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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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解釈の違いと気持ちの違い

 ラーラは嫉妬の種に付いて話しているけれど、それが少しもバルに伝わっていない様に感じてしまい、だんだんと不安が募って来る。少なくともバルは、ラーラの話に共感をしている様にはラーラには見えなかった。


「それで?」


 バルが先を促して来るけれど、話し続けてもバルに理解される感じがラーラにはしない。

 しかしそれなら却ってバルが望む様に、言いたい事を口にし続けても構わないのかも知れない、とラーラは考える事にした。


「諦められない男の話をしていたのは覚えている?」


 ラーラに問われ、バルは首を傾げる。


「リリ殿が?」

「うん。諦められない男を好きになるなんて、頭が弱いか心が幼い女だって」

「ああ、言っていたな」

「諦められない男って、バルの事でしょう?」

「え?俺?」

「それはそうでしょう?」

「つまりラーラの事を馬鹿にしていたのか?」


 バルが顔を蹙めるのを感じて、ラーラは少し呆れた。


「それはそうでしょう?そう思わなかったの?」

「いや、でも、ラーラは賢いし、気持ちも強いから、まさかラーラの事を言っているとは思わないじゃないか?的外れだろう?他の人の事なのでは?」

「そんな事はないと思うけれど、あるいは自分は違うって言いたかったのかもね?」

「自分はってリリ殿が違うって言う事?」

「ええ。バルに何度もアプローチされても、リリ・コーカデス殿はバルを好きにならなかったと言いたかったのではない?」

「・・・何故?」

「え?何故?」

「ああ。何故わざわざその様な事を言ったとラーラは思うんだ?」

「何故って・・・」

「確かに子供の時にはリリ殿に毎日交際を求めていたけれど、リリ殿が俺を好きにならなかったのは周知の事実だから、今になってわざわざ言葉にする必要はないだろう?」


 ラーラはリリがバルからアプローチを受ける事に付いて、満更でもなかった様子だと聞いていたけれど、それに気付いていなそうなバルに対して、わざわざその事を伝える積もりはラーラにはない。


「そうね。もしかしたら、他の誰かの事のたとえだったのかもね」

「ああ。そうとしか思えないよ」


 そのバルの判断が、リリに対する好意から生まれている様にも考えられて、ラーラの胸がチクリと痛む。そして少し意地悪な気持ちが浮かんだ。


「そうすると、お金に目の眩んだ女とか、回りに流されて自分では判断できない女とかも、私を指していないって事ね?」

「それはそうだろう?ラーラはお金に困ってなんかいないし、投資にしろなんにしろ、自分の意見をきっちりと持っているじゃないか」


 どうやらバルの判断基準が、リリへの好意ではなくラーラへの高い評価が原因に思えなくもなくて、ラーラは自分がバルに意地悪を自覚しながら言ってしまった事に怯む。

 その為、ラーラの意地悪の向きがリリに向いて、バルの口からリリは悪者であると言わせたくなってしまった。


「レント殿がプロポーズをしているミリを貶める女って、覚えている?」

「その様な事をリリ殿は言っていたな」

「あれは私の事ではない?」

「え?ラーラの?」

「バルはリリ・コーカデス殿にアプローチしていたのに、そのバルと結婚した私を当て擦っているのでしょう?」

「違うだろう?ラーラには俺からプロポーズしたのだし」

「だからそのプロポーズをバルがする様に、私が仕向けたって言いたいのではない?」

「俺はラーラに一目惚れで、会う度にラーラへの好意を強めて行ったんだよ?プロポーズしたのはラーラを失う事への怖れからだったし、それらが俺の意思ではなく、ラーラの謀だったと言うのか?」


