

「ええ、もちろんよ、バル。愛しているわ」

「ああ。ちゃんと気持ちをくれているじゃないか?」

「それは私でなくても良いでしょう?」

「・・・え?」

「あっ!もちろん他の人に譲る気なんてないわよ?バルの妻の地位を他の誰かになんて譲れないわ」

「・・・良かった」

「でもね?それが私の罪なのよ」

「・・・俺を愛してくれている事が罪だって言うのか?」

「ううん。バルを愛している事を言い訳にして、バルの妻の座を人に譲らず、それなのに妻の役割を果たしていない事。それは罪でしょう?」

「俺は誰にもラーラを渡す気はなかったから結婚しただけで、それこそ二人きりでの島暮らしの夢が叶うなら、別に婚姻なんかしなくても良かった。この現実の世界でラーラを俺のものにする為に結婚したんだ。ラーラが妻だから俺は夫をやっている訳じゃない。ラーラを独り占めする手段として俺はラーラの夫をやっているんだ」

「・・・それはつまり、私は妻の役目を果たせていないって事よね?」

「え?なんで?違うだろう?俺はラーラが俺のものになってくれさえすれば良いんだ。俺の気持ちを受け止めてくれさえすれば、妻ではなくてもいい。一緒にいて欲しいし、俺の事だけを考えて欲しい。それさえしてくれれば妻としての役割なんか」

「でも!・・・でもね?バルと私が出会わなければ、バルは普通の旦那さんと同じ様に奥さんを愛する事が出来たのよ?」

「普通なんかいらないだろう?俺が欲しいのはラーラだけだ」

「・・・じゃあバル?訊くけれど、もしも私が誘拐されていなかったら、私とは結婚しなかった?」

「・・・うん?結婚しなかった?」

「ええ」

「誘拐されたから結婚した訳ではないよ?俺はラーラが誘拐される前から、ラーラにプロポーズ出来る様に祖父(じい)様に相談していたんだよ?」

「それは聞いているけれど」

「プロポーズってラーラと結婚したいからだし、ラーラが誘拐されていなくても、時間は掛かったかも知れないけれど、もちろんプロポーズしたし結婚して貰う積もりだったよ」

「もしそうだったら、私とは普通の夫婦になっていた?」

「普通?」

「ええ」

「普通って?」

「普通に男女の関係を持つ、子供が生まれる行為をする夫婦」

「それは、まあ、そうだとは思うけれど・・・」

「だからつまりバルも、夫婦ならそう言う行為をするのが当然だと思っていたのよね?」

「理由がない限りは、まあ、そうだろうけれど・・・」

「でも私とバルは男女の関係ではないわよね?」

「それは、うん」

「それはもちろんバルの所為ではないわよね?」

「いや、待ってくれ」

「私の所為でしょう?」

「俺はラーラとの今の関係に納得しているのだから、これは俺の選択だよ」

「私の所為よ」

「違うだろう?俺に取っては男女の行為よりも、ラーラの事の方が大事だったんだよ。もちろん今でも大事だし」

「でもバルは他の女性ともしていないでしょう?」

「当たり前じゃないか!」

「私はバルとしないだけではなくて、バルにさせなくしているのも私よね?」

「俺が他の女とそう言う事、したいと思う?」

「バルは思っていないと思っているけれど、そう思わせているのは私でしょう?」

「そう言う意味では、まあ、そうではあるけれど、でもそれは、俺に取ってラーラの方が大切だからだよ?」

「分かっているの。バルが私を大切にしてくれている事は、分かっているし信じている。でも、私が妻の役目を果たしていないのは、偏に私の所為よね?」

「だから、俺はラーラに妻の役目を果たして欲しい訳ではなくて、ラーラに俺のものになって欲しいだけなんだよ。それはラーラに伝わっていない?」

「分かっているわ」

「それなら」

「分かっているけれど、でも、私の体が汚れていなければ、バルは私とそう言う事をしたでしょう?」

「・・・俺はラーラが汚れているなんて思ってないぞ?」

「知っている。分かっているの。でもそうでしょう?」

「・・・ラーラ」

「だって、私が誘拐されていなかったら、私と普通の夫婦になって、当然私は妻の務めを果たせていたのだもの」


 普通とか当然とか、そう言う事ではないんだとバルは言いたかった。

 ラーラを唯一無二だと思っている。ラーラさえいれば、この世にラーラと二人きりでも構わない。

 けれどこの場ではそう口にする事にバルの望む効果がない上に、その言葉がラーラの蓋を閉じさせてしまう気がしていた。

 今はその蓋がかなり開いている。このままラーラの気持ちをバルは探り続けたい。

 その為にはどうすれば良いのか、バルは必死に、次に言うべき言葉を探した。

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