 バルが小首を傾げる。


「ええ、そう言う指摘よね?」

「まあ、実際にラーラが俺を自分のものにしようと何かをしたとしても、しなかったとしても、結果は変わらなかったのだから、どっちでも良いんじゃないか?」


 ラーラは顔を蹙めた。


「どっちでも良いは、ないんじゃない?」

「確かに、ラーラが俺を自分のものにしようとして、色々と画策していたなんて、嬉しいけれど」

「え?・・・あ、うん」


 ラーラはバルが自分と結婚する為に、バルの祖父の当時のコードナ侯爵と相談を進めていた事を思い出して、バルの言葉に少し照れた。


「けれど、俺はラーラが好きだったのだから、貶めるって言う表現は当てはまらないよ」


 ラーラが訴えたい事が、どうにもバルには上手く伝わらない。



「悲劇のヒロインを気取っていると言うのも、私の事を指していたでしょう?」

「悲劇は事実じゃないか。俺はラーラを救い出すヒーローになりたいと、今もいつも思っている」


 バルの言葉は嬉しいけれど、ラーラが言いたいのはそこではない。


「バルとリリ・コーカデス殿は、お茶を飲むのも息ぴったりだったし、表情も良くシンクロしていたわ」

「え?そうか?」

「ええ。それって幼馴染みとして、長い時間を共に過ごして来たからじゃないの?」

「それはあるかも知れないけれど、でも、一緒に過ごした時間はラーラの方が断然長いし」

「知り合ってからの期間は、リリ・コーカデス殿との方が長いじゃない」

「それは、先に知り合ったから、そうなるけれど、こうやって一緒にいる様な時間はリリ殿とはそれほど長くはない。他の誰と比べても、ラーラと過ごす時間が圧倒的に長いよ。密度の濃さもね?」


 ラーラはバルを疑っている訳ではない。ただ意地悪な気持ちから、リリを否定する言葉をバルの口から聞きたいだけだ。


「リリ・コーカデス殿は私の誘拐と無関係ってミリが言った時、バルはホッとした顔をしていたわ」

「え?それはリリ殿の前で?」

「いいえ。二人が帰ってからミリが言っていたじゃない?」

「あの時か・・・いや、駄目だ。ミリが言ったのは覚えているけれど、その時自分が何を思ったのかは思い出せない」

「それにリリ・コーカデス殿が受け入れればバルと婚約をさせたと言う話」

「いや、あれは知らなかったよ?初耳だったし」

「でもそれにリート・コーカデス殿が反対していたと聞いて、バルは驚いていたじゃない?」

「驚いた?」

「ええ」

「・・・何に驚いたんだろう?」


 反対された事に驚く以外、何があるのかとラーラは思った。


「リート・コーカデス殿とセリ・コーカデス殿が、リリ・コーカデス殿の交際練習相手を探していたと聞いた時も、バルは驚いていたわよね?」

「ああ」


 ラーラからすると、バルとリリとの交際をコーカデス家は賛成していたと、バルは思っていたと受け取っていた。だからリリにバル以外の交際練習相手を探した事に、バルは驚いたのだとラーラは考えていたのだ。

 それなのでバルが肯くと、ラーラの考えが肯定されたと思えて、またラーラの胸がチクリと痛む。

 自分が誘導してバルに突き付けたのだけれど、ラーラはバルに否定して欲しかった。


「リリ殿は交際練習を否定していたかと思っていたから」

「え?そうなの?」

「ああ。後から聞いた話で詳しくはないのだけれど、リリ殿の姉のチェチェ殿は交際練習をしていたらしくて、それが切っ掛けでハクマーバ伯爵家に嫁いだ筈だから、チェチェ殿にさせてリリ殿にさせないのは、リリ殿は否定的だったんだろうと思っていたんだ」

「それって、バルの事があったから?」

「そうだな」


 ラーラの胸がきゅうっと痛む。


「俺があまりにもしつこく付き合って欲しいと迫ったから、交際自体に嫌悪感を抱かせたのだろう」

「え?」


 バルのピント外れとも思える言葉に、ラーラは目を見開いた。


「その所為でリリ殿の人生を変えてしまっていたのなら、申し訳なくは思うけれど、コーカデス家がリリ殿の交際練習相手を探していたと言うのなら、それは余計な心配だったと言うことだよな?」


 バルの答えはラーラの想定とは全く違ったけれど、そう言うバルの声の調子と目元の表情で、バルが本心で言っている様にラーラには感じられた。

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